第二章『きらきらひかる夏休み』 ③


 時間になって、可絵に電話をかける。本来なら、バイト終わりに可絵からかけてもらったほうが早いのだけど、なぜか「予定が終わったら電話するな」と、謎の見栄を張ってしまったのだった。

 結局、その予定という名の散歩は早々に終わって、可絵が出るのを待つ。一度目は出なかったので、もう一度かけた。

「恋、終わったでー。もう会える?」

「うん、大丈夫」

 可絵の溌剌とした声にちいさな見栄は大海の底に沈んでいった。

「じゃあ、向かうな」

「ありがとう」

 電話を切って鏡に映る自分を見た。髪は後ろの低い位置でお団子にして、モノトーンのボーダーのTシャツに、黒のスキニー。母親のお下がりのショルダーバッグを下げて、軽くチークとリップを塗る。仕上がった姿をもう一度見た瞬間、校則が厳しいのもあってか、ああ、夏休みだなあと今まで一番実感したのだった。


 待ち合わせたのは、可絵がバイトが始まるまで過ごしていた定番の場所、ファミレスのガレージ。

 車止めに座って待っているのは、一人だと怒られそうで花壇の淵に寄りかかっていたら、バスを降りて小走りでやってきた可絵。

「恋〜!」

「お疲れ、可絵」

 バイト終わりの可絵は、着替えるのが面倒だったらしく、お好み焼き屋のTシャツのままだった。背中にお店のロゴが大きくプリントされている。だけどそれが妙に似合っていて、おでこには汗が光っていて、体育祭のクラスTシャツを着ているように見えた。そして、マラソンのアンカーを務めてきたばかりというような。

「いつものところ、行こうさ」

 可絵の後をついて行く。

「夏休み、どれくらいバイト入るん?」

「まぁ、入れるときは入るかな。恋は? 用事、終わったん?」

「うん」

 なにかほかの話題を探すわたし。そうだ、とショルダーバッグの中をあさる。

「これ、お土産屋さんで買ったから、あげる」

「え、いいの、ありがとー」

 店の端っこで割引されていたポーチを可絵に渡す。売っている商品のほとんどはいかにもお土産、というような着物の柄や花柄だったりするのだけれど、値引きされていたそれはシンプルな黒に、金具とチャックはゴールドという使いやすい物だった。

「え、ふつうに可愛いやん、嬉しい、ありがとー恋」

 “ふつうに”というのが口癖の可絵に予想以上に喜んでもらえて、「恋も、おそろいで買った」とまったく同じ物を出して見せる。

「おそろい、そういえば初めてじゃない!?」

 チャックを開けたり閉めたりする可絵。

「そういえばそうかも」

 はしゃいでいると、車が何台も入ってきた。ふだんは客が少ない店なのだが、夏休みというのもあって混んできたようだった。

「そういえば今日なにするか、なにも決めてなかったな」

 わたしは言った。

「確かにー。うち、お腹すいたな」

 可絵がぽつりとつぶやく。

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