第4話【〝謎の粒〟が手の平に】
執事の人がテーブルの上に静かに『シャーレ』を置いた。シャーレにしか見えない物だった。当然それはガラス製のようで透明で、〝魔術がある〟とかいうこの世界には存在するのが不自然な物。なんたってそれはどう見ても研究室にあるような実験道具だから。
改めてシャーレをよくよく観察してみれば中に、やや大きめな、なにか粒のような物が二つ入っているよう。
「ありがとう」律儀に(?)フォーエンツオランさんが礼を言うと、
「めっそうもございません旦那様」と執事の人がうやうやしく頭を下げる。そうしてそのまま部屋の外へ出て行ってしまい、元の通りドアがきっちりと閉められた。またしてもこの広い部屋に〝三人だけ〟となってしまった。
つまり、第三者には見せたくない、ってことなの? そんなことを考えている間にフォーエンツオランさんが卓上のシャーレの蓋を無造作に開け、それこそ無造作にその粒を一つ、指でつまんでしまった。あっけにとられただ見てただけ。
シャーレって、中に〝アブナイ物〟を入れておく容器じゃなかったっけ?
「役所絵里さん、これを手の平の上に載せてみて欲しい」フォーエンツオランさんは口にした。
なんか、触れたくない。直感でそう感じる。でもいまから始めようとしているナニカは間違いなく〝なんらかの重大な意味〟がある。
「分かりました」と、そう決断し返事するとフォーエンツオランさんは立ち上がり、テーブルの向こうから目の前にその手が伸びてきた。わたしも立ち上がり手を伸ばし両手をお椀状にするとその中に〝謎の粒〟がそっと置かれた。
そして互いに座り直す。
改めて手の平の上の〝謎の粒〟を観察してみると、皮膚に張り付いているような感覚がする。まるでべとべとになって腐った輪ゴムが丸められて団子状にくっついているような物。色も黒ずんでいる。
なんだかよく解らない、汚さそうな物を受け取らされてしまった。
「では役所絵里さん、その粒をじっと見つめていてください。しばらくなにも起こらないかもしれませんが、それでも集中力を切らさずに」
おかしな注文。しかし言われるとおりにしてみる。
ただじっと、ただじっと見つめ続ける。感覚としては数十秒じゃない。それよりももっともっと。手の平の上の〝謎の粒〟が黄金色の光を放ち始め——
なんなのっ⁈
その瞬間集中力が切れてしまったのか、黄金色の光は徐々に光を失っていく。
「確かに見たね、エリザベーテ」フォーエンツオランさんは隣の奥さんに訊いた。
「解っていたことです。間違いなくこのお嬢さんは私どもの一族です」そう奥さんは返事した。
なんなの、なんなの、なんなのーっ‼
「どういう理屈です? これを光らせたら〝一族〟って⁉」思わずことばが飛び出してた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます