第15話【『無双転生者』召還】
「ルゥン、いまあなたは少し不思議な流れの話しをした」わたしは切り出した。
「と、言いますと?」
「わたしは『魔物』の話しをしたよね?」
「はい」
「『魔物が減っている』のならこの世界はより〝安全〟になっているってことで、だったらこの話しの流れで『元の世界に戻るか』なんて言い出すのはおかしくない? わたしが元の世界を選択した方がいい理由は一つしかないはず。このフォーエンツオラン家という家の跡取りなんてならない方がいいっていうこれだけのはずでしょ?」
「これは少し迂闊でした」
「いいえ。わたしの目線では〝迂闊〟でもなんでもない。むしろ正直。だからこの際あなたの知っていることを全部わたしに教えて欲しいんだけど。この家の公爵サマは〝跡取り〟以外の話しはしないし」
「〝全部〟というと非常にお話しが長くなってしまいます。思うにエリお嬢様は『魔物が減っている』のに『安全だ』という結論にならないのにご不審を抱かれているご様子」
こっちの疑問を的確に言い当てたよね。
「そういうことになるかしら」
「『無双転生者』がこの世界に既に召還されています。半年ほど前のことです」
「そんなのが本当にいるの⁈」思わず声が高くなってしまった。椅子から腰が半分浮いた。「——それで⁉」と即座に〝続き〟を促す。
「『それで』と言われましてもそれだけです」
???
「まったく話しが見えてこないんだけど」
「〝事実〟としてお話しできるのはここまで、ということです。この先は推測・憶測の域になります」
陰謀論的なナニカってことなの?
「わたしとしてはぜひ〝この先〟も、とお願いしたいんだけど」
ルゥンはまっすぐわたしの目を見ながら、しかし僅かに顔が曇った。なにか続きを口にする様子も無い。
「ねえ、もしわたしがここに残ると決めたならあなたは常にわたしの傍にいるんでしょ? わたしは〝あなたの考え〟が知りたいんだけど」とさらに畳み掛ける。
「分かりました、エリお嬢様。わたしの考えを述べさせていただきます。『無双転生者』が召還されるのはなにも今回が初めてというわけではありません。その時の『無双転生者』は正に無双ぶりを発揮し英雄的大活躍をしました」
「魔物のボス、魔王と対決したとか?」
「『魔王』まで来るとあくまで伝説の類いの話しですが。しかし無双転生者が英雄的活躍をしたということは逆に言うと『危機が予知されていたから無双転生者を召還した』とも言えるわけです」
「ならわたしの召還にもなにか他に意味があるんじゃ?」
「〝残念ながら〟と申し上げて良いのかどうかは分かりませんが、エリお嬢様の場合、『ステータス・オープン』しても明らかに〝普通の人〟でした。端的に言ってこのフォーエンツオラン家の事情以外に理由は無いのかと思います」
「……まあ、いいわ。じゃあその『召還士』とやらがナニカを知ってるってワケね」
「とはいっても『召還士』は身分的には上級の魔術師ですから、会おうと思っても簡単には会えません」
「じゃあさ、この『フォーエンツオラン家』の肩書きを使った場合は?」
「それは可能でしょう。何しろこうしてエリお嬢様が召還されています。ただなぜエリお嬢様を召還士が選んだのか、そこが解りませんが」
マズイ。選んだのは〝召還士〟とかいう人じゃなくてこの家の当主だ。この流れだと〝血筋〟の話しになりかねない。
「とは言え〝跡取り〟ってことになってるし、ならこの家の意向みたいなもんでしょ」
「それはこの世界に住むことを〝決めた〟という意味になるのですが」
「『無双転生者』ってのがどんなヤツなのか興味が出てきちゃったというか、同じ転生者だし、どこから来たのかってのもあるでしょ?」
「『無双転生者』が召還されたこと自体が〝不吉なことの起こる前触れ〟かもしれないというお話しをしたのですが」
「不吉だけど、このまま帰っちゃったらその後どうなったかが気にならない?」
「同意を求められてもお返事に困ります。わたしとしては〝興味〟よりは〝この後の生活〟です。今の状況は召還した『無双転生者』が魔物を狩りまくっているから、としか思えません。事実上これが〝ギルド全体の見立て〟です」
「ソイツ、無双なんだから街へ出てくればみんなからチヤホヤされるんじゃない? なんでずっと野宿してるの?」
「わたしは本人ではないのでなんとも。ただ確実なのは、街でなくとも暮らせる能力持ち、ということなのでしょう」
「ぼっちが好きなのかしら?」
「ぼっち?」
「そこはいいわ。要するにただでさえこの世界に〝居る〟こと自体が不吉な上に、迷惑行為までしているってことね」
「おっしゃるとおりです」
「ならさ、ひとつその問題解決の方法があるんだけど」
「ありますか?」
「その『無双転生者』をこの家で雇うの。手元に置いておけば迷惑行為をできないようにすることが可能なんじゃない?」
「本気ですか? 『無双転生者』は無双故にろくでなし、と古来そのように云われていますが」
「決めた」
「はい?」
「わたしはこの『フォーエンツオラン家』の跡取りになる」
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