第8話【してしまいやすい体質】
『破滅フラグ』が立っている貴族家なんて誰がそんな貧乏くじ引くものか、それに目の前の女の人が『継母』になるんだ。いまだってわたしから目を逸らしてこっちを見ようともしな——
いえ、それは元の世界でも同じか……
いまわたしの目の前に居る人は『公爵』でその上『錬金術』が使えるという。まだ信じ難いけど、そこは取り敢えず信じるとして、なら金持ちで間違いない。
だけど『お金持ちになれた』、とわたしがいまここに居ることを喜ぶなんてことはない。
元の世界でもそれなりに金持ちだったから。この『公爵家』には及ばないだろうけど。
だからわたしは〝学校にもお金をかけられている〟。
しかし楽しくない。慶墺至塾のはずなのに。わたしの高校に高校から入ってきたコは本当に嬉しそうだ。そんなに嬉しがられて、わたしにはまぶしい。おんなじ学校へ行ってるってのに。
原因はもう分かってる。家族だ。母親は生まれつきあまり優しい人間じゃなかった。でも亡くなってしまったときは、それなりに悲しかった。
(でもがんばる)、と思ったら三年もしないうちに父親が再婚相手を連れてきた。正真正銘の『継母』だ。
本物の母親と違ってヘンにフレンドリーな女だったけど、目的を持ってそう演じているようにしか見えない。でもわたしが本当に文句を言いたいのは父親だ。いったいわたしの実母にどういう感情など抱いて結婚なんてしたものか。
『元々ろくに好きじゃなくても結婚だけはできるんだ』、と言ってやりたかった。
でもそんな勇気はわたしには無かった。
そうして表面上だけ、日々温和しく過ごしていて、吐きそうなくらいに優等生。そんな日々の中のある日、目が覚めたらまったく見知らぬ部屋の見知らぬベッドで寝ていて、だけどそのベッドも部屋も、わたしの使っている部屋よりも格段に立派だった。少しだけ腹が立った。それしか感じなかった。
こんなところに突然連れてこられて狼狽していない自分がいる。結局自分の意志とは無関係、どこでも同じか。
目の前のフォーエンツオランさんは『戻りたいのなら戻れる』と確かにそう言った。つまりこれは『転生』じゃなくて『転移』だ。わたしの決断次第で元に戻れるという。でも元に戻ってしまったら二度とここへは来られないだろう。果たしてどっちが〝後で後悔する〟んだろう?
「少し考えさせてくれませんか」
そう言うと明らかにフォーエンツオランさんの顔がほころんだ。
「でも——、」とわたしは続ける。無条件とはいかない。さっそくいろいろ言うならいま。「——条件はつけておきたいんです」そう伝えた。
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