第二章『きらきらひかる夏休み』 ①


 太陽がカーテンのわずかな隙間から容赦なく差し込む夏休み初日、けれどわたしはその光を塞ぐためなんどもベッドからむくりと起き上がっては、閉めてを繰り返す。

 そうこうしているうちに、足を床に下ろしたときにはもう、時計の針は十二時を回っていた。

 昨夜、母親から電話があった。「ごめんな、もうすぐ落ち着くから」という言葉ばかり記憶に残っている。

 そう言われても、いったいなにが落ち着くのか、どんなふうにどこで、着地するのかわたしには見当もつかない。

 そして母親はこうも言っていた。

「もうすぐ落ち着くから、しばらくの間、帰れないかもしれん。お父さんがお金、置いておいてくれてるよな? それでご飯食べられる? スマホの料金もごめんな。請求書、お母さんが持ってるから、ちゃんと払うから、今日中には。それで、こんなふうになってること恋には申し訳ないけど、学校には内緒にしててくれる。もうすぐしたら、落ち着くから。だからそのときは、恋とお母さんと二人で、どこでも行こう」--と。

「うん、うん」と合間に挟んでいたわたしの声はけれど、母親に届いていたのかどうか。それくらい、息継ぎなしに話すので、聞いているこっちが苦しくなってくるのだった。

「ほら、可絵ちゃんと、どこか遊んできたら? 好きなもの買っていいから。な?」

 やり取りを思い出しながら、充電しておいたスマホをタップする。そして可絵に「やっほー」とメールを送ってみた。一向に既読がつかない画面を人差し指でそっとこする。まだ料金が払われていないことは一目瞭然だった。

 可絵のバイトは、夕方まで。

 時間が近付いてきたら、電話をかけることになっている。

 それまでの間、なにしよう。

 とりあえずいつものようにテレビを付けて、音量を消した。

 冷蔵庫から牛乳とアイスコーヒーを出してきてコップに半分ずつそそぐ。

 賞味期限が二日過ぎていたけど、ぐびっと飲むと、電話の会話がアイスカフェラテのブラウンで消されて、口の中の苦味は無理にでも、新しい一日を表しているようだった。

 ベランダの窓を開ける。カラカラと音がする。

 昼過ぎのぬるい空気が頬を撫でる。

 動きやすい服に着替えて、少し歩くことにした。

 

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