第10話【〝異世界貴族家〟雑感】
〔間違いなく〝誘拐〟よね、これ〕、なーんて思ってる割にまったく動じてない自分に、〝わたしってこんなんだったっけ?〟とある種の驚きを感じている。いったいわたしは動じてないのか驚いているのか、これほど不可思議な気分になったことはない。
フォーエンツオランさんとその奥さん(とはいっても〝奥さん〟の方とはとても会話を成立させたとは言えないけど)と少々込み入った話しをしてから三日目。まる二日が過ぎてしまった。でもここに監禁されているというわけでもなく、部屋の出入りは自由だ。
わたしはいま〝目覚めたこの部屋〟で過ごしている。日当たりのよい窓際に置かれた丸テーブル傍の椅子に座り、窓の外の景色を眺めながら、この二日ばかりの過去を振り返り少しばかりの考えごと。
転生、いや転移初日、起きたときは当然パジャマで、当然そんな服のまま部屋を出られるはずもなく、わたしには異世界のお洋服が支給され、寝るとき以外はそうした服で過ごしている。しかもこの三日、毎日違うお洋服がわたしのために。そのどれもこれも着ればまさしく貴族家のご令嬢。そんな気分を味わえた。もうすっかり異世界人。
というのも、異世界人気分はなにも着ているものだけに限らない。この環境に馴染んできてしまってるわたしがいる。
スマホは無い。ネットも無い。テレビでさえも無い。要するに当然〝電気〟も。俗に〝文明の利器〟と呼ばれるあらゆる物が無いのになぜか清々しい。夜が長く、明日のお勉強の予習もする必要が無い。
なにもやることが無いってこんなカンジなんだ——
なんかこういうのもイイ。
とは言えこうした日々、部屋に閉じこもり何もしていなかったかといえばそうでもなく〝どうせここからは帰るんだ〟と思ったらちょっと自由を満喫しておこうと、身体が動くことを欲した。〝ここにいるうちにちょっとその辺りを探検してみよう〟と、すぐそういう〝奇妙なやる気〟にとらわれた。
動き回ったその感想。〝ホンモノの金持ちってこうなんだ〟と思うしかなかった。元の世界のわたしの家は、見かけが金持ちっぽくなかった。
とにかくこの家が広い、庭が広すぎる。〝庭〟というよりは一面の草原。草原とは言っても荒れるに任せるままというわけじゃない。季節としていまは〝初冬〟の頃らしく一面枯れ草色。でもぼうぼうに伸び放題の状態だったものがそのまま枯れ草になったという〝荒涼とした野っ原〟という感じはまるでせず、草は短く狩り揃えられ、冬のゴルフ場といった趣、その芝程度くらいしか長さがない。
——それが視界の限りずっとずっと続いている。境界の柵も見えない。興味本位で少しだけ歩いて、〝でも帰れなくなっちゃったら困る〟と怖くなり、ほどなくわたしの考えを変えさせてしまったほどだ。本当にこの広さは半端ない。
あちこち赴きたいように自由に歩き回っているとフォーエンツオラン家の使用人の人たちとはたびたび顔を合わせる。誰も彼もが物腰低く、立ち止まり黙ってお辞儀をする様はまるで日本人のよう。わたしがこの家の当主に招待された〝お客人〟だということは周知徹底されているみたい。だけど、誰一人なにも、わたしには声もかけない。〝愛想が悪い〟というよりは貴族の家とはこういうものかもしれない。
わたしはこの先ここで人生を過ごしていくのだろうか?
元の世界の環境も正直〝嫌〟だけど、ここはあまりに静かすぎて広すぎて、ホントにぽつんと自分がいるだけ。まだ三日目だから普通にしていられるけど、あと七日もこの調子が続いたらわたしがおかしくなりそう。帰るときはお土産に、この三日間わたしが着ていた服をくれないかな——
そんなことを思っていた〝三日目〟の昼過ぎ、ドアをノックする音が部屋に響いた。
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