第33話 用意することは

用意することは


明日は共和国から増員がこの星にやってくる、多分魔族側も増員が来る頃だろう。

基本的に共和国側から直接手を出すことはない、それは魔族が共和国と戦争をしようとしているわけではないからだ。

それと共和国側へ魔族側からは、この戦闘行為に手を出すなと注意の連絡をよこしている。

それは魔族側の一方的な考えによるものだ、王族の2名は魔族側の約束を違え戦争を始めたのだと、どうしてかくまうのかと。

女王から聞いた話とはまるっきり逆の話だが、こうまで食い違うと争いになった元の代表に話を聞かないことには問題の解決はできないだろう。


「基本的にやれることは変わらない、明日は初日のように罠を張る」

「もしかすると決戦になるかもな」

「ですがもう敵の機体はほぼ壊したんじゃ無いのか」

「いや逃げてくる時見たのは戦車に近い機体だ」

「戦車…」

「敵さん隠してたんじゃないのか?」

「そうかもしれないが、明日はそれだけでは済まないだろう」

「ああこちらも共和国軍の兵士が援軍としてやってくる、タイミングは多少ずれても双方がやりあえば相当な被害が出ることは変わらない」

「味方の船は何処に着陸するんですか?」

「ここから30k離れた山の中腹だ、魔族の軍船はたぶん仲間とそう離れていない場所へ着陸するだろう」

「遺跡群のある場所では移動にてこずるからな」

「女王様すでに本国の奪還が完了しているのになぜ引き返さないのでしょう」

「本国の奪還と私たちの捜索、殺害命令ね、このふたつは別々なの」

「本国の奪還は私の国と友好国との取り決め、それは友好の証であり相互協力関係の延長でしかないわ、お互いに国を攻められ星を追われるならば、その時お互いの国を奪還管理するという」

「それは国を守ることだけではなくその現状を壊さない、証拠保全のための行為でもあるのよ」

「もし私たちが全員死ぬようなことがあれば、証拠が出ても王のいない国はどこが管理すると思う?」

「今管理している友好国ですね」

「ではそれがなければ?」

「敵の国です」

「そうそうなれば証拠の捏造は当然行われるでしょう」

「友好国もそれを知っていて協力してくれています、もし私自身が悪いことをしているならば友好国はまず私を捕まえに来ると思います」

「それでは?」

「たぶん魔族の国が言っていることが正しくない証拠をすでにつかんでいる可能性があります」

「ですが魔族は意地でもそれを受け入れないでしょうね」

「認めれば今度は自分たちが追われる立場」

「そう少なくとも王族やその側近ならば100年規模の幽閉生活を強いられるでしょう」

「幽閉で済むんですか?」

「寿命が長く不死という場合もある種族です、死ぬことにあまり執着していない者がほとんど、彼らは最後に花を飾るぐらいの事としか考えていないと思います」

「面倒な奴らね」グラニー

「隣の国の魔族は現在189代目の魔王ですが歳はまだ若く、後見人が付いています」

「そんな年若い王がこんなにしつこく隣の国の王族を追いかけるとは思えません」

「裏に画策している魔族がいるってことですか」

「その通りです、その者と外の星に住む魔族とが結託して惑星ビュリアを手に入れようとしている、私はそう考えています」

「こちらの星の方々にご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、あと少しお力をお貸しください」

「いやそれは…」

「女王様大丈夫ですよ、皆女王様の味方です」

「ありがとうございます」

「私からもよろしくお願いします」


午後6時、見張りに出ていたマシンはすでにシェルターの中に入り整備倉庫でダリルの点検を受けている。


「ほれエージなおったぞ」

「ありがとうダリじい!」

「少し色が違うがな」


ガンメタルと灰色の機体に真っ黒い外装の足が取りついている、足先の車輪モジュールは元の色のままなので。右足の脛部分のみがマックロの外装で取り付けられている。

この星には塗装するための機材がない、廃棄遺跡からも見つからないのでそれだけが難点だ。

だからと言って性能が悪くなるわけではない。

もともとエージが手に入れたロボットは捕獲の際壊れてしまった箇所が多かった機体、なので腕の外装も色違いだったりする。


「まあ足は敵さんの外装だから前より丈夫になったからな」

「いいね~」


これで7機全部が行動可能となった。


「じゃあ大型機は?」

「当分は姫様が乗るみたいだな」

「そうなんだ」

「こいつは簡単に搭乗者変更できたからな」

「よっシュウ!」

「おうエージ、ようやく直ったな」

「ああ、長かったぜ」

「俺はもうデカブツ専用搭乗者になったかと思っていたぜ」

「おいおいそれも悪くなかったんだけどな」

「姫様が乗っていればだろ」

「ばれた?」

「でも姫様はお前の事しか気にしてないってのが分かったからな」

「何言ってんだよ、そりゃ婚約者っていう肩書の手前だろ」

「いやそうじゃないぞ…まあ細かくはおしえてやらねえ、自分で何とかしろよ」

「なんだよそれ」

「うらやましいぜ~」


それぞれの夜、外はいつの間にか雪が降っていた、そして朝方外宇宙からやってきた船の飛行音が聞こえてくる。


【こちら第16シェルター隊長コッドどうぞ】

【予定通り貴殿の所属するシェルターから30k東の山腹に着陸する】

【了解】

「味方が来たぞ」

「救助活動の船は?」

「あの船は紛争が方付くまで大気圏外で待機だ」

「よし1時間後罠を張りに出るぞ、用意しておけ!」

「了解」


シェルターのバイオトープも7k東側にあるので位置は少し違うが隊長はそちらにも2機、農作業の護衛として強化ロボットを向かわせた。


「シドニーさんよろしくお願いします」姫

「かしこまらなくても良いわよ」

「これで私もロボット乗りになれるわ」

「今までは?」

「農作業運搬車乗りね」

「だって10万G(ジール)なんて初めから廃棄物の採掘に出なければ手に入らないんですもの」

「そうなんですか?」

「シェルターの仕事は廃棄物の採掘以外は食事つきだからいいけど、一日働いて100Gがいいところよ、10万Gは3年分の稼ぎね」

「え?廃棄物の採掘は食事も有料なの?」

「だって本来あっちは外貨稼ぎみたいなもんでしょ、部品だって半分以上共和国に売るんだから、そうしないと向こうだけ得しちゃうじゃない?」

「それできついようなこと言っていたのね」

「でもこの騒ぎで全員報奨金が出るんでしょ」

「そうなの?」

「あなたたちのおかげよ」

「そういえば…ママがそんな事言っていたわね」

「それに、気功術のデータだけでも、この先いい暮らしができそうだわ」

「ああ あたしは孤児院組じゃなくてもともとこの星への志願家族だから、いい仕事が見つかればどこかの星に行くのも構わないわ、両親もそうしろって言っているし」

「そうなのね」

「さあもう少しでつくわ」

「はい」


シドニーとクリスはバイオトープ施設の見張りとして今日は大型強化ロボットに乗ることになった。

昨日まではエージが搭乗していた席にシドニーが座っている。

クリスティはこの騒ぎが終われば、一度共和国政府の最高責任者と女王が会う時に同行することになる。

そうなれば必然的にシドニーがパイロットに就任するのだが、彼女はそれも数年でやめるということを話している。

まあ今回の出来事で人生は大きく変わってしまうのも仕方のない話だ。

気功術の情報、忘れ去られた過去のデータを使いキコー力を鍛えれば強くなるだけでなく魔法まで使えるのだ、夢を見るなと言っても無理だろう。

だが気功術は良いことをしなければ成長しないという縛りがあることも忘れてはいけない。


「クイントは防衛班に行かなかったんだ?」

「俺は共和国軍との挨拶も兼ねて今回はこちらに参加したんだ、そうしないと一般人と軍人の見分けが難しいだろ」

「ああそういうことね」


共和国軍の着陸地点からこちらのシェルターに来るには結果としてバイオトープを経由してくる道を通ることになる。

それ以外の道は整備されていないためだ。


「だから共和国兵士が来たら俺に知らせてくれ」

「わかったわ」


クイント・ライナーは共和国の兵士で隊長のコッドそしてトラッドと共にこのシェルターに赴任している。

こうしている間にも作業車は忙しく動き回り10棟からなる温室のような施設を次々と回り収穫と点検を行ってゆく。

朝4台の作業車には3人ずつが分乗し、振り分けられた棟を目指し作業車を走らせる。

バイオトープにも荷車が用意してあり、収穫が多い場合などはその荷車を作業車に連結させてシェルターまで運び入れる。

気功術で強化された後は皆、今までとは打って変わり収穫の作業も1.5倍、かなり速いペースで作業を進めている。

そして約1時間後、共和国軍が強化ロボット数機、そして移動用の装甲車に乗りバイオトープ前までやってきた。


「共和国第6連隊辺境宇宙軍9番艦中尉、ファンコム・トムドリーだ」

「共和国第8連隊辺境宇宙軍2番艦所属一等兵クイント・ライナーであります、お疲れ様ですお話は伺っておりますこちらへどうぞ」

「それでは先導を頼む」

「了解!」

「姫さんシドちゃんあと頼みます」

「あいよ!」


クイントの後を続き共和国辺境軍の中尉はシェルターへと向かっていく、強化ロボット5機と装甲車が4台、総員20名が後を続いていく。


「隊長、共和国のファンコム中尉をお連れしました」

「了解、こちらへどうぞ」


中尉と共に兵士5人が後に続きシェルター内に入って行く。


「共和国軍第6連隊辺境宇宙軍ファンコム・トムドリー中尉です、直ちに女王オシアナ・オースティン・アルフレア並びに王女クリスティ・オースティン・アルフレアを連行いたします」

「!!」

「連行?」

「何の冗談だ?」

「我々が受け取った命令は辺境宇宙騒乱罪として王族2名の捕縛です」

「おいおい、そりゃないぞ」

「軍に逆らうのか!」

「ちょっと待て、俺は援軍を呼んだんだぞ、じゃああとはどうするんだ!」

「王族2名を捕縛後は墜落した宇宙船の撤去そして気功術のファイル消去が任務だ」

「魔族の船のことは?」

「邪魔をするならば対応するが、我々に下された命令は2名の捕縛、そしてもう一つ昨日もたらされたロストマジックの情報を廃棄すること」

「この命令を聞き入れない場合全員を捕縛する」

「なんだと!」

「話が違うぞ」

「ドーン!」

「なんだ騒がしい」

「魔族軍が来たー!」


このタイミングで魔族が攻めてきたのは、果たしてシュウ達にとって良かったのかどうか?

だが時間はどんどん流れていく、シェルターの防衛線に仕掛けられた罠の手前で魔族軍の獣機20機そして戦車タイプの機体5機が1k先の瓦礫の前に並ぶ。

そう魔族側の援軍は将軍の指揮のもと、シュウたちが仕掛けた罠の手前から昨日のエネルギー砲を使い遠距離攻撃を仕掛けてきていた。

向こうからシェルターは陰になるため直接攻撃は当たらないが、朝に仕掛けたレーザーポッドやワイヤーの罠は次々と破壊されていく。


「おいおいちょっとやばくないか」

「それよりも。なんでこの状況で共和国軍は戦闘準備しないんだ?」

「わからん」

「シュウ 機体見ているからちょっと、隊長たちを探ってみてくれ!」

「わかった!」


今日はエージも前線で罠の設置に参加している、すでに味方であるはずの共和国軍が到着した知らせは聞いているが。

シェルター前に並んだ共和国の援軍は今の爆音を聞いてもシェルター前から動く気配がない。


「行ってくる」

「おう頼んだぜ」

「わが身を所定の場所へ、テレポーテーション」

(パッ!)


シュウはシェルターの外、ちょうど入り口のすぐ横の死角へと転移した。

転移魔法は場所をしっかり思い浮かべることができればあとは魔法力と魔法量(MP)の大きさでどこでも転移可能だ。

そしてシュウはシェルターの中を覗いてみる。


【来るなシュウ】

【隊長どうしたんですか?】

【共和国は王族を捕縛に来ただけらしい、それとお前がくれたデータの破棄だと、魔族とは戦わないらしい】

【それじゃどうするんですか】

【…俺には命令に従う以外に…】

【隊長考えがあります、みんなをできるだけシェルターの奥へ避難させてください】

【わかったやってみる、あまり無茶はするなよ】

【はい】


個別通話のキコー通信を使用して隊長のみと話したシュウはすぐに自分の愛機へと戻る。


「戻ったぞ」

「どうだった?」

「共和国軍は王族2名を捕縛しに来たみたいだ、それに俺が提供した気功術のデータの破棄を要求された」

「おいおいそれじゃ魔族はよ?」

「放置するらしい」

「え~何のための援軍だよ」

「ああ、だから作戦を練ろう」

「ここからは前線にいる4機だけで話そう」

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