教授ガチギレ!頑張れイリーナ。

説明会の後、帰ろうと思ったがせっかくだし講義にもぐりで講義に参加してみたらどうだと竜太郎が言い出したので、まあせっかくだしということで私はてきとうな講義に潜ってみることにした。

古代魔術特論という講義があった。私も魔術は少し使えるので少しはついていけるだろうと思い受けてみることにした。私がゴブリンの拠点で巻き込まれた不思議な現象もおそらく古代魔術の類だ。戦闘のため実戦的な魔術を研究する迷宮都市の魔術師と違い、学問のために魔術を研究してる人間から学べることもあるだろう。それに、王都大学で講義を受けたと言えば迷宮都市でイキれる。これが一番大事だ。

まあ、私も昔は魔術専門学校にいたし多少は言っていることも理解できるだろう。私は前で淡々と喋る教授の言葉を聴く。

「つまり、古代魔術の原点は先エスラ人の自然と魔力の相対的、アナロジー的な側面がありその面で現在主流の魔術とは一線を画すというところがあるわけですが、古王国の著名な魔術師アルテスの言葉を借りると、この魔術の真髄は自然への敬意であると、そういうわけなんですね。」


何を言っているのか全くわからない。本当に何を言っているんだこの爺さん。

あえて難しい言葉を選んでいる。教えたいのかイキリたいのかよくわからない。しかも普通に滑舌も悪い。大学のレベルを舐めていた。こんな難しいことをやっているなんて。少しでもいけるかなんて思ってしまって申し訳なかった。そう思い隣の学生を見る。

寝ている。完全に寝ている。しかも寝ているのは彼だけではない。彼らもやる気がないわけではないのだろう。彼らはとても貪欲で優秀な学生であるはずなのだ。その彼らが居眠りしてしまうとは、きっとこの教授は学生を眠たくする魔術を使っているのだろう。


「まあ、この理論についてはここの部分が議論されていたりするんですがね。へへっ!」教授は黒板一面に書いた術式の一部を丸で囲いながら笑う。何が面白いのかわからない。


・・・・・・・・・


目が醒める。私も寝落ちしてしまっていた。教授の魔術の効果か。私は袖で涎を拭う。教授は課題の説明をしている。

その後講義は少し早くお開きとなった。


「あ〜まじでハズレ講義だわ。」

「それな?実践もないし退屈だわ。」

「何言ってんのかわかんねえよ。術式でしゃべってんのかよ。」

「それな〜。」講義室を出た学生たちは次々と文句を言いながら次の講義に散っていく。


私も教授の研究室に行こうと思った瞬間後ろからさっきの老教授が声をかけてくる。

「君、初めてだよね?何しにきたの?」老教授の声からは怒りの感情が漏れている。

「あっ、いや、講義を受けにね?」私は焦る。教授曰く、潜りは学費を払っていない関係上バレると問題になるらしい。バレたらまずい。

「いや、前から出てましたよ?」私はバレバレの言い訳をする。

「来てないよね?何しにきたの?」教授は真顔で詰めてくる。

「いや、だから講義を受けるために…」私は目をそらす。

「今まで来てなかった子だよね?何しにきたの?今来ても単位出ないよ?もう遅いからね。」教授は詰めてくる。

単位なんてどうでもいいのだ。

「あ〜、じゃあ単位はいいです。」私は一刻も早く逃げたかった。

「いいですじゃないのよ。そんな話をしてるんじゃないのよ。今までの講義サボってどの面下げて来たんだって言ってるんだけどね?しかも寝てたよね?君寝てたよね?」教授はいたって穏やかにキレる。

「あ〜、すいません。」私は心臓がキュッとなる。いくら防御力が高くてもガチ説教は辛いものがあるのだ。

「あ〜もう話にならない。学籍番号教えて?」教授は学生証を出せと手を出す。だが当然そんなものはない。

「…りません…。」

「なんて?もっと大きな声で喋って?」教授は大きな声で詰め寄る。講義を終えて出て来た他の学生たちもジロジロとこちらを見てくる。

普通に辛い。消えたい。

「学生証忘れてきました…」私は精一杯の言い逃れをする。

「はぁ。チッ、話になんないや。番号覚えてるよね?言って?控えるからさ。」

「あっ、えっと、3です。」私はこの場から逃れようと適当なことを言う。

「学籍番号は六桁なんだけどね?何?バカにしてる?」教授は静かに詰めてくる。

「いや、356781です。」適当に答える。

「何?35年って未来人なの?何言ってんの?殴るぞ?」教授は詰め寄ってくる。殴って済むなら気が済むまで殴ってくれて良いのだが。

私と教授の周りには人だかりができる。もう泣きそうだ。


「その、すいません。履修登録してないのに潜りで講義受けちゃって、その、授業料なら払うのでその…」私は言葉を詰まらせながら謝罪する。

「なに?潜り?」老教授は私を睨む。

「はい…すいません。」私は頭を下げる。

「なんだ、潜りかそれなら最初からそう言えよ。」教授は急にご機嫌になる。

「え?」私は困惑する。

「いや、ごめんね。その〜あれだよ。最後にちょろっとだけ来て単位取ろうとして単位あげなかったら怒鳴り込んでくるタイプのやつかと思ったんだよ。ごめんごめん。」教授は急にニコニコする。

許された。私は安堵する。

「ってことは、私の講義に興味あったんだね?寝てたけど。」教授は笑顔で睨んでくる。

閉口した。

「いや、その私冒険者やってるんですけど、前に不思議な体験をしましてね?それでせっかく有名な大学に来たので何か手掛かりがあるかなと思ってきてみたんだけど、特にこれといった情報がなくて、その、瞼が…」私は目を泳がせる。

「まず言っておくと、別に古代魔術特論は主に古代魔術魔術の論理の少し深いところの内容をやるから、具体的な内容は扱わないんだ。概念的なところとかその歴史とかさ。」教授は言う。

「つまり?」私は首を傾げる。

「個別の問題はもっと専門的な講義を受けるべきだ。あいにく私は君の言う不思議な体験とやらに興味がある。私の研究室に来ないか?何かがわかるかもしれない。」教授は私を手招きする。

はっきり言ってゴブリンの件はそれほど気になっていたわけでもないので帰りたかったが、流石に帰るとは言い出しづらく私は教授の研究室で質問攻めに遭うことになった。

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