説明会でサクラを使うせこい大人
「はい。というわけでジュリーマンゼミの私からの説明を終了します。何か質問等ありませんか?」
「…」
「……」
「………」
「ない?」教授は静まり返った学生たちを見回し寂しそうに呟く。
「はい。」一人の生徒が手を挙げる。ちなみに変装した私である。勧誘するゼミ生役と新入生のふりをしたサクラを同じキャストが兼ねる。ジュリーマンゼミクオリティである。
「課外活動と言っていましたが、具体的にどんなことをやるんですか?」わかりきった質問である。
「具体的には、古代の遺跡の試練を踏破し聖杯を探したり、単純な発掘だったりと結構アクティブに動きますよ。魔術の実践にももってこいです。」教授は謎の笑顔で述べる。
確かに結構アクティブだが、魔術全く使わなかったよね?と私は思った。
「はい、ありがとうございます…」私は棒読みで礼を言って引き下がる。
「他に質問はありますか?」教授は辺りを見回す。
「このゼミでは具体的にどのような研究成果を残しているのですか?」マグネス扮する比較的高齢の学生が質問をする。
「はい。例えば、さっきも言った聖杯の発見ですね。あとは古代のカードゲームについての新発見といった実績があります。」教授は誇らしげに言う。マグネスもニヤリとする。
それを聞いた学生たちはザワザワしだす。そりゃあそうだ。聖杯の発見に古代のカードゲームの発見。学問を愛す学生たちにとって新発見というものは何であってもそそられるのだ。
耳をすませて聞いてみる。
「あの学生おっさんじゃん。」
「何浪したんだろ。」
「すごいな。」
「てか初めてみるんだけど?」
「なんで棺桶持ってんだろ?」
「きいてみたら?」
「嫌だよ怖いじゃん。」
「今まで浪人中に使ってた参考書とか入ってるんじゃね?」
「あ〜いっぱい入るもんな。」学生たちは教授の説明ではなくマグネスの異質さについて話し合っていた。
逆に私はそこまで違和感がないのだなと安心した。しかし、私はこの知性溢れるキャンパス内では異物なのだ。冒険者とエリート大学生とは対極の存在であり、本来交わることのない人種である。
少しでもボロを出せば違和感を持たれる。そうならないように気を引き締めて…いや、そこまでする必要あるか?別に私が知性のかけらもない防御力ゴリ押しゴリラであるということがバレたとしても別にゼミの加入希望数に響くことはないだろう。そうだ。もっと楽に行けばいいのだ。そうだ。その通りだ。
「ねえ教授?聖杯ってどんなんだったの?」私は挙手しながら発言する。
「うわぁ!急にフレンドリーになるな!」教授は慌てる。しかし、深呼吸すると再び落ち着いて話し出す。
「ええ、そうですね。五つの困難な試練を優秀なゼミ生と共に突破して聖杯を手に入れました。」教授は答える。
「じゃあ、その優秀なゼミ生とやらはどこにいるんですか?その人の証言がないと信用できません。」一人の生意気そうな学生が文句を言う。
「え〜。そうだね。その学生は…」教授は私に目配せする。ああもう仕方ない。
「あっ!ちょっとお腹が痛くなってきたのでお手洗いに…これは30分くらいかかりそうだな…」私はブツブツ言いながら退出し早着替えをしてゼミに戻る。
「どうも。優秀なゼミメンバーです。」メガネをかけて少し知的な印象での再登場だ。
竜太郎が吹き出した。あとで殺す。
・・・・・・・・・・・
「とまあ、そういうかんじで聖杯を見つけたんですね。」私は教授と元々関わりが深いのもありゼミの先輩として淡々と質疑応答を終える。ひとまず安心だ。
「そういえば、さっきの女の子遅くない?」
「確かに。体調悪いのかな?」
「なんか前の人と似てない?」学生たちは話し始める。まずい。怪しまれ始めた。
「では、私は次の講義があるので。じゃあ!」私は早口で言いながら部屋を飛び出し早着替え。すぐゼミ質に舞い戻る。
「いやあ。お腹の調子が悪くて…」私は周りに聞こえるように呟きながら部屋に戻り着席する。
座ってふと我に帰る。なんで私が腹痛の状況を細かく説明しなければならないのか。そもそも女子にやらせることではない。
「大丈夫ですか?」教授は棒読みで尋ねる。
「はい。大丈夫です。」私は笑顔で返事をする。恥ずかしいから掘り下げないで!
「顔赤いけど体調悪いのか?」竜太郎がヘラヘラしながら煽ってくる。
とりあえず愛想笑いで会釈して済ます。あとで埋めてやろうと思った。
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