個人授業(意味深)

「マグネスさん、やっぱり僕勉強向いてないです。」レオンは講義室の隅でマグネスにぼやく。

「わかる。私も勉強はあまり好きではなかったな。体を動かしていないと眠くなる。」武闘派のマグネスも同意する。

「最近は兵士になるにも覚えること多いですからね。」

「昔は腕の立つ奴は来い!ってスタイルだったからよかったが、今は試験突破しないといけないからな。そりゃあ腕の立つ者は気楽な冒険者になる。」マグネスはため息をつく。

「そういえば竜太郎さんたちはどこに?」レオンが尋ねる。

「大学を抜け出してショッピングしている。もしかしてショッピングの時間を稼ぎたかったのではあいつ。」マグネスが気づく。

「あ〜たしかに。ありそうですね。」レオンが頷く。

「ラブラブだからなあの二人。」

「ですね。どういう馴れ初めか気になりますよね。」二人で喋る。


「こら!やる気がないなら出て行け!」講師が怒鳴る。


「おっと失礼、ご迷惑をおかけしました。」マグネスはそう言って頭を下げる。

「よしじゃあ帰るか。」マグネスが立ち上がる。

「まじで帰るのか…」講師は困惑する。

「ですね。やっぱりこう言う世界は合わないですよ。」レオンもそう言って立ち上がる。


「はい、じゃあ気を取り直して次はエスト朝期の文化についてです。」講師は講義を再開する。

「むっ!我が王の時代!」マグネスは大きな声を出すと中級冒険者のレオンですら捉えられない速度で最前列に移動する。

「うわあ!いきなりやる気出すな!」講師は動揺する。


「帰ろうかな。でも、マグネスさんの王ちょっと気になるから聞いていくか。」レオンはそう呟くと席についた。


・・・・・・・・・・・


「その神は我々人間からは邪神として扱われている。名前を呼ぶことすら禁じられるほどにね。しかし、ゴブリンやオークなどの種族からは最高神として扱われている。古代の神話大戦に敗れ身体を1200個に切り分けられ封印された、その一片でもこの世に復活すれば世界は再び闇に包まれると言われている。もし君がそれと対峙したとすれば、今ここにいることはありえないと思うがね?」老教授は疑わしそうに言う。

「じゃあ違うんですかね。私のこと噛みきれずに帰りましたからね。」私は頑張って思い出す。

「おそらくそうだ。一介の人間が対抗できる存在ではない。」教授はそう言うと置き時計を見る。

「長い時間話し込んでしまったね。ん?時計が止まっている。魔力切れかな?」教授は時計用の魔力石を引き出しから出す。

(時計が止まる?…時間が止まる。たしかに、あの時見た時間を止めるクラスの魔術が使えれば邪神を退けることも不可能ではない。)教授は思いつく。

(そういえば、この女どこかで見たことがある。どこかで見たことがあるから学生だと思って説教したのだ。)教授は誰だったか考え込む。

(どこかで見た。小柄な女。時計が止まる。)教授はキーワードを整理する。

「あっ!君もしかしてあの時の決闘の女か!」老教授は興奮気味に私を指差す。

「ええ、はい。」私は渋々答える。

「なんと!奇遇だね、いや、ただここの学生でないのに決闘に?」

「…」私は目をそらす。

「まあ、見なかったことにするさ。かく言う私もよく同じようなことをやっていたからねぇ。」老教授は愉快そうに笑う。

「はぁ…」私は適当に返事をすることしかできなかった。





「見てくださいマグネスさん!みなさん白目を剥いて頭をガクンガクンさせています!」レオンが学生たちを見ながら言う。

「なるほど。これが正しい授業態度というやつか。」マグネスが感心する。

「こういう聞き方は初めて見ました。でも、王都大学の学生さんがやっているならきっとこっちが正しいんですね!」レオンは納得する。

「ああ。国内のエリートたちが集まる学校だ。我々も見習わないとな。」マグネスはそう言って白目を剥きながら頭をガクンガクンさせる。

「よーし!僕だって!」レオンも白目を剥きながらさらに激しく頭をガクガクさせる。

「負けんぞ!」マグネスもさらに激しく高速振動する。


「あれ?講師がなんか怒鳴りながら帰って行きましたよ?」レオンが異変に気づく。

「終わったみたいだな。我々も帰ろう。」マグネスはそう言って立ち上がる。

「まだ時間はあるみたいですけど、僕たちの態度が良かったから早く終わったんですかね?」レオンは無理やり納得する。

「よし、帰るか。」


混乱する学生たちを尻目に二人は満足しながら講義室を出た。



駄弁っていたレオンたちはげっそりしたイリーナが目の前に現れ驚く。

「どうしたんだ?」流石の竜太郎も心配する。

「いや、個人授業を受けてた…」

「個人授業?!」竜太郎は動揺する。

「そう。個人授業よ。でもおかげで(魔術師としての)階段を一歩登った気がするわ。」私は教授に教えられた古代魔術のことを考えながら言う。

「お…お前まじか…」竜太郎はドン引きである。

この世界においては個人授業という言葉に変な意味を持たせる竜太郎がおかしいのだが、イリーナも色々おかしいので引き分けである。

五人は教授に別れの挨拶を済ますと報酬を貰って大学をあとにした。

「さて、久々に迷宮都市に戻りますか。」私は提案する。

「そうですね。」レオンも同意する。

「もう忘れてるのかと思ったぞ。」竜太郎が言う。

「そんなことないわよ。ふるさとだからね。」私は心外なという顔で言う。

「インフレしたら速攻逃げていったクセにな。」竜太郎が鼻で笑う。

「教授との個人授業で学んだこと(戦闘用古代魔術)を使ってお仕置きが必要かな?」私は竜太郎を睨む。

「うわぁ!やめろ!変態だ!逃げるぞソフィー!」竜太郎はソフィーを抱えて走って逃げた。


「何やってんだこいつら?」マグネスは思った。

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