第二章『きらきらひかる夏休み』 ④


「可絵、うちに遊びにこーへん?」

 とっさに口から出た言葉。可絵はお腹が空いていて、家にご馳走があるわけでもないのに気付けばそう言っていた。

「え、いいのー? 行ってみたい。恋の家、初めてやし」

 可絵が乗り気ではなかったらすぐ訂正しようと思ったのだけれど、「ここから近いんやっけ?」「親、今おらんのー?」と質問責めである。

「うん、誰もおらん。二人でのんびりしようさ」

 わたしは言った。

 “二人でのんびり”。そう言葉にしてみたとたん、なんだか心の奥底からむくむくと楽しみな気持ちがわきあがってきた。

「じゃあさ、ご飯とお菓子と、いっぱい買って帰ろう。今日、恋、お金あるから」

 父親が置いていったお金がポケットの財布に入っている。右手でそのあたりをそっとさわる。

「じゃあご馳走してもらおうかなー?」

 可絵が言った。

「うん。いつもジュースおごってくれるから、今日は恋に任せて」

 二人でコンビニのドアをくぐる。曲が流れる。

「可絵、なに食べる?」

 そう聞くとさっきまで後ろにいたはずの可絵はもうお弁当のコーナーにいる。

「うちこれしよーっ」

 手に取っていたのはロコモコ丼だった。

「え、美味しそう。恋も真似する」

 さっき補充したばかりなのか、お弁当の種類は豊富なのに即決したわたしたち。

「ポップコーンも食べよう。あとはー、アイスカフェラテと……」

 籠に入れていると雑誌コーナーにいた可絵が戻ってきてわたしの腕に手を絡ませてきた。

「なんか、うちら家族みたい」

「え?」

「いや、違うな、カップルみたいやん」

 そんなふうに言われてみると、これから“帰る”ということも、“食べる”ということも、“玄関で靴を脱ぐ”ということも違って見える気がした。

「カップルって、今どき言うの?」

 戸惑いを隠すように言ったけれど、「じゃあ、なんて言うんさ」とすかさず突っ込まれるもなにも出てこない。しばらく悩んだ後「恋人、とか……」とつぶやく。でもそれじゃ、“ふつう”過ぎるか。“ふつう”だなんて可絵の口癖と同じ。などと考えていたら「恋! なにボーッとしてんの。うち、ちょっと電話してくるわ」--さっさと可絵は再び曲の流れるドアを押し開けてコンビニを出て行ってしまったのだった。




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