第11話【『ルゥン』と申します】
ノックの音がすればもちろんここは『どうぞ』と言うしかない。わたしは椅子から立ち上がる。そうして、
「どうぞ中へ、」とわたしが言うとドアが開きその向こうにフォーエンツオランさんの姿。貴族家の当主は自らの手を動かさないものなのか、ドアを開けたメイドの人が〝すっ〟とフォーエンツオランさんの斜め後ろについた。
すごい、ホンモノのメイドさんだ。二人が部屋の中へと入ってくる。ドアがメイドさんによって閉められた。
「役所絵里さん、あなたのお眼鏡にかなうであろう者を連れてきましたよ」とフォーエンツオランさん。斜め後ろについていたメイドさんがフォーエンツオランさんの陰にならないよう立ち位置を変えた。
「お初にお目にかかります。『ルゥン』と申します」そう言ってメイドさんはスカートを両手でつまみお辞儀をした。切りそろえられた金髪も慣性のままにその動きに沿って揺れた。
顔が正面を向いた。
おかっぱ頭か——
髪を短くしておかなくちゃならない理由があるのね、きっと。もしそうならわたしの希望、『護衛ができる』ってのを容れてくれたわけだけど……
でもさすがに〝同じくらいの歳〟は無理だったか——わたしより少し〝年上〟のよう。
フォーエンツオランさんが口を開く。
「彼女は〝ギルド〟に籍を置いていてね、言わば〝お墨付き〟というわけだ。あとは合うか合わないかだが、そこはしばらく会話でもしていれば分かるんじゃないか」
『ギルド』? なんかソレ系の話しで聞いたことがある。なんかと戦うとか討伐するとかいうの。
「それはなんでも訊いていいということですか?」と尋ねる。
「そこは私は彼女じゃないからな、ルゥン、どうかね?」フォーエンツオランさんが確認を求める。
「なんでも訊いていただいて結構です」ルゥンというメイドの人は答えた。
「うん、ではそういうことなのでここは私は席を外した方がいいだろう」そう言い残しくるりと身体の向きを変えフォーエンツオランさんはこの部屋の出口の外へと——ここで、すっ、とまたも計ったようなタイミングでルゥンという人が動きドアの方へ。
「行ってらっしゃいませ」とフォーエンツオランさんを見送ったあと、閉めた。
万事ソツがない。『ギルド』って本来は中世ヨーロッパで始まった同業者組合のはず。そっち系の『ギルド』ならメイドばかりで構成された職業系ギルドということになるけれど——
「じゃあここへ来て掛けて」と窓際の丸テーブル傍の椅子に座るよう勧める。
「いいえ。ご遠慮させていただきます」
椅子は三脚もある。
「どうして? 〝空いているから〟という親切のつもりなんだけど」
「わたしは〝使用人〟ということになりますので同席などもってのほかです。お嬢様だけがお掛けください」
困ったな、なんかやりにくいな。このあとどう切り出したらいいんだろう——
「あなた、強いの?」
考えに考えた末にでたことばが〝コレ〟とは情けない。もう調子を狂わされている。
「ステータス・オープン」
え? ルゥンという人があまりにアレなことばをあまりに堂々口に出したが。空中にパソコン画面のウインドウのようなものが既に現れている。
「お嬢様に見えるよう向きを反対にします」とルゥンという人が言うと、言った通り空中のウインドウがくるりとこちら側へと回った。こんなもの出されて、ハッキリ言って中世欧州気分が台無し。
それにこれ、文字が読めないんだけど。
わたしの無反応ぶりにルゥンという人が「このいちばん上の数字は解ると思います」とそう声をかけてきた。得体の知れない記号だったものが次々と『アラビア数字』に変換されていく。そして、
「わたしは門外漢なのでここまでしかできません」、そうよく解らないことを言われてしまった。さらに続けて「ここに『521』と表示されているのが見えていると思いますが、これが現在のわたしの〝レベル〟ということになります」
「ちょっと待って。いまのわたしは文字が解らないの?」
「そのようですね」
「魔術をかけられて話すことばが理解できるようになっているのにどうして文字が?」
「その疑問にわたし如きが答えてよいのかどうかは迷いますが、言語魔法を完全にかけられていないのだと考えられます」
なにか文字を読まれたら困ることでも? けど成り行きで訊いていたら話しがどんどんとっちらかっちゃう。
「どうして完全にかけてくれないの? なにか秘密を隠そうとしているとか?」
「それについてもわたしが答えてよいのかどうか分かりません。お嬢様がこちらの世界で暮らしていくと、まだお決めになられていないからか、と思われます。少なくとも異世界からこちらに転生してきた方が『文盲であった』という記録は残されていなかったかと、わたしはそのように存じています」
「つまりそれはあなたの個人的考えに過ぎない、ってことね?」
「申し訳ありません、お嬢様のおっしゃるとおりです」
「その割によく答えてくれたよね」
「お嬢様がそのようにご希望なさいましたから」
ま、わたしより少しお姉さんだけど第一印象は悪くないのかも。
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