第12話【しなさだめ】
「でもその〝お嬢様〟ってのはちょっと馴染めないかも」と〝断り〟を入れると、
「失礼いたしました。直接お名前をお呼びしてよいのかどうか分からなかったものですから」と、変わらずソツが無い。この『ルゥン』って人は。
元の世界でウチは確かに並よりはお金持ちかもしれない。でも誰もわたしのことを『お嬢様』とは言わない。べつに呼んで欲しいわけじゃなくて、『じい』だとか『ばあや』だとか『家政婦』だとか雇ってないから。
「構わないわ、わたしの名前は、」
「ヤクショエリお嬢様ですね」
どうしてフルネームで来るかな? さてはフォーエンツオランさんの指示か。しかもあの人と違って発音がどこかおかしいからまるでわたしの名前が『ショエリ』になってしまったよう。そしたら名字が『ヤク』だし、合成麻薬か覚醒剤の売人みたくなってる。
「じゃあ『エリさん』でいいわ」と、そのようにした。そうしたら——
「では『エリお嬢様』とお呼びさせていただきます」
〝お嬢様〟にこだわるよね、年上の人にそう呼ばれるのちょっと居心地が。でもそう言いつけられているのならしかたない。
「わたしはあなたのことをなんと呼べばいいのかしら?」
「『ルゥン』で結構です」
——年上を呼び捨てかぁ。〝貴族気分〟を味わわせてわたしを取り込もうとしてるとか、あるのかな?
「じゃあルゥン、あなたがここへ呼ばれた理由は知っているかしら?」と訊いてみる。
出した条件は五つ。
・護衛ができる。
・頭が良い。
・女の子であること。
・歳はわたしと同程度。
・容姿もわたしと同程度。
「はい、ご当主様からだいたいのところは聞いています」
〝だいたい〟か。改めて我ながらムチャクチャな条件を出したと思う。
「率直にどう思ったかしら?」と少しだけイジワルそうな質問をしてみた。
「かなり厳しい条件かと」とのお返事。
特にドン引きの条件が『容姿』なんだろうな。〝顔が良いこと〟を公然と求めるなんて元の世界じゃ〝ルッキズム〟なんて言われるんだろうけど、めんどくさい嫉妬を受けるのもストレスが溜まる。『美少女』みたく言われても、芸能人になろうなんて思ってないし、特別いいことがあるわけじゃない。
もう少しだけこのルゥンに訊いてみたくなった。
「どの辺りが厳しく感じたのかしら?」
なんて言うのかしら?
「『護衛』のお役目以外は」
これは……、敢えて『護衛』と口にしている。
〝ダメなわたし〟なんてアピール、するつもりが無いってわけね、護衛には絶対的自信があるいっていう——
もしかして〝スゴくいいコ〟を連れてきてくれたのかもしれない。
「ごめんなさい。話しがどんどん横へ逸れてしまって、そうそう、『強さ』の話しをしていたんでしたね」
「そのようなお気遣いは無用です、エリお嬢様」
「でも『女の子で護衛ができる』というのもかなり難しい条件を出したと思うんだけど、そう言えばレベルが『521』って言ってたけど、それはかなり〝強い〟ということかしら?」
さあ、どういう返事が戻ってくるか——
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