第2話 弐

そんな人達を見て、私が驚いていると、アルヴェルスが話しかけてきました。

どうやら、この街の住民達は、皆、操られているようです。

そして、その原因は、おそらく、彼らの頭の上にある角が原因でしょう。

その証拠に、彼らからは、禍々しいオーラのようなものを感じます。

なので、私は、彼らに見つからないように注意しながら、先に進むことにしました。

暫く進むと、大通りに出ました。

そうすると、そこにも、たくさんの人が歩いているのですが、やはり、みんな虚ろな目をしていて、

何かに操られているような印象を受けます。

そんな光景を見ながら、更に進んでいくと、目の前に大きな屋敷が見えてきました。

そして、その屋敷の前には、見張りと思われる二人の男が立っていたの。


「おい、そこのお前、止まれ!」

と言われてしまい、仕方なく立ち止まることにする。

そうすると、男達は、私達のことを取り囲みながら、話しかけてきたの。

「お前達は何者だ! ここで何をしている!」

そう聞かれたので、正直に答えることにしたわ。

そしたら、彼らは、驚いた様子で、私のことを見ていたわ。

その後、すぐに気を取り直したのか、再び、話しかけてくる。

「そうか、分かったぞ! 貴様は、勇者だな! ならば、我々の敵であることは間違いない! 覚悟しろ!」

そう言うと、彼らは剣を抜いて襲い掛かってきたわ!

だけど、私には、女神様の加護があるので、負けるはずがありません!

まずは、一人目の剣を避けた後、相手の鳩尾に蹴りを入れます。

そうすると、相手は、苦しそうに呻き声を上げながらも、なんとか耐えようとしますが、結局耐えきれずに気絶してしまいました。

それを見て、もう一人の男が驚いていますが、気にせずに攻撃を続けます。

そして、最後は、回し蹴りを決めてやりました。

「英里、俺が出るまでもなかったな、流石、女神の力を持っているだけあるな」

アルヴェルスはそう言って褒めてくれるけど、正直、あまり嬉しいとは思わなかったわ。

だって、相手が弱すぎるんだもの。

でも、今は、そんなことを気にしている場合ではないわね。

早く魔王を倒してしまわないと!

そう思った私は、急いで屋敷に向かおうとしたのだけれど、その時、背後から声が聞こえてきたわ。

振り返ると、そこにいたのは、先程倒したはずの男だったの。

まさか、生きていたの!?

そう思って身構えていると、その男は、ゆっくりと口を開いたの。

そうすると、そこから出てきたのは、信じられない言葉だったの。

なんと彼は、自分のことを本物の魔王だと名乗っているの。

そんな馬鹿なことがあるはずがない!

だって、彼は、確かに、私の一撃で倒してしまったはずなのに!

それなのに、どうして生きているのかしら? もしかして、不死身なの!?

いや、そんなことはありえないわ!

きっと何かの間違いよ! そうよ、そうに違いありません!

そうすると、アルヴェルス様が近づいてきて、こう言いました。

「英里、ここはまだ魔王城じゃないし、コイツは魔王ではない、だから落ち着け」

そう言われても、そう簡単に落ち着くことなんてできません。

なにせ、目の前にいる男は、間違いなく本物なのですから。

そうすると、その自称魔王は、笑いながら話し始めました。

なんでも、この男は、数百年前にこの世界に現れた最初の魔王なのだそうです。

彼は、当時の人間達によって討伐されそうになったところを何とか逃げ延びて、この屋敷に隠れ住んでいたのだといいます。

そこで、ひっそりと暮らしていたところ、ある日突然、頭の中に声が聞こえてきて、自分は、この世界の神に選ばれた存在であり、

いずれこの世界を支配することになるのだと告げられたらしいのです。

最初は半信半疑だったものの、実際に力を手にしてみると、その力の大きさに驚き、これなら本当に世界征服ができるかもしれないと思ったそうです。


「それで? あなたはこれからどうするつもりなのかしら?」

一応聞いてみますが、どうせ碌でもないことを考えているのでしょうけれどね……。

そうすると案の定というか予想通りにとんでもないことを言い始めたのよ。

その内容とはね……。

まず最初にこの男の目的は、自分の子孫を残すことだということがわかったのよ。

そのために、手っ取り早い方法として、人間の女を攫って孕ませるという方法を選んだそうなの。

まぁ、たしかに理に適っているといえばそうなのだけれど、それってつまり、私が狙われるってことよね!?

そこで私はアルヴェルスにこう言うの。

「アルヴェルス、この目の前の敵を倒しましょう」

そうすると彼も頷いてくれる。

よし、これで心置きなく戦えるわね!

それにしても、どうやって倒せばいいのかしら?  いくら倒しても復活するみたいだし、このままだとキリがないわよね……。

こうなったら仕方がないわ! 覚悟を決めて一気に決めるしかないわね。

幸いにも、私の能力は、相手を倒すために特化した能力だから、大丈夫だと思うのよね……多分だけれど。

それに、もし倒せなかったとしても逃げることはできるはずだしね。

そうと決まれば早速行動開始しましょう!

まずは、あの男を拘束して身動きを取れなくしてから攻撃をすることにします。

そうして、男の近くまで近づいた後、攻撃を仕掛けようとした瞬間、何故か体が動かなくなってしまいました。

しかも、それだけではありません。

体の自由だけでなく、声も出せなくなってしまったみたいです。

それどころか、呼吸すらもできなくなりました。

一体なぜこんなことになってしまったのでしょうか? 原因を突き止めようとして考えを巡らせましたが、何も思い浮かびません。

そんな時でした。

突如として、謎の声が聞こえてきたのです。

その声は、まるで頭の中から直接聞こえてくるような感じでしたので、少し不気味でしたが、不思議と嫌な感じはしませんでした。

むしろ、心地よくすら感じられましたね。

「よくぞここまで辿り着いたな」

そう語りかけてきた声は、どうやら男性のようでした。

その声からは、どこか威厳のようなものが感じられる気がします。

そうすると、次の瞬間、いきなり目の前が真っ暗になりました。

それと同時に全身に激痛が走るような感覚に襲われてしまいます。

ですが、それも一瞬のことですぐに痛みが消え去りました。

そして、気がつくとそこは真っ暗な空間の中でした。

辺りを見渡してみるとそこには先程まで一緒にいたアルヴェルスの姿がありました。

そのことに安堵した私は、彼に声をかけようとしましたが声が出せませんでした。

しかし、どういうわけか意思を伝えることはできたみたいで、会話することができました。

そこで私達はお互いに情報交換を行うことにしたのですが、その結果わかったことがいくつかありました。

1つ目は、どうやらこの場所は夢の中のような場所だということ

2つ目は、先程の声の主は、神様であること

3つ目は、今から私達二人は元の世界に戻ることができるということ

4つ目として、それは同時にお別れでもあること

5つ目が、私が勇者ではなく女神様の使徒であるということです

6つ目に、最後に一つだけ願いを叶えてくれるということだったので、私は迷わずこう言いました。

(私を元居た世界に戻してください)

そうすると、その言葉を聞いた神様は少し悲しそうな顔をしていましたが、やがて笑顔になると、私に話しかけてきました。

そして、その直後、再び意識が遠くなっていきました。

次に目が覚めた時には、元の場所に戻ってきていました。

隣には、アルヴェルスがいたのでホッと胸を撫で下ろします。

そうすると、彼が話しかけてきました。

何でも私に話があるのだとか。

なので、話を聞くことにしました。

話の内容は、次のようなものでした。

1.今回の一連の出来事は全て夢であったこと。

2.あの屋敷は魔王とは無関係であるということ。

3.これからは自由に生きて良いということ。

4.今までありがとうということでした。(最後の方だけやけに早口でしたね)

こうして、無事に(?)全ての問題を解決することができた私達は、新たな旅立ちを迎えることになりました。

ちなみに、この後すぐに出発することになったのですが、その前に別れの挨拶を済ませておくことにしたんです。

そして、それが終わったところで、いよいよ出発することになったのですが、その際に、彼からある物を渡されたのです。

それというのが、例のペンダントだったんですが、これをどうするのかというと、身に付けているだけで、

ある程度の危険から守ってくれる効果があるらしく、いざという時は、助けてくれるのだとか。

それを聞いて安心した私は、それをありがたく受け取ると、早速身に着けることにしたわ。

そうすると、それを見たアルヴェルスは、嬉しそうにしていたのだけれど、どうしたのかしら? まあ、気にしないでおきましょうか。

それよりも、今は、これからの旅について考える必要がありますからね。

とりあえずは、北に向かってみようと思います。

目指す場所は、北の大地にあると言われている魔族達の国です。

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