第二章『きらきらひかる夏休み』 ⑩
「わー、可愛いー」
思わず言葉がもれる。わたしの肌はまっしろで、母親の遺伝なのだけれど、それがずっとコンプレックスだった。まっすぐの髪の毛と同じく、褒めてくれる子も多かったけれど、そばかすや、同じく遺伝である濃い体毛は目立ったし、それを気にしてカミソリで毎日剃るのも荒れるしで、雪女みたい、と陰でからかわれていたのも決定打だった。
だけど、つけられたミサンガを見ると、腕のカミソリ負けも、目立たない気がした。
なにより可絵のあふれんばかりのパワーが、腕にやどったようだった。
「すっごく気に入った。ありがとう」
何度も言うから、可絵は照れてわたしの膝をバシッとたたく--「大袈裟やなぁ。そんな喜ぶんやったら、もう片方の手にも、足にも作ったるわ」「うそやん」「うそやけど」「うそかい」そんなやりとりをして笑い合った。
そして可絵はもうひとつミサンガを取り出して自分の腕にもつけた。ほつれ方や間違えた箇所が違っているけれど、同じ色合いで、そんな可絵の腕をちらちら見るたび口元を上げたくなるのをこらえる。
「これって、いつか取れるん?」
素直に疑問に思って、聞いた。
「そりゃ、いつかは取れるんちゃう。“いつ”かは、分からんけど、でも一応、キツく結んだで。どっかほどけてる?」
「ううん、取れへんかったらいいなぁって」
「取れたらまた作ったるやん」
そう可絵は言ってくれたけど、そうか、取れたら、また作って欲しい、そうじゃなくて、今日のこの思いが、題名を未だつけられないうれしさが、取れてほしくないのだなぁとガレージに落ちていた石ころをつまさきで蹴りながら思う。
すると、「うわ最悪、ここやぶけてる」と、可絵が言ったから、ああ、さっさくミサンガがするするほどけてしまうのかと思ったら、それはバイトのTシャツのことだった。
脇のところによく見るとちいさな穴が開いている。「ほんまや」わたしはその穴をつつく。
「つまりな、恋、なんでも永遠なんてものはないってことやな。このTシャツもまだあとちょっとは着られるけど、そのうち穴広がるし、縫うのもなぁ、ミサンガは作るの楽しいけどこれはなぁ、また買わなあかんなぁ、バイトでもらったんやけどさぁ、二枚目は買わなあかんって、誰か言ってたような……」
ぶつぶつ言う可絵。
「永遠はないのかぁ」
「あ、あかんで恋、また考え事の国から出てこぉへん気やろ。はい、3、2、1」
0、のタイミングで目の前でパチン! と手を叩かれる。
「ほらっ、行こう。遊ぶ時間短くなるで」
「うん」
可絵の呼ぶ考え事の国に入るのはひとまず延期して、お尻の小石をはらいながら、立ち上がる。
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