第32話 間一髪
間一髪
シュウ達が戻ろうとしたとき、外に魔族軍の獣機が現れた。
「ドンッ!ドンッ!」
「なんだ?」
「おいジョバーン 出てこい」
「まずいとりあえずここから離れよう」
「転移シェルター、テレポート」
間一髪シュウはクリスティと共にシェルターへと転移魔法で戻ってくると、このことを隊長に伝えた。
「本当か、一応今日は午後6時まで入り口に警備として強化ロボット2機を配置しておこう」
「あの声は魔族の将軍の声だった」
「爆弾の仕返しか?」
「そうかな、なんとなく違う気がする、だけど隷属の魔法がばれたらやつらは手を組んで攻めてくるかもしれない」
「そういえば明日で5日目だな」
「魔族の軍も応援が到着するころだ」
「まあこっちも応援が来るけどな」
「気功術のファイルは?」
「もちろん共和国軍に流してある、だから今回派遣されて来る兵士も気功術の訓練は済んでいるはずだ」
「そうですか、それなら安心だ」
それからしばらくは助け出した子供たちの相手をした。
「君は何処から連れてこられたの?」
「ええとね、お姉ちゃんときたの」
「そうなんだ」
「ねえあのこわいおじちゃんたちはどうなったの?」
「たぶん今頃おうちに帰っていく頃かな?」
シュウたちが去った後の海賊船、その前で魔族軍の将軍と海賊の頭領が機体越しに話し合っていた。
「おいジョバーン、出てこい」
「何だ?」
「なんだじゃねーだろ、こんなとこで何してんだ?」
「知らんな」
「ん?また何か画策してんのか?」
「いや俺たちは撤退する、もうやることはやったからな」
「捕まえたのか」
「何のことだ?」
「王族だ、捕まえたのか?」
「だから何のことだ?」
「おかしいなお前、本当にジョバーンか?」
「そうだが」
「おかしい…」
「こんな奴じゃなかったはずだ」
「お前いつもの爆弾はどうした?」
「爆弾?俺はもう悪いことは辞めたんだ、そんなものは持っていない」
「ドーラ!こいつは」
「はい、魔法で操られています」
「宇宙海賊ジョバーンもモウロクしたな」
「何のことだ?」
「まあいい用は済んだ」
話が全く通じないことが分り将軍は乗ってきた機体に戻ると副官のドーラに命令した。
「ドーラこいつらを爆破する」
「な…」
「こいつらの首を持っていけば王女の件が失敗したとしても少しは首がつながる」
「そういうことですね…わかりましたわ、エネルギー充填」
「全砲門海賊船へ、テー!」
2機の強化ロボットから放たれたエネルギー弾は宇宙船の船体に当たると大爆発を起こした。
そして中に仕掛けられていた爆弾が誘爆しあたりは真っ黒な煙に覆われる。
「おじき、今までありがとうな、これで面倒な奴が一人減った」
「そのようですね将軍」
「次はあいつらだ!」
魔族軍の試験機それはエネルギー砲を2門取り付けたいわゆる長距離攻撃に特化した機体。
ロボットというより戦車に近い、大きめの砲門が2個付いた機体は足こそあるが大きなキャタピラが付いており砲撃をするときには地面に足を折りたたむ。
そう将軍の戦い方からは少し外れた機体のためこの機体を使うのはあまり気がすすまなかった。
勿論それは個人の趣味趣向だ、だがそれでもシュウ達にかなわないとは、将軍も考えられなかった。
エネルギー砲・単純にレーザー砲に近いがエネルギー砲の場合は先端にエネルギーを溜めて射出するため。
穴が開くレーザー砲と比べると鈍器と刺突の違いがある、その威力はエネルギー砲のほうが断然大きく。
彼らが2機でシエルターを襲えば数回の砲撃で跡形もなく破壊されてしまうだろう。
将軍はたぶんすぐにシェルターへ攻撃を市にはいかない、そうすれば楽に仕事は終わるが。
悔しい気持ちよりも今回なぜ自分たちが何度も負けたのか、その理由が知りたかった。
だからこの機体を使用し攻撃するのは脅し、話を持ち掛け脅し相手の情報を引き出す。
そうしなければこの先魔族軍は人族の軍隊に勝つことが難しくなると考えたからだ。
「一度戻るぞ」
「はい将軍」
海賊の宇宙船が停泊している場所から、大きな爆発音が聞こえた。
「ドーン!」
シェルターのシャッターわきから外を見ると遠くの方から黒い煙が上がっていた。
その場所はさっきまで子供たちがとらえられていた場所だ。
「あれは海賊船の方向」
「魔族軍が粛正したのか?」
「そうかもしれない」
「明日はもしかしたら決戦になるかもしれないな」
「子供たちの世話は任せる、俺たちは明日の作戦を練ろう」コッド
「わかりました」
女王もクリスもそして捕らえられていた女性たちも、今は子供の世話でもみくちゃ状態。
急にシュウは昔を思い出した。
自分たちがこの星へ不時着し、一時期孤児院に預けられていたころを思い出していた。
シュウ達がこの星に逃れてきたのは10年前、その時は別のシェルターに保護されていた。
下は赤ん坊から上は18歳まで、基本的に脱出ポッドに乗せられていたのは女子供がほとんど。
大人は通常の宇宙船で植民地から逃げ出した。
この星にたどり着いた脱出ポッドは4つ、一つのポッドに20個のコールドスリープ装置が積んである。
それが4つで80人、全員が1歳から16歳までの子供達だった、特に4歳前後の子が多く半分がその年齢だった。
脱出艇がこの星に到着する1年前、同じ星からの難民船が1隻この星へ逃げてきた、すでにその船で生き残っていた難民は共和国政府にて保護いや捕獲されている、要するに子供たちとは別々に保護することになった。
それは魔族の敵視する矛先が子供たちではなく、大人に向いていたからだった。
勿論大人全部が悪いわけでも問題があるわけでもないが、敵の魔族はそんなことまで分けて考えてはいない。
その当時の大人たちが彼らを怒らせてしまったため起こった紛争だった。
彼らは開拓民として植民地の星に入植した、はじめは魔族ともそれほど険悪な状況ではなかったが。
問題は入植後10年ぐらいたってから起きたいざこざが原因だった、もともと植民地となる星に目を付けたのは魔族の方が早かった。
星の開拓割り当ての交渉で人族の調停官が賄賂をもらい魔族側の不利になる証拠を捏造、会議の場で魔族側は激怒し人族側の担当者全員を殺害。
それに怒った人族側の調停軍と戦闘状態になる、後で人族側の不利になる証拠が多数出てその星は人族が開拓する権利を失い開拓民は全員がその星から逃げ出した。
その後人族側の調停官に金を払い証拠を捏造したのは植民地にいた大人全員の総意だったという証拠が見つかり、当時植民地にいた人族の大人全員が裁判にかけられることとなった。
すでに大人たちは裁判にかけられ強制労働20年の刑を科せられている。
その後シュウ達はこの星に辿り付き、一つのシェルターに集められ共和国政府から派遣された保育士の元、5年間そのシェルターで過ごした。
その間に基本的な生活の規則やこの星での生き方を教えられ10歳になりこのシェルターへと配属された。
「この子たちは今後どうなるんでしょう」
「う~ん、帰る星があるなら帰ることができるけど、大抵は未開の惑星で暮らす貧困層の家庭の子が多いから、里親を探すか、この星で当分暮らすかですかね」
「私たちの時みたいに共和国政府から保育士さんが派遣されてくるのでしょうか?」
「それは分からないわ、だって今は保育士になれる子がいっぱいいるもの」
「そうね」
海賊船にとらわれていた子供たち総勢15人、15歳以上の子が2人20歳を超えた大人が3人。
大人は人族が一人獣人が二人、子供たちはさらに人種が入り混じっている。
中には魔族の子もいる、違いは肌の色と角。
だが見た目の違いはそこだけ。
勿論シェルターにいる仲間にも獣人種の血が混じっている大人もいる。
ただこの星のシェルターには人族系が多いというだけ。
この時代は人種による差別は植民地として星の取り合いをしている地区じゃない限りはほとんどない。
これは種族間による認識をビーアイというキコー式脳波伝達装置の使用で、意思疎通の障害がほぼないと言うことが要因だった。
識字率の補助それに情報の共有、教えないではなく分け与える思想によるキコー式のビーアイの使用率は全宇宙で認められ魔族でさえその思想に賛同している。
まあ一部人族の作ったものに拒否反応を起こしている部族もいたりするが、3万年経ってもその有用性は失われてはいなかった。
「5歳になった子はいない?」
「はいあたし5歳、この子も」
「じゃあこっちにきて」
シェルターにあるBIW(ビーアイ)脳波拡張装置を使い情報を5歳児に分け与える。
どの地区かどの星か種族は、それが分からなくても言葉を話せなくても脳内の情報を共有することでまずは知らないことで起こる不安が取り除かれることになる。
結局海賊船から助け出された子供たちはここのシェルターで面倒を見ることになった。
子供たちが見せる笑顔には、シェルターにいる全員が勇気と希望をもらう事が出来た。
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