第3話【わたしのルーツが異世界?】

「わっ、わたしは日本人ですっ!」思わず声が甲高くなってしまった。なるよ、そりゃ。でも目の前に座る人にとっては〝こんな反応〟はまったく想定内のよう。


「解っています」とフォーエンツオランさんは言ってのけた。


 表情にも声の調子にも変化は見られない——

「日本語が解るからってそんなバカなことが、」

「いえいえ、ことばは関係ありません。〝解るような魔術〟を使った結果です」

 まじゅつ?

「魔術って、あの、不思議なことを起こす力ってことですか?」

「役所絵里さん、あなたから見れば不思議でも、この世界では割と普通のことですよ」

「それじゃあわたしはここでは普通以下ってことじゃないですか!」少し語調がキツくなった、なるよ、そりゃ。

 これでも元の世界では名実伴う名門校の高校生で、その中でも成績は決して悪い方じゃない。それが並以下になるなんて冗談じゃない。


「普通以下だろうと、私どもはそれ以上の価値をあなたという人に見ていますが、私たち二人が認める程度ではだめなのですかね?」


 〝普通以下〟ってはっきり言った。そんなのはヤダ。


「でも〝血筋が近い〟って言いましたよね? わたしの父も母も日本人のはずです」


「でしょうね。それより〝もっと前の話し〟になりますから」


「〝話し〟って、作り話じゃないでしょうね?」


「いえいえ、もちろん真実ですよ。要はこういうことです。役所絵里さん、あなたは御父母の話しをされた。まずそこから一代さかのぼって考えてみてください。あなたの御父母にも当然御父母がいる。あなたから見れば祖父・祖母です。たったこれだけさかのぼっただけで、四系統の家系からあなたという存在はできている」


「それは、それこそ普通というか、当たり前です」


「さらにそこからさかのぼるとどうなります? 二人ずついる祖父や祖母にも父母がいる。あなたから見れば曾祖父・曾祖母です。するとさらに家系としては倍の八系統になる。まあ実際はそこよりさらにさかのぼるわけですが」


「わたしの場合そういう系統の中のひとつに異世界ルーツがあるというわけですか?」


「いかにも。その頭の回転の速さは我が家系譲りですね」


 なにそれ? たったこの程度で。人は誉めればいいってもんじゃない。

「でも、だとしてもそれは『遠い遠い親戚』に過ぎません。それにさかのぼればのぼるほど、じゃあどうやってわたしとあなたたちの関係を証明したのか? って話しになります」


「なるほど。役所絵里さん、あなたは『このフォーエンツオランの血筋だ』と言われても〝いまひとつ信用する気にはならない〟と、こういうことですね?」


 そこまで露骨に言ってないけど、言いたい趣旨としては合っている。

「そうです。あまりに唐突すぎますから。それに『魔術を使って調べたら分かった』とか言われても困ります」

 しかしここまで言ってもフォーエンツオランさんにはこたえている様子が無い。

「私は『いまひとつ』と言いました。つまり、いくばくかは信用する気が起こっている、という解釈でよろしいですかな?」


 う、なんか言うことがいちいち細かいな。

「少なくとも、わたしがいま、こんな訳の分からない場所に居る、ここだけは動かしようがありませんから。でも親戚かどうかは別の話しのはずです」そう言い返す。


「しかしその証明方法は、あるんですよ」


 断言した。断言で来る? なんでこんなに自信ありげなの? 少し話しただけだけど、この人、かなり口が上手い。わたしがペースに乗せられている。だけどここはこう訊くしかない。

「それはどういう証明法ですか?」


 にわかにフォーエンツオランさんは卓上に置かれたベルを手に取るや、そしてチリチリンと二度ばかり鳴らした。時間にしてその間十秒ほどか、執事のような服を着た、いえ、この世界なら執事なんだろうけどその人が「失礼いたします旦那様」の声のすぐ後、この部屋へと入ってきた。


「例のアレを持って来てくれ」フォーエンツオランさんは執事の人に言った。


 当然こっちにはなんのことかさっぱり。でも以心伝心が当然のことのように執事の人は、

「承知しました」と言い残し、すぐに部屋を出て行った。しかし出て行ったと思ったらもう戻ってきた。手になにか小さな物を持って。さっきからドアをばたんばたん開けたり閉めたりしているはずなのに、それほど騒々しく感じないのは、執事の人の立ち居振る舞いがあまりに優雅すぎるせいなんだろうか。

 やっぱりホントに本物の貴族の家なの、ここは?

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