第6話【最も直系に近い?】

 いま『錬金術』って言ったよね⁉ これはなにかのトリックなの?——かつて中世ヨーロッパで真面目に研究していたって聞いてるけど——でもしかし、そんなことは遂にはできなかったはず——

 とにかく疑問を持ったら訊くことだ。

「あの、〝家粋かすい能力〟というのは?……」

 とりあえずはそこからだ。


「一族に代々伝わる能力で、血筋に拠る。努力したからといって身にはつかない」フォーエンツオランさんは言った。

 〝血筋〟ですって?

「じゃあ光らせることができたってことは……」

「もちろんあなたは〝〟ということですよ」

「けど『錬金術』というのは〝きんを人の手によって造り出す〟という意味ですよね?」

「いかにも」

「でもわたしがやって〝きん〟にならなかったですよ」

 わたしは手の平の上の〝金色の粒〟、それを一つつまんでいる。これに向かって念には念を入れ、ダメ押しするように圧をかけ続け確認してもあの〝ぶよぶよ感〟は消えていて、やはり固く、金属であるとしか思えない。わたしができたのはそのときだけ光らせただけだ。そう言ったのに——、

「金色の光を放たせた、これが重要なんです」とまた〝肯定評〟で返されてしまう。

 できてもいないのに、誉められているようで、なんだか騙されているみたい……

「取り敢えずこの粒はお返しします」そう言ってテーブルの向かい側へと手を伸ばす。金色をした二粒の金属を受け取るフォーエンツオランさん。わたしの目をじっと見、おもむろに口を開いた。

「役所絵里さん、なんだか乗り気ではなさそうですね」

「わたしは皆さんと同じことができていません」

「ではそれができないから、〝養女となり我が家の跡取りになるのに気が進まない〟と?」

「ちょっ、ちょっと待ってください! そうじゃありません」

「では〝どう〟なんでしょう?」

「光りだすような細工が施された物を渡されても困ります」

「そんな都合の良いものはありませんよ」

「そもそも〝あの術〟って練習したらわたしでもできるようになるんですか?」

「それは前向きですね」と顔に笑みをたたえるフォーエンツオランさん。

「そういうわけじゃないですけど、でもわたし、いままで生きてきていろんな物を手に持ってきたけど、どれも金色に光ったことなんてないです」

「それは当たり前です、『』でないと」

「あのゴムのような物質の正体ってなんなんです⁉」


 よくできた〝手品〟なんじゃないの? どうしても〝答え〟はそこに行き着くしかない。


「『ごむ』というのがなんだか分かりませんが、あれの正体については残念ながらいまは秘密です。役所絵里さん、あなたがフォーエンツオランの一族になってくれると言ってくれたら、それを教えられるのですが」


 どうにかしてわたしをこんな所に残したいみたい。

「誰かを一族に加えないと立ち行かないのならもう少しマシにあの術ができる人を跡取りにすべきで、フォーエンツオランさん、もしもあなたが真実を喋っているのだとしても、わたしなんて何世代も前に親戚筋だった傍流の末流じゃないですか」

 でもわたしがなにを言っても、この〝フォーエンツオランさん〟という人の顔から微笑が消えない。こちらの警戒感を解くためか、どこまで心に余裕があるのか。

 しかし確実に言えることは、わけの分からないところへ連れて来られて、これは事実上の誘拐で、わたしの方が立場が弱いということ。この立場に負けて安易な返事だけはするまい。それをわたしに改めて誓う。


「なるほど、『がいるはずだ』というわけですか」とフォーエンツオランさん。

「普通そう思うはずです」当然の返事だ。

「普通はそうでしょうね、」と、フォーエンツオランさんは割とあっさり同意した。しかしそれもここまで。


「しかしあなたが一番私どもに血が近い。『直系の子孫』と言い換えてもいいくらいだ」

 ここまで断定してきた!


 『直系』なんて言ったらそれ、あなたもわたしも『先祖が同じ』ってことじゃないの! ぜったいにそんなことあるわけない! あなたは異世界人なんだから!

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