第一章『夏休みまであとすこし』 ③


「バイトの連絡?」

 興味がなさそうに聞いたけど、ほんとうはすごく気になる。「え? あーそうそう、今日も代わりに入れるかって、店長から。すぐ休む大学生のやつがいるんやけどさ、今月で三回目。じゃあバイトすんなよ、ってな」

「へー。可絵、忙しくて疲れへん?」

 廊下を歩くわたしたちの足跡が響く。

「まー疲れるけど、働いてるほうが好きかな。それにお金貯めたいし」

「すごいな。恋はバイトなんてできる気しぃひん。使い物にならんくてクビになると思う。卒業したら、どうしよう」

「うちもミスばっかしてるで。この間も、おつり間違えて渡してしまって、店長とお客さんの家まで返しに行ってん」

「へぇ」

 お好み焼き屋で働いている可絵は、ほぼ毎日、学校が終わってからバイトへ行く。高校を入学してすぐ面接を受けていたから、よっぽど働きたかったのだろう。でも、働いている自分がまるで想像できないわたしは、可絵のことを凄いと思う反面、大人になんていつまでもなれる気がしないことに落ち込んでしまうのだった。


 体育はバレーボールだった。

「そこの二人、はよ来なさい」

 笛を吹いてから、先生が言った。

「ごめんごめん、芳恵よしえちゃん」

 名前で呼ぶ可絵は、怒られるどころか気に入られている。

 小学校の頃、スポーツ教室でバレーボールをしていたわたしは、セッターを任された。

 けれど、ほとんど経験のない生徒が多いのでアタックまで繋がらない。

「恋、すごいやん」

 そんなふうに言われてほんの少し舞い上がっていたわたし。でも、可絵が思いきりサーブを打って、それが相手コートのラインギリギリに落ちて拍手が起こったとき、胸がキリキリした。

「可絵、なんでもできすぎ。いいなー」

 試合が終わってストレッチをしながら言うと、「なんでもできるわけないやん。うちの成績知ってるやろ。三年に上がったのも奇跡やん。恋がおらんかったら、中退してたな」

 しみじみ言った。

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