第36話 そして両軍共に帰還

そして両軍共に帰還


その後、共和国軍も魔族軍も引き返していき、代わりに墜落した船の回収船が現場へと降りてくる。

この船は軍部ではなく民間のサルベージ船、落ちた船が大きすぎるため、専用のサルベージ船を持つ民間会社へと共和国から委託された。

全長3kにも及ぶ超大型の星間航行船、すでに脱出ポッドは全部射出した後のため。

船に残っていた船員は100人に満たなかった、全員がアルフレア王国から逃げ延びてきた者たち。

女王はその死を悼みはしたが、それよりもこれから起こることに心を割いていた。


「ありがとう、彼らはこの星で弔います」

「そうですか」サルベージコーディネーター


巨大な船は一度瞬間移動で場所を指定し移動させる、その後船内捜索。

この星が夜マイナス60度という超低気温になる星のため、遺体の損傷は思ったより進んではいなかった。

遺体は回収用の探索ロボットで行われる、操縦は現場にいなくても行えるタイプ、約80体の遺体は2時間で回収が終了した。

そしてコンピュータールームでは航行の記録を手に入れ、最後は解体業者によって一度宇宙空間に移動。

その先は解体業者のドッグへ搬入し、そこで修理するのか解体するのかを決める。

かかる費用と解体した部品の売り上げを秤にかけ、自分たちの収入を算出するためだ。

勿論積み荷などもこの段階では回収費用となるため、個人のポケットに入ることはない。

墜落船の回収作業を見ていた女王とシュウのもとへ、エージの乗る強化ロボットがやってきた。


「おーいシュウ」

「エージ」

「隊長が呼んでたぞ、女王様も」


墜落現場へは50k以上あるため、シュウと女王は瞬間移動魔法を使いここまでやってきていた。


「戻りましょう」


ちなみにエージは自分の強化ロボットで来ている、実はこの地区はまだセキュリティの解除が終わっていないのだが、宇宙船の墜落と魔族の獣機が周辺のレーザーポッドを破壊したため。

お宝の掘削し放題という状況、もちろん電磁波もすでに収まっている。

そこに目を付けたエージは、強化魔法を使いシェルターからここまでの距離を約50分で移動してきていた。


「うひょひょ~お宝バンザーイ」


一方シェルターに戻ったシュウと女王は面倒事を一つ片づけなければいけなくなっていた。


「女王様、やはり共和国の主管から一度出頭しろと命令が来ています」

「ではわたくしが直接お話ししましょうか?」

「そうしていただければありがたい」


それからは話の食い違いや共和国と魔族側の取引が明るみになり、共和国の政府側もかなりの逮捕者や更迭された上級政務官が出ることとなった。

女王はそれらも先読みというスキルで前持って知っていたりする。


「では私とクリスちゃんと…シュウちゃんも来てくれるわよね」

「俺ですか?」

「来てくれるわよね?」


そう言いながらきれいな顔を近づけじっと目を見るのだ、そんなお願いをされて断るものはいないだろう。

後でエージやサーベンにうらやましがられたが、俺としてはなんで?と思うだけだった。

どうやらまだ俺の婚約者指定はまだなくなっていないようだ。


「わかりましたよ行きますって、そんな目で見ないでください女王様」

「そろそろ女王様っていうのもやめてもらえたらうれしいのだけど…」

「え~じゃあ何と呼びしたらいいんです?」

「シアナとか、姉さまでもいいわよ」

「ではシアナ様で」

「え~そんな~遠慮しなくてもいいのに~」


女王はシュウの事をからかっているのが見え見えだったが周りからは、そんな少しのじゃれあいも癒しの一つととらえていた。


「共和国からの高速船が明日来る、一応俺も乗るから準備しておいてくれ」コッド


結局トラッド軍曹は後のことを部下に任せ俺達4人は次の日、共和国政府首都である惑星ワイトムの首都パドヴュへ行くことになった。

今回の話し合いで共和国側の不備や魔族側との内通、それに海賊側から保護した子供たちなどの処遇が話し合われることになっている。

次の日共和国からやってきたその船はさすがにカッコよかった。


「うわーカッケー」

「最新鋭の高速船だ、1万光年10日で行くらしいぞ」


その姿は流線形ではあるが真ん中がやや広め、そして機体色は真っ白ではなくまるでオパールのような宝石を思わせる虹のようなカラーで全体が覆われていた。


「お迎えに上がりました女王様」


船からは3人の共和国連邦の中央政府役人が降りてきた、女王がすぐ握手を求めると相手もすぐ手を差し出した。


「ありがとう、それではまいりましょう」

「シュウ!また帰ってくるんだよな」

「おいエージ何泣いているんだよ、帰ってくるに決まってんだろ」

「じゃ皆後は頼んだぞ」コッド

「隊長任せといてください」

「シドちゃんありがとー」姫

「今度姫様の星にもいくから~」シドニー


それぞれに挨拶をすると係官の後をついて4人は高速船へと乗り込んで行く。

ハッチが閉まると白かった機体の色が一瞬で鏡のような色に変化し数分で音もなく掻き消えた。


「もう?」

「えっ?」

「別れの余韻もなかったな」

「ああ、でもまた帰ってくんだよな」

「もちろん、帰ってこないとお仕置きよ」

「よーし、俺たちはいつもの仕事に戻るぞ」

「え~、今日ぐらい休みにしようぜ」

「お前修理費滞納してなかったか?」

「あっ…思い出しちまったじゃねーか~」

「あははは」


辺境の廃棄惑星、過酷な環境に身を置きながらもたくさんの若者が生活をはぐくんでいた。

そこには今でもしっかりと人類は根を張って生きている。

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