第二章『きらきらひかる夏休み』 ②


 サンダルを履いて手ぶらのままマンションを出る。

「こんにちはー」

 と隣の家のおばさんに声をかけられた。

「こんにちは」

 小さい頃はおばさんの家に遊びに行ったりもした。おばさんは一人で住んでいる。おばさんの家に家族写真らしきものがあったのを覚えているけれど、そのことについて聞いたことはない。おばさんに抱っこしてもらって、テレビを見ながらおやつを食べたっけ。だけど中学生くらいから、おばさんの胸の中に飛び込んでいくのが照れ臭くなった。そして今では、挨拶を交わすだけになってしまった。

 わたしが住んでいるのは観光地で、それも車を走らせたところにある、田舎の奥地などではなく、海外観光客が一番に選ぶような場所。

 夏休みに入ったのもあってか、一気に人が増えた街は歩くのも一苦労だ。

 方向音痴のわたしは、けれどたびたび道を聞かれることがあってそのたびしどろもどろになる。

 成績は悪くないのに英語はまったく話せないし、よく分からないジェスチャーをすれば冷や汗をかくのだった。

 暇つぶしにお土産屋さんに入った。

 レジの周りは会計待ちのお客さんでごった返している。中には大きなお菓子箱を五箱両手で積み重ねている人も。

 巾着やポーチ、小銭入れが置かれているスペースへ行く。

 手にとって一つひとつ、チャックを開けてみたり、紐をしばってみたり。

 昔から「入れ物」に目がないわたし。特にカバンや、今まさに手の中にあるちょっとした小物入れの類が大好物なのだった。

 中になにを入れて、どんなふうに整頓しようか考えていると心が静かに落ち着く。

 きっちり物が収まって、あるべき場所にある、という気がすると、胸の奥に抱えている行き場のない感情たちもしばらくは震えが止まる気がするのだった。

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