第13話 十三

まあ、そんな事よりも重要なのは、今の私の状況についてなのだが、

はっきり言って最悪であるとしか言いようがない状況に陥っていることだけは間違いないだろう。

というのも、今現在、私の目の前にいる人物がとんでもない事を言い出したからだ。

その内容というのが、私に婚約して欲しいというものだったの。

それを聞いて驚いたと同時に困惑してしまうのは当然の事だと思う。

何しろ、初対面の女性に対していきなり求婚してくるなど正気とは思えないからである。

そもそも、私には婚約者がいるのだから、そんなことを言われても困るだけなのだけど、

だからといって断れば何をされるか分からないので断るわけにもいかなかったりするわけで……結局、

どうすればいいのかと悩んでいたところ、彼女は微笑みながらこう言ってきたのであった。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ? 別に危害を加えるつもりはありませんから」

と、言われたのだけど、その言葉を信じるわけにはいかないのよね。

だって、相手は魔族なのだから、いつ気が変わって襲ってくるかもわからないし、

もしかしたら、既に何かされているかもしれないと考えただけでゾッとするわ。

だけど、だからと言って逃げ出すわけにもいかないのよねぇ〜困ったものだわぁ〜などと現実逃避をしている間も話は続いていて、

いつの間にか結婚の話にまで発展していたんだけど、さすがにそれはマズいと思ったので慌てて止めに入ることにしたわけよ!

それで何とか説得することができたのだけれど、今度は別の問題が浮上してきたようね。

それが何なのかというと、彼女の名前についてなんだけど、実は彼女、名前がないらしいのよぉ〜!

だから、どうしようか迷った挙句、名前を付けようと思ったんだけれど、

いい案が浮かばなかったから困っていたというわけなのよねぇ〜本当にどうしようかしらぁ〜と考えているうちに時間が過ぎていったらしく、

気がついた時には日が暮れてしまっていたようです。

仕方がないので今日は休むことにして、明日になったら考えようと思い眠りについたのでした。

翌朝になり、目が覚めた私は、早速、朝食を食べるために食堂へと向かったのですが、そこには誰もいませんでした。

いつもなら、メイドさん達がいて出迎えてくれるはずなのに変だなと思いながら部屋の中を見渡してみたところ、

テーブルの上に一枚の紙が置かれていました。

何だろうと思いつつ手に取って読んでみると、そこに書かれていた内容は驚くべきものでした。

なんと、魔王様が殺されたという内容だったのです。

まさか、そんなことが起こるなんて信じられませんでしたし、信じられなかったからこそ信じたくなかったのですが、

現実は非情でしたので受け入れるしかありませんでしたね。

ですが、いつまでも落ち込んでばかりはいられませんからね。

というわけで、気持ちを切り替えることにすると、これからどうすべきかを考えることにしました。

まず最初に思いついたことは、このまま魔界に残るか、それとも元の世界に戻る方法を探すべきかということですね。

正直言って、どちらを選ぶべきなのか迷ってしまうのですが、やはりここは一度戻るべきだと思いましたので、

すぐに帰る準備を始めました。

幸いなことに荷物は全て持ち歩いていましたし、着替えなども用意していたので問題ありませんでした。

ちなみに、服装に関しては、この世界に来た時と同じ格好のままでしたが、特に気にする必要はないでしょうから気にしない事にしておきましょうかね。

そんなわけで、準備が整ったところで、いざ出発しようとしたのですが、ここで思わぬ事態が発生してしまったのです。

何と、アルヴェルスが目を覚ましてしまったようで、しかも、私を追いかけて来ようとしていたみたいなんです。

なので、私は急いで逃げようとしたのですが、間に合わなかったみたいです。

何故なら、捕まってしまったからです。

こうして捕まった以上、もう逃げることはできないと思ったので諦めて大人しくすることにしたのですが、

彼は、何も言わずにただじっと私のことを見つめているだけなので、どうしていいのか分からずに困っていると、

突然、話しかけられたので驚いてしまいました。

しかし、よく見てみると、どうやら、私のことを心配しているように見えましたので、

少し嬉しくなりましたが、それと同時に申し訳なく思いました。

なぜなら、彼には、色々と迷惑をかけてしまっているからです。

だからこそ、これ以上は迷惑を掛けないようにしようと思っていましたが、その願いは叶わなかったみたいですね。


何故ならば、私は、アルヴェルスによって捕らえられてしまい、身動きが取れなくなってしまったからです。

その上、両手両足を拘束されてしまっていますので、どうすることもできませんでした。

そのため、おとなしくしているしかなかったのですが、彼は、そんな私の姿を見て満足げな表情を浮かべていたので、

嫌な予感を覚えました。

そこで、恐る恐る聞いてみたところ、案の定、予想通りの言葉が返ってきました。

つまり、私と結婚して欲しいとのことだったのです。

「アルヴェルスとは婚約者だけど、こんな酷い事をするのなら婚約を破棄するしかないよね?」

「いや、待ってくれ! 確かに、俺は、お前のことが好きだし、愛しているが、決して傷つけたいわけではないのだ!」

必死に弁解しようとしている彼を見ていると可哀想になってきたから許してあげようかと思ったんですが、

それでもやっぱり許せなかったので、神の力を行使し、拘束を解いて、無視して帰ろうとしたら、

後ろから抱きしめられてしまったため、動けなくなってしまいました。

「頼む、行かないでくれぇー!」

そう言いながら泣き叫ぶ彼の声を聞いていると、何だか申し訳ない気分になってきてしまうんですよね。

とはいえ、このままでは埒が明かないのも事実ですし、どうしたものかと考えていたら、ある事を思い出しました。

「そういえば、アルヴェルスは、私がいない間に何をしていたのか教えてくれますか?

もし、正直に答えてくれたなら、許してあげなくもないですよ」

それを聞いた瞬間、彼の顔が明るくなったような気がしたのは私の気のせいではないと思う。

なぜなら、先程までの態度とは打って変わって、急に元気になったように見えたからである。

そして、嬉しそうに話し始めた内容を聞いて、私は驚きのあまり言葉を失ってしまいました。

何故なら、彼が話した内容があまりにも酷かったからです。

具体的には、私の悪口や陰口などを言っていたり、暴力を振るったり、監禁したりといったことをしていたそうですが、

これはさすがにやり過ぎだと思いますよ。

それに、いくら何でもやりすぎです。

いくらなんでも、ここまでするなんてあり得ないと思います。

というか、絶対におかしいですよね!?

どう考えても普通じゃないもの!

でも、だからといって、彼を責めることはできませんでした。

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