第一章『夏休みまであとすこし』 ⑤


 可絵とは、高校に入学してすぐ友達になった。まだ教室の雰囲気も定まっていなかった頃、空気を読まずさっそく行われたグループ決めで--それは遠足の為だったけれど--行き先が発表されてもなお一人残らず上の空で、教室中をチラチラと視線が行き交った。

(誰と組もう。どの集団に入ろう。入らないでおこう……。)

 そんな思惑がそれぞれの頭上を行き交って、たちまち濁った空気。

 特に入学してすぐ風邪をこじらせたわたしは、一週間ちょっと休んだのもあって、どこにも属せずにいた。ほとんどの顔と名前が一致しなかった。

 そんなわたしに可絵は迷うことなく声をかけてくれた。「なぁ、うちと組もうや」と言って、それは問いかけではなくまるで大昔から決まっていたかのような口調だったので「わたし? わたしと?」なんて、ほかに誰もいないのに指をさして確認してしまったのを思い出す。


 授業が終わって、可絵と肩を並べて校門へ向かう。

 可絵は右側、わたしは左側。特に決めたわけじゃないけど、気付けばそうなっている。

 校門までの長い坂を歩くたび、可絵の高い位置で結んだポニーテールが揺れる。

 それを見ながら、思わずわたしは自分の髪を触った。小人数人が毎日下へ、下へと引っ張っているかのように、真っ直ぐで、漆黒の髪。よく褒められるところだったし、癖毛の可絵からも「こんな髪、きれいやったらなー、毎日セット楽やのになあ」と言われるけれどわたしからすると可絵のようにふわふわとして軽やかな雰囲気に憧れるのだった。

「恋、バイトまで今日もチョコ食べよ」

「うん。17時半からやろ?」

「そう。それまで、いい?」

「うん、いいよ」

「ありがとうー」

 お礼を言った可絵がわたしの右手に左手を絡ませる。

「恋、ほっそいなぁ。うちのお肉分けてあげたいわ」

「恋は、もっと太りたい」

 痩せっぽっちなことがコンプレックスなわたしは素直にそう言ったけれど「恋、そんなん言うたらみんなにしばかれんで」と、ピシャリと言い切られた。


 

 

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