第34話 共倒れ作戦
共倒れ作戦
シュウの作戦はそれ程込み入った指示などはない、まずは魔族を数機おびき出しシェルター前の共和国軍を攻撃させる。
そうすれば共和国軍も反撃しないわけにはいかない。
そう、そのすきに王族を逃がしてしまおうというものだが、攻撃が激化すればシェルターも危ないので、できるだけ奥に逃げてもらっておくのが前提、隊長ならばなんとかしてくれるだろう。
それに今は全員が気功術により身体能力は常人の1.5倍以上になり、共和国軍の兵隊が乱暴しても何とか対応できる、もちろんそうならないためにはできるだけこちらが動いて双方の共倒れを狙わなければ。
【皆聞いてくれ、軍は王族2名を捕縛すれば帰ってしまうそうだ、俺たちは共和国軍に見捨てられたらしい、それと渡したはずの気功術のデータも廃棄させられている】
【それは本当か?】
【ああ隊長から聞いた】
【それでどうするんだ?】
【魔族を共和国軍にけしかける】
【いや今でもそうなりそうだが…】
【魔族がいっぺんに攻めてくると共和国軍は逃げるだろう、だから数機ずつこっちへ来させる、その相手を共和国軍にやってもらう】
【おれが先に出て鬼ごっこするからみんなは残った魔族をけん制しながら逃げ回ってくれ】
【要するに攻撃しないで逃げ回ればいいってことか】
【おもしれー】
【俺たちばかり魔族と戦わせて何もしないやつらは味方じゃない、やつらにも仕事してもらわないとな】
【じゃあ先に俺が数機おびき出すからあとはよろしく】
【おおまかせろ】
そう言うとシュウは塹壕から出ると気功強化術を纏った機体で魔族の前に飛び出した。
「おーいこっちだ!」
「なんだあいつ」
「おいやつを殺せ!」
戦場となる荒地は所々穴が開き瓦礫も少々残っている。
そこを動き回るにはキャタピラのモジュールよりも敵の獣機の方が機動力は有利なのだが、それでも強化されたシュウの軽量機は彼らの機体をあざ笑うかのように動き回る。
「おい撃ち落とせないのか!」
「ダメです将軍味方を巻き込みます」
戦車タイプのエネルギー砲はエネルギーの充填に3分はかかり、射程は直線距離で2kがいいところ。
障害物が多い荒地ではなかなか当たることもない。
「クソッ!もっと近くに寄れ」
「は ハイッ」
戦車タイプ2機が荒地を越えシェルターを射程内に収めたところでわざとシュウはシェルター前の共和国軍のロボットに近づいていく、そしてわざと止まって疲れたような様子を見せた。
「今だ!テーッ」
「ドカーン!」
勿論魔族の砲撃が飛んでくる前にシュウは逃げて、エネルギー砲の攻撃を受けたのは共和国軍の攻撃強化ロボット。
見事にロボットは粉々になり脚部から上が消失してしまった。
シェルター内にもその爆発音は響き、何事だと少尉と兵士は入り口から覗くと待機していた兵は、当然のことながら反撃に出ていく。
「中尉!」
「反撃しろ!」
「サー!」
「くそどうなってる」
今から2時間前、魔族側でも援軍が到着していた。
到着した軍艦は将軍が乗っていたものとほぼ同じ、ただし魔族の艦には面倒な人物も一人乗船していた。
「管理官!」
それは魔族側の紛争管理官、彼いや彼女が乗ってきたのは共和国側が戦争を放棄するという申し入れからだ。
これはもし共和国軍が魔族と戦ったとしても、国としてではなく現場の指揮官が勝手に戦ったので責任はないよということを魔族側に打診したため。
ちゃんと目で見て確かめて責任は国に無いということを本国に知らせることを目的とする。
要するに共和国側はビビッて魔族と先に手を結んじゃおうというもの。
勿論そうなれば魔族側はもう戦わずに済むし、手柄は将軍のものでは無くなり交渉した事務方の物になってしまう。
そうすると今までの戦闘は何のため、これで将軍の気が晴れるわけがない。
「本日着任いたしましたサタルニア帝国辺境紛争調停官、ア・ク・ルルークと申します」
「何しに来た?」
「紛争を終わらせに来ました」
「それで共和国との話はどうなっている?」
「向こうは王族2名を捕縛後こちらへ引き渡すとのことです」
「だから私にどうしろと?」
「将軍、帰還命令が出ております」
「それはいつまでだ?」
「明日までにこの星を出発せよとのご命令です」
「では今日までは私のわがままを通させてもらう、これまでにかなりの被害が出ている、手ぶらでは帰れないのだ、王族2名それほど簡単に交渉で終わらせる事ができるならばなぜ私に命令したのかも、本国に問いたださなければいけないということを覚えておけ。」
「かしこまりました、わたくしは見届けるだけですので同行させていただきます」
「勝手にしろ!」
「まだまだこれからだ、戦闘の準備をしろ、全機だ全機出陣用意!」
最初に魔族の軍艦に乗っていた獣機とほぼ同じ数、そして戦車タイプも3機積んでいた。
それら強化ロボットを搬出すると、将軍はまた獣タイプの獣機へと乗り込んだ。
勿論魔族側の量産機のため自分の専用機とは少し違うがそれでも型は同じため、こちらの機体の方が彼には性に合っているようだ。
ちなみに王族ともなれば専用機もあり得るが、将軍クラスでは自分に合わせた機体を用意するのに個人の支出額では賄うことができない。
中にはロボットなど使用せずとも自らの肉体で相手の強化ロボットに対抗する強わ者も少なからずいるのが魔族という種族。
そして用意が終わると1時間後、出発の号令がかかる。
「これが最後の戦いだ、臆するな魔族の力を見せてやれ」
「前進!」
約1時間をかけシュウが所属するシェルターまで魔族は兵を進める、もちろん罠などの対策として戦車タイプを全機投入、エネルギー砲を使い罠を破壊していく。
だが…
魔族の将軍はまたもやシュウたちの罠にはまっていく。
【ねえシュウどうなってるの?】
シェルターから300メートル離れた戦場の脇に隠れていたクリスティにシュウは戦闘中・いや逃げ回りながら指定周波数を使い声をかけた。
【クリス、共和国軍は君たちを魔族に差し出すつもりだ】
【なんですって!】
【うっ!声が大きいよ~】
【ごめんなさい、でもどうすればいいの】
【今、戦おうとしない共和国軍に魔族を誘導して戦わせているところだ】
【同士討ちね】
【それでどうするの?】
【兵士の数を減らして、指揮官に隷属の魔法を掛ける、双方には手ぶらでご帰還願おう】
【わかったわ、私は何をすればいい?】
【エージ達と一緒に敵のかく乱を頼む、敵のエネルギー砲には気を付けて】
【わかったわ】
こうなると共和国軍の機体も魔族の獣機を相手にどんどん戦闘を激化していく。
共和国軍は先日隊長が送った気功術の情報を信じないどころか上層部は極秘事項として回収し破棄してしまおうという選択をした。
そして目の前で魔族に攻撃され翻弄される共和国軍の強化ロボットは、徐々に壊され数を減らしていく。
そんな中でもシュウの動きは衰えなかった、敵の目の前に現れたと思いきや次の瞬間共和国軍の機体を背においでおいでをする。
それを見た獣機は当然そこへ突っ込み共和国軍の機体に襲い掛かる形になる、両機はそのまま殴り合いつかみ合い。
強化魔法を使えない共和国軍の機体はやはり弱いままだった。
「た 助けて!」
「はい、ヘルプの声いただきました!」
「そりゃ!」
「ジャキーン」
シュウはなすりつけの繰り返しで損傷し助けを求めた機体だけを手助けしていく。
やられてみなければわからないだろう、魔族の獣機がどれだけいい動きをしているのかを。
そしてこのままでは太刀打ちできないことを。
【エージ】
【姫様!】
【シュウがこっちを手伝えって】
【マジか、いいぜでもそんなに仕事はないかもな】
見ると、他の3機で逃げながらも敵を翻弄していく、気功強化術を使い機体にアシスト魔法を掛けた状態。
シュウの機体だけではなくトラッドやサーベンの機体も獣機を軽々と翻弄している。
【見てもわかるだろ】
【本当ね手助けしようと思って来たのに】
【いやまだすることはあるからその時は頼むよ】
それはシュウの合図で一斉に魔族の獣機を無効化してもらうこと、シュウは今共和国軍の機体を無効化している。
それが終われば次に共和国軍の司令官に隷属の魔法を掛け司令官には任務は終了したという命令を与え、帰路についてもらう。
そうすればこちらは一段落、その後今度は魔族側の大将に隷属の魔法を掛け同じようにご帰還願うという寸法。
(よしそろそろか)シュウ
シェルター前の更地で戦っていた最後の共和国軍機が両腕を壊され、魔族の機体に覆いかぶさった形で停止する。
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