第二章『きらきらひかる夏休み』 ①②


 たちまち聞こえてきたシャワーの音。

 わたしはおおきく体全体で深呼吸をする。

「恋〜! クレンジングあるー?」

 でもその深呼吸は可絵の声によって中断されて、最後まで吐ききることができなかった。

「えっとー、ちょっと待ってな」

 ふだんはボディーソープで顔まで洗っていた。メイクはほとんどしないし、母親が使っているクレンジングはどこだったかなぁと、洗面台の下を探る。「あった。ここに置いておいていい?」

「恋、目にシャンプー入って開けられへん。なにこのシャンプーめっちゃ痛い」

 目にシャンプーが入ったことはなかったので、可絵が騒いでいる意味が分からなかったけれど、よくよく聞いてみるとそれは、父親のシーブリーズのシャンプーだった。

 わたしは笑いが止まらなくて、そのたび可絵が怒るのでごめんごめんと謝った。そして目を洗っている可絵に、ドアを開けてからクレンジングを渡した。

「恋も入り」

 可絵が言った。

「ほら、お湯溜めておくから」

 やっぱり自分の家のように言うので、可笑しくて、「うん」、ようやっと素直にそう言う。


 二人で入る湯船は、きちんと“使っている”、そんな気がした。比べたことはないけれど、ほかの湯船よりきっと広めであろうそれは、たまに浸かると隙間がたくさんあって、心許ない気持ちになるのだった。

 でも今は、ぴったりおさまっている。

 体と、体。なんだか箱に整理整頓されているみたいなわたしたち。全体的に真っ白のお風呂というのもその感じを手伝っているようだった。

「マヂで痛かったから」

「ごめん、それ恋も使ったことない」

 わたしはまだ笑いが止まらなくて、お湯を叩く。そのたび水滴が飛ぶ。「恋も、これ味わってみ」父親のシャンプーを手に取って、可絵が湯船に容赦なく入れる。何度も押されるポンプ。「ちょ、無くなるやん」とは言いつつも、だからなんだ、帰ってこないのだから、と全然足りない仕返しのように思う。

 たちまち体がスースーしてきて、冷えピタを貼っているような、氷に触れているような、「なにこれ」わたしは言った、「やばない?」と可絵も笑う。

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