覚醒しますよ?主人公なので。

 そしてついにジュリーマンゼミと相手のゼミとの戦いが始まった。相手の名前をきくのを忘れたのでアメフト教授のアメフトゼミということにしよう。彼らとの決闘が始まった。

「やっぱり私一人か…」私はため息をつく。

相手は三人。ガチムチの魔術アメフト部三人だ。だが、所詮相手は大学生のお遊び集団。戦闘となればこちらが有利だ。とはいえ三人は流石にきつい。しかし、依頼である以上手は抜けない。私は変装がバレないように相手を叩き潰すことを決意した。



開戦の合図と共に相手の三人がフォーメーションを組む。一番後ろの学生が地面にボールを置く。そのまま詠唱を開始する。元魔術師志望の私だからわかる。まず彼らは身体強化を付与してさらに別の術式を身体やボールに付与する。あの詠唱は火の術式だ。

本来の魔術アメフトでは、相手の術式に対応する、例えば水の術式を纏った選手がそのボールに対応する。そして、水の選手を雷の術式を纏った選手が援護し高威力な攻撃を行う。こういった相手の使う魔術なども予測し立ち回るのがこのスポーツの特徴である。

要は魔術ジャンケンをしつつ行うアメフトっぽいスポーツである。ちなみに私はよくわからない。


火の術式を纏ったボールを風の術式を纏った選手に送る。風の術式と身体強化によって超強化されたボールは正確無比な精度で私に向かって飛んでくる。さすがよく訓練されている。

だが、思い出して欲しい。私は元々魔術師志望である。防御力ばかり注目されがちだが、当然魔術も少し使えるのだ。前のパーティーでは防御力で耐えながら一方的に魔術で中遠距離攻撃をするという戦闘スタイルも構想していたのだ。実践する前にクビになったのだが。

この程度プロの冒険者である私からすれば子供の遊びである。この程度魔術なしで受け止めて見せる。いつもの防御力ゴリ押しじゃないかって?うるさい。

「さあ!来っ」言いかけたところで私の顔面にボールが直撃する。悲しいかな魔術による身体強化を施してもこの身体能力である。


「ボール当たる前の顔…」動体視力の高い竜太郎は肩を震わせて笑う。

マグネスもなんとも言えない顔をする。


アメフトゼミの観戦者は一撃を入れことでエキサイトしている。

「行け!もっとやれ!」

「いいぞ!その調子だ!」皆口々に囃し立てる。


アメフト三人衆は休むことなく攻撃を続ける。二撃目が地面を抉りながら突っ込んでくる。

私は上手くそれを顔で受け止める。私の顔でバウンドしたボールの先に選手が一人飛び出してくると火の術式を纏った強力な蹴りで再度私にボールを直撃させる。

私を中心に半径数メートルが爆炎に包まれる。

煙が晴れる。クレーターの中から私はゆっくりと立ち上がる。正直お勉強しかしない学生のお遊びだと舐めていた。しかし違った。かなりレベルが高い。彼らには上級冒険者としても十分に通用する実力がある。頭も良くて戦っても強い。一人欠けたにも関わらず三人で素晴らしい連携を見せている。かなりまずい。ピンチだ。こんな恵まれたボンボンたちに私がこんなに追い詰められるとは…私は唇を噛む。


「まずいな…イリーナ。」

「ああ。やばいぞ。」マグネスと竜太郎が深刻そうな顔をする。


「まずい。」私は呟く。破損したメガネが地面に落下する。

具体的に何がまずいかと言うと、さっきの攻撃で変装が解けそうなのだ。

私の普段着というか仕事着は自分の防御力についてこられるだけの頑丈な生地の服なので、攻撃や事故で吹き飛ぶ心配はない。しかし、今自分が着ている服は大学近くの服屋で30%引きになっていたペラペラの服である。このままでは変装が解ける上に服を吹き飛ばされあられもない姿を公衆の面前に晒すことになる。

「私はそういうキャラじゃ無い!」私は叫ぶ。


「何言ってんだあいつ?」

「さあ。」観戦者たちは話し合う。


私は過去最高にピンチだ。次からの攻撃に私が耐えられても変装用の服は耐えられないのだ。

まずい。なんとかしなければ。一人一人捕まえて各個撃破なんて甘えた戦術は取れない。

アメフト三人組は次の攻撃に移る。あの予備動作から見るにさっきよりも高威力の攻撃を叩き込んでくるのは目に見えている。当然次の攻撃に服は耐えられない。

考えろ。考えるんだ。この状況から助かる方法を考えるんだ。今までの経験から何か良い方法を………

ダメだ!今まで防御力でのゴリ押ししかしてない!ヒントになるものなんてない。

だが、私とて最初から防御力が高かったわけではない。最初はピンチに陥ることも多かった。その時のことを…ダメだ。あんまり覚えてない。昔のことすぎる。せめて覚えてる範囲で何か…


渦巻く電流と炎を纏ったボールが亜音速で突っ込んでくる。

心拍数が上がる。周囲がスローモーションになる。


「うーん。難しいかな。つまり時間を止めるっていうのは自分を中心に自分以外のものが完全に静止するという解釈を魔力によって周囲に拡張するんだ。わかる?」

「全然。」


いつの会話だ?そうだ。魔女の洞窟で出会った時間を止めるとかいうアダムという男との会話だ。

そうか…これが!私はハッとする。


私は恐る恐る目を開ける。ボールは私の鼻の先で止まっている。周囲からは全く音が聞こえない。鳥が空で静止している。

「え?」私は間抜けな声を出す。


「時間を止めるっていうのは、自分以外のものが全て静止している状態を…」アダムの解説を脳内で反芻する。

「ああ、こういうことか。」私はようやく理解して手を叩く。

「なるほどね。実際やってみたらわかったわ。」私はため息をつく。

「っていうか、なんでできたの?」私は困惑した。

「え〜なんでだろ怖い。」私は動きが止まった敵の三人組を見て言う。

「うーん、でもなんか時間止まったし有効活用しますか。」私は大きく深呼吸する。

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