第37話 惑星ワイトムの首都パドヴュ

惑星ワイトムの首都パドヴュ


高速船の中は割とゆったりしていた、後部にコールドスリープポッドが30機格納してあるスリーピングルーム。

前方にエンジン部と操縦モジュールがある。

この船は30人乗り、現在乗っているのは全部で9名。

搭乗しているのは惑星間航路専門の運航会社エーゲ社のパイロットが2名、政府の係官3名そして女王とその仲間という形。

辺境の星から首都がある惑星ワイトムの首都パドヴュまではこの船で約6時間一般の宇宙船や軍船では三日から五日はかかる。

約一千光年の旅ではあるが通常5日以上かかる距離を、この最新鋭高速艦は惑星ワイトムへ20分の1の時間で到着するという。

高速艦は基本早く進むのではなくエネルギーの使用量が少なくて済むエンジンを搭載した高積載量の気功石式エネルギー装置を積んでいるということ。

高速艦は瞬間移動にかかるキコー力が通常艦の100分の1以下で済む新型エンジンを搭載し、そして燃料となる気功石のエネルギー容量も通常艦の千倍という。

だから航行中にエネルギーを補充する能力も格段の差があり、一回の移動できる距離が100光年以上、次のエネルギーが充填できるまで10分それを十回程度繰り返すことで千光年を移動する。

もし気功石のエネルギー容量がこの100倍あれば1秒かからず移動できることになるがそれには現在星ほどの大きさがある気功石が必要になるという。

最近は船だけではなく瞬間移動ポッドを使用して直接移動する方法もあるがこちらは一人用なのにもかかわらずかなりのエネルギーを使うためコスト的に高くつくらしい。

最新型の高速船はさすがに快適だった。


「お飲み物はいかがですか?」

「ああ僕はいらないです」

「私はいただくわ」

「女王様着陸してからの滞在中の流れを説明させていただいて宜しいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

「まず本日は首都の高級ホテルにおいて晩餐会を行います」

「ドレスやお召し物宝飾品などはこちらでご用意いたしますのでご安心を」

「もちろんお付きの従者の方もご同様でございます」

「この晩餐会に出席予定の政府の高官は現在10名、それと近隣諸国の王族10名が参加予定でございます、こちらの人数は後で若干増減することもございます」

「急なご予定でしたので人数はこのぐらいですが、かえってその方が話しやすいかと思います」

「それはかまわないわ」

「本日はその後、手前どもの長である共和国大統領との会見もございます」

「初日の予定はこの2つです、就寝は午後8時を予定しております」


「続きまして明日のご予定でございます、朝食は朝8時からこちらは各お部屋にお運びいたします」

「その後、首都パドヴェの観光となります、昼食は観光名所であるアマダの泉近くの高級レストランで、その後午後2時からは首都会議場において共和国と魔族の関係の説明、そして女王様のお話を伺う予定です、もちろんお付きの方も全員ご同席いただけます」

「会議は時間を限定しておりませんが夜8時前には切り上げ、明日に残るようなお話は次の日に順延してお伺うことになると思いますのでご容赦ください」

「3日目は調印式となります、共和国の各諸王公国の代表の方も参加いたします」

「その後は記念撮影など、そのまま議事堂横に併設された会場にて昼食会となります」

「午後4時以降は政務事項の細かい取り決めや保証事項、および費用などの負担額を詰めさせていただきます

「4日目は通常女王様のご予定となりますのでこちらでは決められかねますが、今後どうするかなどのお話は従者の方々ともお話しいただいてより良い選択をなさっていただければと思います」

「もちろんその間の滞在費用はわが国で負担いたしますのでごゆっくり滞在していただければと思っております」

「かなりの好待遇は確認できました、ですがこうしなければいけない理由があってのことだとお察し致します」

「惑星ビュリア、アルフレア王国女王である私の立場といたしましては、先日までの行動による責は問わないことといたします、ですがそれは今後このようなことが無いということを確約していただく必要がございます」

「そして私と娘を助けていただいた廃棄惑星の一般民の方々、及び紛争を解決すべく私に協力していただいた有志の方々には今後も最高の配慮をして頂きたいと思っております」


この時初めて女王様なのだということがシュウにはやっと分かった。

まあ初めからわかっていたことだが初めて会った王族それも女王という肩書、普通ならお目にかかるどころか手を握ったりおでこをくっつけたり、などということはありえない人だということ。

そうほんわかしてのほほんとしていた先日までのお姉さんはもうそこにはいなかった。


「ママ婚約の話はどうするの?」


そんなことを考えていたシュウの目の前で姫様がとんでもないことをぶっこんできた。


「な 何を、こんなところでいまする話?」

「クリスちゃんは彼でいいの?」

「良いも何もここまでしてくれた人を最高のおもてなしするのにそれ以外の何があるって言うの?」

「そうね、あ 今思いついちゃった」


そこからはさらにとんでもない方向へと話は飛んでいく。

それはシュウの両親や廃棄惑星にいるみんなの親の所在そして彼らの処遇の話。

前に書いた通り彼らの親や友人たちのほとんどが、現在共和国の辺境の労働惑星にて、紛争の原因となった王国のせいで20年間の強制労働を科せられている。


「ミスドラ星系、惑星メテラで働いていた大人たちの温情を交換条件にさせていただきます」

「そ それは私共の一存では決められません」

「あの星の紛争も元凶である王国だけでなく魔族も裏でかかわっていたはずです、いつまでも一つの罪だけで強制労働させていては共和国の名が泣きますよ」

「そちらのお話は後程、大統領とお話しいただければと思います」汗

「それでは共和国への旅を御堪能ください」

「うまくお逃げになられましたね」

「僕たちの両親?」

「ええ遠く私たちが住む国にも、事件の話は耳に入ってきています」

「王国の惑星開拓民としてある星に移住したあなた方の親御さんたちは騙されたのよ」


ミスドラ星系のグングダリ惑星、トドメ王国は人口が増えすぎて他の星の開拓が国家事業化していた。

勿論この星にも魔族はいるのだが、グングダリ星には魔族の住む地区が少なかった。

その星に住む魔族の開拓民が最初に惑星メテラを発見開拓して行ったが、人族も1日という時間差で入植し同じように開拓を始める。

ところが、人族の王国トドメは最初の発見が自分たち人族だと、証拠を捏造し植民地を全部王国のものにしようと画策。

現地に住む入植者にもそう伝え、紛争をあおり魔族の入植者を犯人に仕立て上げた。

王族は旗色が悪くなるとしまいには、現地の入植者が勝手に行ったのだと言い逃れをした、トドメの王族は他にもかなりあくどい取引や星の開拓をしていたことが後に明るみに出て。

星間大法廷は星間条約に違反したとしてトドメの王族の地位を剥奪、それまで開拓していた惑星の開拓権を全部無効とした。

当時紛争にかかわったメテラの大人達のした行為は、王族が間違った情報を流しているのを知っていて紛争を助長させたと結果付けられた。

だがこの話にも裏があり、王国にそうしろとささやいたのは実は魔族側の管理官だという話。

双方の事務方で嘘を付き合い、責任を市民にかぶせたという。

さらに逃げてきた人族の処遇に関しても、共和国側の事務方に不正が見つかり事態は混迷。

ちゃんとした話し合いが棚上げされたまま、人族側の市民だけが結果としてつらい労働を強いられている。

そもそもいくら人族側が嘘を知っていたとしても、ちゃんとした証拠を見つけ事務方が嘘をつかなければここまでの罪にはならなかった話。

それなのに惑星間独立大法廷は逃げ出した市民側にだけ強制労働20年という重責を課した。

先ほどの共和国側の事務方の虚偽報告が法廷の罪状判断にかなり量刑の違いを与えたことは言うまでもない。

今一度法廷で裁判をやり直し罪状を見直す必要があるのに、共和国が再調査を拒んでいた理由がそう言うことだ。

だが今回の廃棄惑星での事件で魔族と共和国の癒着が発覚し、その管理官の所業が明るみに出た。

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