第14話【選択肢】

「もしかしてエリお嬢様はご心配なのでしょうか?」ルゥンが確認を求めるように訊いてきた。


「それはそうでしょ。いつ人間が襲われるか知れたものじゃないんだから」こっちはそう言うしかない。だって〝魔物〟なんだから!


「確かに魔物は人にとって脅威ではありますが、そこまで考えるのも杞憂ではないかと思われます」


「そうかしら?」


「まず街の中に出ることはありません。常時結界が張ってあります。では街の外なら危ないのか、というと、ここ最近のことですが街の外へ出てもなかなか魔物と遭遇しません。ためにギルド組合員の生活がだんだんと苦しくなってきています」


「まるで魔物に出て欲しいみたいに聞こえるけど」


「はい。魔物を討伐することで懸賞金を獲得し、そうして暮らしを立てているのがわたしたちギルド組合員ですから、あまり出なくなっても困るわけです」


 なんだかなぁ、この世界の魔物って『ツキノワグマ』や『ヒグマ』みたいな扱いなんだろうか? けど散弾銃で倒せない熊はいないはず。一方で魔物にはランクってモンがあるんじゃないの? ザコとかラスボス近くとか。

「でも魔物なら強さもいろいろで、もの凄く強いのも出るんじゃないの?」


「そのための『ステータス・オープン』です。勝てそうもない戦闘は〝回避〟という選択をします」


 ……べつに〝みんなのために戦っている〟わけじゃないんだ。あぁっ、わたしのレベルが『1』だって分かったの、勝てるか勝てないかを見極めるって、こういう使い方するためだったんだ。


「けど一般人目線では全ての魔物が回避できたならそれは良いことよね、あなたたちにはお気の毒だけど」

 少し毒が入っちゃったけど。率直なところそう思っちゃうんだからしょうがない。


「確かにおっしゃる通りです。だからこそエリお嬢様はここに残るか、元の世界に戻るか、慎重に考えてお決めにならなければなりません」


 え? ええ? こういう展開は予想はしてなかった!


「えーと、あなたとしては、この家で働きたくないとかあるの?」


「わたし? わたしの気持ちですか?」


「そう。あなたの気持ち」


「不思議なことをおっしゃりますね」


「いいから。教えて」


「先ほど申しました通り、近頃魔物が出没しなくなりギルド組合員の生活は徐々にですが貧しくなり始めていてこの先に光明が見えません。そんな中、こうした名門貴族のお屋敷で雇っていただけるのでしたら、生活上助かるのは間違いありません」


「でもわたしが言うのもなんだけど、この家、〝ちょっと傾きかけてる〟的な噂話があるよね? ここで働いて将来はだいじょうぶなの?」


「それはいわゆる『後継者問題』ですね。そこまで来るとエリお嬢様のご決断次第ということになります。またいまのわたしにとっての最大の関心事は『将来』以前に『一ヶ月後の生活』です。よってわたしの方は無問題です。選択肢はこのわたしの手の中には無く、エリお嬢様の手の中にあるのです」


 そういうことなら、『ぜひここに留まって後継者に!』とか推してきそうなものだけど……

 待って! そう言えば『魔物』ってなんで急に数が減ったんだろう? もしかしてルゥンはなにかを知ってるんじゃ——

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