第17話【ルゥンの決断】

「ルゥン、あなたはさっき〝生活〟の話しをしてたわよね。徐々に苦しくなっていってるって。だけどこの家に雇われて、一時的に生活の質が向上しても、わたしの代には没落は決定的ね、わたしには能力(錬金術)が無いわけだから」そうハッキリと告げた。


「もしかしてエリお嬢様はわたしを試しておられますか?」


「ええ、試しているわね。あなたはその時どうするのかって」


「いま〝〟とおっしゃいましたか」


「言ったわね」


「つまりいまは〝雇っていただける〟と、そういうことなのでしょうか?」


「そういうことね」


「不思議なご判断です。通常は『その時になっても』であるとか、そうした条件をつけるものではないでしょうか」


「いま口で調子がいいことを言われても、〝その時〟が来ないと分からないでしょ、人間なんて」


 ルゥンの次のことばまで僅かに間が空いた。

「いまのお言葉でわたしは確信を得ました。エリお嬢様にはなにか〝お考え〟があるはずです。この家を継いだ折り、お困りにならないような〝道〟を描いている」


「そうね、継いじゃったあと『こんなはずじゃなかった』というのは間が抜けてるわね。それを聞いて決めたいというわけね」


「それが『無双転生者』をこの家で雇う、ですか?」


「そう。〝力〟は無いよりはあった方がいいのは決まってる」


「では『無双転生者』がろくでなしだった場合、またはこの家のお抱えになることを拒否したときはどうなさいますか?」


「そのときは〝コネ〟ね」


「こね?」


「コネクションの略語だけど、言い方を変えて『手づるとして利用する縁故関係』と言い換えた方がいいのかしら?」


「異世界からやって来られたエリお嬢様に、この世界における縁故関係など無いはずですが」


「無いなら作ればいい。もうそのためのがもうできている。それがあなた」そう言いながらルゥンを指さした。


「わたしが〝縁故〟? 有力な一族というわけでもなく身よりもありませんが」


「あなたは『ギルド組合員』なんでしょ。仮にこの家に雇われてもギルド組合員は辞めないでいて欲しい。あなたの縁故は『ギルド』なの。あとはあなたのツテを辿ってわたしが縁故関係をギルドで作ってやるつもり。『公爵家』とやらの看板もこういうときには役に立つんじゃない?」


「それは、大いに目算があるかもしれません」


「でしょ?」


「解りました。わたしはエリお嬢様にお仕え申し上げたいと思います」


「なにそれ? 〝上げたい〟なの? 〝思います〟なの? そこ、明瞭なくらいの断定が欲しかったんだけど」


「フォーエンツオラン家ご当主様の意向がどうなるか分かりません。この家に雇われながらギルド組合員も続けるなど、〝忠誠〟を疑われる事態になるかもしれません」


「そんなことならわたしが言うことをきかせてみせる」


「……なんというか、エリお嬢様は大胆すぎます」


「こっちの立場が強いときは徹底的に強く行かないとね」


「はい!」

 この返事はなぜか少し力強かった。


「でもさ、『無双転生者』については諦めてはいないからね」


「まずなにをなさいますか?」


「ルゥン、その迷惑な『無双転生者』を見つけ出すことはできるかしら?」


「難しそうですね、でも魔物を狩っているはずですから、狩らんとするそのとき〝ある程度の距離〟にまで詰めていられればその存在を感じ取ることは可能です。そして一度でも見つけてしまえば、わたしは後は追い続けられます」


「ならルゥンこれで決まりってことでいいかしら。この家に雇われての初めてのお仕事はわたしの護衛なんかじゃなく、『無双転生者』の捜索と監視になるわね」


「承知しました。エリお嬢様、誠心誠意仕えさせていただきます」


「ところでその『エリお嬢様』ってのだけど、わたしこの際だからその名前、変えようと思ってるんだ」


「〝変える〟んですか?」ルゥンは不思議そうな顔でわたしの目を見つめてきた。

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