問題提起のためならば誇張も許されるのですよ。
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『ドキュメント迷宮都市』
こんにちは。王都毎月通信のフランクです。
今日は迷宮都市に来ています。古今東西の老若男女が夢を追い訪れるこの迷宮都市。そこでは数多くの冒険者が活動しています。
たしかに高度な戦闘力を持つ上級冒険者たちはまさに金も名誉も手に入れることができる夢の冒険者生活が待っています。
しかし、その陰で下級冒険者たちは当初夢見た生活とは全く違った生活をしています。
今回は『迷宮ドリームの光と陰』を取り上げていきます。
迷宮都市に住む下級冒険者のIさん。
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「ちょっと待って?」私は止める。
「なんですか?」記者は首を傾げる。
「私下級冒険者じゃないんだけど。」私は苦情を言う。
「…」
「なんで黙ってるの?」
「ナオシマス。」記者は棒読みで言う。
「なおす気ないだろ。」
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「Q.いつから冒険者を?」
「A.6年前ですね。」
「Q.どこに住んでいますか?」
「A.家はありません。」
「Q.どこに住んでいるのですか?」
「A.同じパーティーの人と同居しています。」
同じパーティーメンバーと同居しているというIさん。部屋を見せてもらった。
「Q.結構手狭ですね。」
「A.一人用の部屋を二人で使ってますからね。仕方ないです。」
「Q.自分用の部屋を借りられないのですか?」
「A.お金がありません。前にダンジョンに潜ったときにあまり稼げなかったのでまだこの生活が続きそうです。」
一人でも狭い部屋に二人が住んでいます。家具や仕事道具を置けば生活スペースはほとんどありません。
「Q.どこで寝ていますか?」
「A.ここです。」
Iさんはそう言ってベッドの裏の隙間を指差す。
「Q.この隙間で寝ているんですか?ベッドはないんですか?」
「A.ベッドはありません。私はこの隙間で寝ています。」
「Q.ベッドは買えないのですか?」
「A.ベッドは買えませんでも彼はベッドで寝てるので大丈夫ですよ。」
なんと男性は女性を床に寝かせたまま自分はベッドで寝ています。迷宮都市の人権意識が遅れているのは周知の事実ですが、まさかここまで事態が深刻であると…
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「待って。映像止めて。止めなさい!」私は記者の肩を掴む。
「全然違いますよ!これじゃあ僕鬼畜外道DVモラハラ男じゃないですか!」レオンは詰め寄る。
「でも床で寝てますよね?」記者は悪びれず言う。
「違うの。これには事情があるの。一時的なものなの。それに床にじゃなくて壁に立てかけられてるの。」私は説明する。
「一時的とは?」記者が尋ねる。
「避難先みたいなもの。前の家を焼け出されてね。他に頼れるところもないからここでお世話になっているの。」私が言うとレオンもうんうんと頷く。
「それに、新しい寝床を買わないのは単純に置く場所がないからだから。」
「僕は新しい寝床買おうって言ったんですけどここでいいって聞かなくて…」レオンは辛そうに言う。
「とにかく、今言ったところを直しなさい。」私が言う。
「はいはい。直しますよ。チッ」
「今チッて言ったよね?」
「言ってないです。」
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Iさんは災害で家を失い、身寄りもなくここに避難しています。
しかし、この家では寝転ぶことすら許されず…
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「余計に酷くなってますよ〜!」流石のレオンも記者の胸ぐらを掴む。
「酷い!切り取りが酷いわ!」私は頭を抱える。
「大丈夫です。この後はちゃんと作ってますから!」記者は強引に映像を再生する。
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さらにIさんが逃げ込んだ先ではさらに過酷な運命が待っていました。
音声が加工されモザイクがかかったレオンが硬化した私の足を持って振り回す映像が流れる。
このように迷宮都市に住む人々はこのような過酷な生活を強いられています。
特に人権意識の低さから女性の扱いが…
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「止めなさい。映像を。ついでにあなたの息の根も止めるわ。」
「ステイ!イリーナさんステイ!」レオンは怒り狂う私を羽交い締めにする。
「この映像は迷宮で戦っている場面でしょ?モザイクをかけたら暴力をふるってるみたいになるでしょ!」
「いや、魔物はグロテスクなので。さらにそれを撲殺する場面はB (自主規制)Oが黙ってないので…」記者は悪びれない。
「誤報はB (自主規制)O的にはいいのか?」
「でもこれは流石に酷いですよ。作り直してください。」レオンが困り顔で諭す。
「その、記者でもない人間がそうやって報道にケチをつけるのは国民の知る権利を阻害することですので。」記者は毅然と言う。
「こっちは当事者なの!それに事実じゃないんだから知る権利以前の問題でしょ!」私は記者に詰め寄ろうとする。
「抑えてください!」危険を察知したレオンが私を再び羽交い締めにして止める。
「しかし、今王都では人権問題が注目されています。多少誇張であっても問題提起になるならば必要な誇張だとは思いませんか?」
「どういう意味?」私はよくわからなかったので尋ねる。
「王都でも女性の立場は低く苦しんでいる女性がたくさんいます。王都の裏路地では性犯罪だって起こりますしそれで苦しむ人が何人もいます。しかし、世間はそれに注目しません。その問題提起のためであれば多少誇張したりわかりやすく伝えることは記者の役目でありジャーナリズムであり必要な問題提起なのです。わかりますか?迷宮都市の人間は高等教育を受けていないのでわかりませんか?」記者は淡々と説明する。
「…」
「わかってくれましたか?では私はこれで。」記者は立ち去る。
色々思うところはある。深呼吸してから私は口を開く。
「そうね。たしかに女だから不利益を被ることはここでもよくあるし、王都も大変なんでしょう。
私はあなたみたいに高等教育は受けていないから難しいことはわからない。嘘も方便って言うし、問題提起のためなら多少の嘘は仕方ないのかもしれない。私は頭も性格も悪いからわからないけどね。」私は呟く。
「そうです。わかってくれましたか?ありがとうございます。謝礼はここに置いとくんで。では。」記者はそう言って後ろを向く。
「そう。私は記者さんみたいに賢くないから難しいことはわからない。」私は嘘が苦手だ。賢くもないし文学的な言い回しができるわけでもない。
「でも、私の仲間を悪く言う奴は絶対に許さない!どんな理由があろうと!」私は記者の背中に向かって大声で胸の内を曝け出す。
「い、イリーナさん…」私を羽交い締めにしていたレオンの腕の力が緩む。
その隙に私は彼の腕を振り解く。
「あっ」レオンが間抜けな声を出す。
そのまま何を言っているのかわからないという記者の頭めがけて程よく硬化させた腕を振り下ろした。
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