大掃除で邪竜殺しの剣を捨てるな。
「ということで、みなさんよろしくお願いします!」エレノアが頭を下げる。
「なるほど。大掃除か。」竜太郎は頷く。
「え〜掃除か。まあ、面倒だけどお給料が出るならやるわ。」私は頷く。
「さあ、やりましょう!」レオンも張り切っている。
旧王都でしばらくくつろいだ私たちはホプキンス領まで戻った。もちろん体重管理の方はバッチリだ。悲劇は繰り返さない。食事もほどほどにしておいた。
いや、別にホプキンス領に戻って運動すればよかったのでは?と思ったが後悔先に立たずである。まあ、旧王都にはまた行けるはずなので次またリベンジしよう。
そして今私たちは大掃除に駆り出されることになった。
例の血の誕生会の会場になったあの邸宅である。ホプキンス家は港を押さえており大金持ちである。それ故邸宅には古今東西様々な品物が置かれている。
要はとても散らかっているのである。だが、ホプキンス家の領主であるエレノアの父は綺麗好きであった。そのため彼はこの散らかった邸宅に我慢ならなくなった。そこでホプキンス家は大規模な大掃除計画を始動させたのであった。そして、当然出稼ぎ労働者である私たちも大掃除に参加することになった。
近くの領民もお手伝いと称して邸宅の周りに集まっていた。
「盗まれるわよ?」私はエレノアに警告する。
「ほら、ちょっとくらい盗まれたほうが処分楽でしょ?」エレノアは苦笑いする。
「ええ…」いいのかそれ?と思ったが、まあ大丈夫なのだろう。
私とレオン、マグネスは邸宅の物置部屋の掃除を始める。見たことのあるものから見たこともないものまで色々なものがある。だが不思議と欲しくなるものはない。
「なんですかねこれ?」
「いいな。どうせ捨てるなら貰おうか。」レオンとマグネスは変な置物を見てキャッキャウフフしている。男どもはすぐゴミを持って帰ろうとする。
「これ見てみろよ。すごいぞ。」竜太郎が部屋に入ってくる。
「なにそれ?」私は彼が手に持っている機械を見て尋ねる。
「多分これは星の動きを再現する機械だろうな。この小さい歯車。すごいよな。」竜太郎は緻密な機械をぐるぐると回して動かす。
「またそんなに動かしたら…」私が言いかけた瞬間、変な音がしていくつかの歯車が脱落しその他のパーツもボロボロと床に落ちた。
「あっ…」竜太郎は呟く。
「あ〜あ。やらかしたね。エレノアに言いつけとくから。」
「やめて!」竜太郎は切実に訴える。
「これ、我が王が喜びそうだ。」マグネスがうっとりしながらずんぐりした猫の置物を眺める。
「へえ、かわいい置物ですね。」レオンも同意する。
「ああ、棺に入れておこう。リアルタイムで変化する副葬品とは王の威光を示すに相応しい。」マグネスは興奮気味だ。
「意味がわからん。」竜太郎は呆れている。
「むっ!入らん!場所がないな。何か捨てないとな。」マグネスはサラッととんでもないことを言う。
「こらこらマグネス?掃除するんでしょ?一個もらって一個捨てたらプラマイゼロなの。掃除になってないの。」私の注意を他所目にマグネスは棺桶を漁る。
「この邪竜殺しの剣はいらんな。これと交換しよう。」マグネスは凶悪な形の剣を棺桶から取り出す。
「いらないの?いいの?そんなのと交換して!」竜太郎がマグネスに光の速度で詰め寄る。
「え?だって邪竜殺すこととか無くないか?」マグネスが当然だろと言ったふうな顔をする。
「いや、でも、なんかすごい武器だろ?」竜太郎はマグネスの軽率にも程がある判断を諌める。
「一応これがないと邪竜は倒せないらしい。」
「一応ってなんだよ!一応東大ですじゃないんだから…邪竜が出た時どうするんだ?」
「なくても何かしら倒す方法はあると思うんだが?」マグネスは楽観的な顔で軽く言う。
「それでいいのか?」竜太郎は一周回って半笑いになる。
「なんなら僕が貰いましょうか?今の剣は取り回しは良いんですけど決定打に欠ける時があるので予備としてこういう大きめの剣が欲しかったんですよね。」レオンが提案する。
「ああ、構わんぞ。やる。」マグネスはポテチを一枚あげるくらいの勢いでレオンに剣を渡す。
「ありがとうございます。」レオンはニコニコしながら邪竜殺しの剣を受け取り、マグネスも嬉しそうに猫の置物を棺桶に入れる。
「おお!結構ずっしりきますね。これは破壊力がありそう。」レオンはそう言うと軽く素振りする。
雑な扱いを受けていたと言ってもこれは紛れも無い邪竜殺しの剣である。中級冒険者程度のレオンが扱ったとて十分な性能を発揮する。振りかぶって剣が紫色に光る。素振りの瞬間紫色の斬撃が飛び出し目の前にあるものを全て切断しつつ真面目に片付けをしていた私の尻にヒットし、私はその衝撃で吹っ飛び本棚に頭から突っ込む。本棚が粉々になり本や置物がボトボトと落ちてきてにわかに大惨事となる。
その光景を見た竜太郎はすぐに次起こる事態を想定し光の速さで部屋から逃げ出しソフィーの元へ逃げ帰る。
「あーあ。やらかしたな。」元凶とも言えるマグネスが他人事みたいに言う。
「ご!ごめんなさいイリーナさん!大丈夫ですか?服破れたりしてないですか?」レオンも慌てる。
「…」
「イリーナさん?」レオンは冷や汗ダラダラである。
「ちょっと…男子っ!!!」私は両腕を硬化させる。
「ひっ…」レオンが固まる。
「嗚呼、我が王。私責務を果たせないかもしれません。」マグネスは弱々しく呟いた。
・・・・・・・
「ずいぶん賑やかですね。進んでますか?」エレノアが部屋を覗く。
エレノアは部屋の中の光景を見るとドアをそっ閉じする。
「むしろ酷くなってる…」エレノアは呆れた。
こうして大掃除の一環として私たちも屋敷の外に捨てられた。だが、外での草刈りや生垣の手入れに邪竜殺しの剣が大活躍するのはまた別の話である。
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