第16話【〝選択〟はあなたもね】

「エリお嬢様はこの世界を選択した、ということでしょうか?」

「そうよ」

 『いかれた判断』。そう言うしかない、客観的には。学校も家族もポイと捨てるとかおよそ正気じゃない。そんな〝道〟を選んでしまう理由はたぶんふたつ。


 目の前に面白そうな話しがあって、それなのに途中で降りてしまったらこの先の続きは〝永遠に謎のまま〟になる。

 そしていま本当に目の前に立っているこのルゥンというコ。年上に〝コ〟は失礼だけど女の子よね。この女の子は正直だ。誠実に接してくれている。いまはこの家に雇われた方が助かるのにわたしに跡取りになるよう勧めてこない。

 フォーエンツオランはすごくいいコを連れてきてくれた。わたしがこのお話しをここで断ってしまったらこのコともそこで永遠の別れ。あとで絶対後悔する。


 元の世界に、ここまでわたしを〝思ってくれる〟他人はいない。だからこう言う。


「わたしひとりじゃないし、異世界転生してきた『異世界仲間』がいるわけだし」


 ルゥンは小首をかしげ、

「そこは〝異世界転生してきた〟の間違いではないのですか?」と訊いてきた。


「もうわたしは〝〟のつもりだから。もう〝〟なの」


「それに『異世界仲間』とおっしゃいましたが本気で『無双転生者』をお雇いになるつもりですか?」


「そう。この家、お金ありそうだし、その点については問題無いでしょ」


「出してくれるんでしょうか?」


「事前に条件を出しておけばだいじょうぶ。それよりルゥン、『家粋かすい能力』って聞いたことはある?」


「代々家系に伝わる能力のことでしょう。特別な修練を積まずとも〝血筋〟によって発動することが可能な能力ということです」


「この、フォーエン……ツオラン家だっけ、この家の家粋かすい能力がなにかは知ってる?」


「『錬金術』です。有名な話しです」


 これは〝秘密〟でもなんでもないんだ。そう言えば〝言わないよう〟釘も刺されていない。

「その〝術〟、わたしに使えると思う?」


「使えるから〝跡継ぎに〟ということじゃないんですか?」


「いいえ」

 『わたしは錬金術が使える!』は基本嘘でしかないけど、若干程度はホント。でもきんを造れないのはまぎれもない事実。

「——このフォーエンツオラン家は跡取りがいないし、適当な者を跡取りとして押しつけられるよりは、当主自らが選びたかったとか、そんなところじゃないの?」

 これは完全にテキトーな嘘。

 僅かにルゥンの顔が硬直したように感じた。勘がいいのならそれは〝頭の良い〟証拠になるけど表情だけではね。

「そこでルゥン、あなたにも〝判断〟し、〝決断〟してもらう必要が出てきている」わたしはそう告げた。こういうのはハッキリ口に出して言っておかないと。その意図は『いいところに就職できてわたしの将来が明るくなった!』なんて見込み違いは間違ってもしないように、だ。

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