第25話 2度目の戦闘
2度目の戦闘
あと少しで昼になろうとしていた、朝渡された箱には昼食として食べるための食料が入っている。
この時代ではそう珍しくもないパンとサラダのサンドイッチというものに近い外見。
バイオトープで作られている小麦と野菜で作ったものだ、それを食べている最中。
地面から異音が聞こえてきた。
【隊長、来たようです】
【全機敵に備えろ!】
戦闘用に換装された腕には先ほど書いたかぎ爪ともう片方の手には盾付きのアーム、その手には電動ナイフが握られていた。
刃渡りは2メートル刃は3枚構造、チェーンのような形状ではなく強化ブレードの鋸刃を3枚重ね真ん中の刃と左右の刃を別方向に上下に動かす、両刃が互いに固定させた状態のまま高速で動くためバッサリとはいかないが、相手を固定させ突き出せば数分で外殻は2つに切り離すことができる。
白兵戦に特化したスタイルだが、今までと違うのはそこじゃない。
そう気功術の付与術による機体の強化。
今まで、いやこの時代になってからそういう使い方をした人族はいない。
【気功防御発動】
【付与術式武器強化!】
隊長がそういうと他の隊員も同じように詠唱し機体の強化を行う。
【来た!】
3k先から土埃が舞う、いくつかの機体には焦げた跡が見受けられるが、たぶんここまで来る途中でレーザーポッドにでもやられたのだろう、だがその程度の障害など獣機にはなんでもなかったようだ。
虎のような機体が5機そのほかはクマかゴリラかと思えるようなずんぐりした機体が10機。
どう考えても4機で相手する数とは思えない、だが逃げ出すわけにはいかない。
横並びで突入してくる獣機は案の定用心深くとは言えないスピードで近寄ってくる。
その姿が100メートル以内に収められたとき数機が罠にかかっていく。
1機また1機と、そしてパニックを起こし数機がともにぶつかり動きを止める。
【おいおい敵はあほか?】
あれだけ注意深く用意して、最悪の状態を想像していたが答えがこれとは、だが少なくなったとはいえ今まで勝つのは難しいとされてきた獣機。
油断して飛び付くなんていうのはド素人、できれば次の罠にもかかってもらわないと意味がない。
だが敵は仲間の救出を選択する。
【まだだ、チャンスを待て】
そう敵さんは、さすがに罠だと気が付き、足を止め仲間の救出を始める。
【いまだ!】
右と左の罠にかかった獣機をまずは無効化、気功術で強化したブレードを突き刺す。
強化した刃は簡単に敵の機体を引き裂いた。
驚いたのは敵だけではない。
【す すごい】
「ギャイーン」
「ドン、バキッ」
「ズズン」
「うわー、くるなー」
「ギャー」
左右から聞きなれない音と共に罠にかかった魔族の獣機が次々とやられていく、仲間の断末魔を聞くと魔族の兵隊達は怖気ずく、その間も次々と両側から順次壊されていく獣機。
いくら中で操縦しているのが人族より頑丈な魔族でも、目の前で獣機の頭部が切り裂かれ腕の部品が切り取られてしまえば、なすすべもなく動きを止める。
満を持して中央からわれらが隊長コッドの乗る戦機が登場、ゆっくりと敵の真ん中へ迫る。
その間10分、すでに残る敵は5機まで減っていた、中に乗っていた魔族は動かない機体を捨てさっさと逃げだす始末。
【おいおいうまくいきすぎだろ…】
【花は隊長に持ってもらいましょう】
【わかった!】
「おい魔族!どうするまだやるか?」
「ぐっ…撤退!」
何と10機倒したところで後の5機は尻尾を巻いて逃げ出した。
「うお~~~~やった~~」
「まじか~」
「おお~ 俺もびっくりだが、気を抜くな」
それからは罠を撤去して敵機の残骸をまとめて集める、取り返しに来るかどうかはわからないが、とりあえず邪魔だ。
こういう残骸は残しておくと敵が獣機を使わず生身で潜入するときの隠れ蓑になる。
10機の残骸、コクピットに入り電子部品のモジュールを抜いて電源を切っておく。
そして再利用するためにシェルターへ運ぶ。
勿論その他の部品も同じく修理して使えるなら部品単位で回収。
1時間後には敵機の残骸が骨格しか残っていなかった、たぶんこれを見たら魔族は泣くだろう。
「なんだよ、そんなにうまくいくなら俺もそっち行けばよかったぜ」
「いやいや、そうは言うが、相手は獣機15機だぞ」
「そうだ、最初に見たときはさすがに俺も躊躇したぞ」
「隊長も人の子でしたか…最初見た時は鬼か妖怪にしか見えませんでしたが」
「だれが妖だ、まあ俺だって前回の戦闘からかなりブランクがあるからな」
「運がよかったんだ」
「ああそう思っていた方がいいぞ、次来るときはあんなに直線的には来ない、別の場所から攻めてくると思って間違いないだろう」
「それにしても気功付与強化術はすごいな、敵の装甲がスパスパ切れた、普通のナイフのような切れ味だったぞ、それに機体全体も途中でかまれたりひっかかれたりしたが無傷だった」
「それほどか…」
「なんで今までこんな便利な情報、隠していたんだ?」
「たぶん単純に要らなかったからでは?」
実は1万年前ぐらいまでは人族も魔族もそれほど仲は悪くなく、お互いの交流も平和に行っていた。
だがお互いがどんどん発展していくと、末端の組織は互いに争うようになり。
我先にと星を開拓していく、当然のことながら争いが勃発。
1度ならず2度3度と和平の調印を行ったがそれは一つの国かもしくは一つの星単位でのこと。
それを見て納得できない他の国がちょっかいを出していくという、終わりなき戦いにどんどん飲まれて行く悪循環。
昔取った杵塚(気功術)などとうに忘れてしまった人族は、そのままでも強力な肉体と魔術を使う魔族にはだんだん敵わなくなっていく。
そして現在かなり人族は追い込まれている、始めに星を開拓しだしたのは人族のため占領している星の数は二桁以上違うが、最近はそれも停滞気味。
先に魔族が介入し星を奪っていくこともしばしば、最近の情報によれば開拓成功率は人族が1に対して魔族が3という具合。
それに人族がタブーとしている星まで魔族はその環境に順応できるため。
この数年でどんどん差は埋まってきている。
「こりゃかなり増えたな」
修理するときに使う代替え品が、一気に増えた。
しかも今まで手に入れてきた品物とは違いかなりの高品質、修理担当のダリルはかなり嬉しそう。
「これでエージの機体も直せるぞ」
「マジ!やった」
「修理費は別じゃがな」
「え~…」
ここ数日は戦闘やら探索やらで、大して稼いではいない、もちろん姫様たちの救出を手伝ったため辺境共和国政府は後でそれなりのお金をくれるとは思うが。
それまでは懐がそれほど温かいわけではない。
軍人のように給料制でもないので、懐は現在ジリ貧である。
「支払いは待ってもらえませんかね~」
「まあこれだけ部品があるから売ればそれも金になることだし、まあ待ってやらんこともない」
「ダリじいあざ~ス」
「まったく調子いい奴だ」
奥の会議室では今後の作戦を話し合っていた。
「共和国政府からの増援は五日後、だが魔族側の増援もたぶんあり得るだろう」
「そうですねあの船ですと獣機は20機前後かと思います」
「まだ死人は出ていないから最後は肉弾戦もあり得る」
「その前に増援は当然呼んでいるだろう」
「まあその前に過去の遺産が手に入ったのは運命だったのかも な…」
「まあ後はやるだけですよ」
「一応バイオトープ周辺にもレーザーポインターとワイヤーアタックは仕掛けておいたので、周辺に行くときは注意してくれ」
「それじゃ早速、明日だが」
「ここに2機警備として残し4機はこちらから打って出ることにした」
「行くんですか?」
「明日向こうからやってきたとしても回収用の機体かもしくは運搬車ぐらいだろう」
「そうですね向こうも修理するのに必要な部品は手に入れたいですからね」
「我々から今度は打って出る、そうなれば作戦時間がネックになるだろう」
「そうですね」
「まあ魔族を退治に行くっていうより反撃させないっていう作戦だ」
「やつらの機体は当然無効化するが、できる事なら敵の宇宙船も壊してしまおう」
「まずは様子を見て外に出てくる機体は順次無効化」
「その間に改造したレーザーポインターを敵船の出入り口に設置し、船体に穴をあけることができれば成功だ」
「入口に仕掛けるのは?」
「出入り口が壊れればやつらが船から出て来られなくなるだろう」
「あの手の船は出入り口が2か所らしい、二手に分かれ2個ずつポインターを仕掛ける」
「起動したとたん障害物認定が行われるので、魔族が出てくればすぐに発動」
「2つのポインターから発せられるレーザーにより出入り口が故障すれば成功」
「もし失敗しても、ポインターで傷ついた船体を修理するのが難しくなる」
「できればあと5機つぶせることができたら万々歳だ」
「あとの機は」
「エージと姫様そしてクイントが残り組だが、問題はあるか?」
「私もシュウに付いて行きたいんだけど」姫
「それは却下だ、もしつかまって殺されるようなことがあったらここまで逃げてきた意味がないだろう、それに君たちを逃がすため死んでいった仲間はどう思うか考えた方がいい」
「それは…」
「まあ考えていることは分かる、君もやられてばっかりじゃ気が収まらないんだろ」
「そうよ」
「だがここは君の故郷でもないし今君は助けてもらっている側にいる、そして君がもしつかまって死ぬようなことがあれば我々の責任が問われるんだよ、わかっているよね。」
「警備で配置したマシンの搭乗を許しているんだ、当然ここまで攻めてきた敵を排除するのは君たちに任せるが、くれぐれもそれ以上の行動は控えてくれ、深追いもしないように」
「わかったわよ」
姫様は憮然としているが彼女が強化ロボット乗りでありかなりの戦闘技術を持っているのもみな知っている、だから隊長も搭乗を許可している。
本人はリベンジしたいだろう、あんな目に合わせてくれたのだから仕返ししてやりたいと思う気持ちは分からなくもない。
だが五日後に迎えの船がやってくるそれまでは我慢していてほしいと思う、それはこのシェルターにいる全員の総意。
「俺は姫様と話せるから役得だけどな」
「別にお前は前線に出て姫様一人に警備を任せてもいいんだけどな」
「まじ、いや…まだ俺の機体は治っていないし」
「まあまだ予断は許さない状況だ、明日の作戦がうまくいっても我々は魔族を排除はするが皆殺しにするという命令は受けていない」
「そうなのか?」
「ああだから今日も逃げていく魔族の機体を放置したんだ」
「ああそれでなのか」
「だって居場所は分かっているんだから、後でいくらでも攻撃しに行けばいいってことよね」
「そう、面倒なのはやつらが姫様たちを狙ってきていることだけ」
「星間条約では反撃に出て殺害しても問題はない、だがそうすると今度はやつらの敵とみなされ戦争状態に突入する」
「めんどうくさい奴らだな、まったく」
「そのうちまた和平に向けて調印することになるだろう」
「女王陛下はこの後どうなさるのですか?」
「まずは私たちの命の保証、その後は国の奪還が今後の解決すべき問題となるでしょう」
「先の長い話だな」
「姫様たちの星って?」
「惑星ビュリアよ、水と緑の豊富な星で私の国のほかに5つの国があるわ」
「ほかの国は?」
「一つの国はもともと魔族の国なの、今回もそこの国が突然攻めてきて宇宙に逃げたんだけど」
「その時にはすでに外堀も埋められていたってことよ」姫
「昔から魔族の国とはことあるごとにいざこざが絶えなかったのよ、でもこんな手の込んだことをしてくるとは思ってもみなかったわ」
「じゃあ早く取り戻さないと」
「いいえもう取り戻しているはずよ、お隣の国が黙っていないもの」
「そうなの?」
「そうよ、すっごい強~い、お友達がいるのよね」
「私が眠っている間に連絡が来ていたみたい、奪還完了って!」
「へ~~」
「でも戻るのが大変なのよね」
「どうしても帰したくない理由があるのよ」姫
「詳しいことはまだ分からないけど、たぶん約束を破ったことを認めたくないんじゃないかしら」
「もちろん私が持っている情報も含めて公表されたくないはずよ」
「今は個々の国が単独でターゲットになっているだけだが、周りの国もまとまってかかれば魔族の国はあっという間に亡ぶだろう」隊長
「そうよ、でもそうするとまた罪もない人たちが犠牲になるの、魔族でもいい子たちはいっぱいいるのよ」女王
「母はそうならないために動いていたんだけどね」姫
「その情報って2国間条約の締結ってやつ?」
「あらシュウちゃんそれは話さないで」
「ああこれなんだやっぱり…」
「ママ、シュウにそんな情報まで渡したの?」
「だって、彼ミスイさんの血筋なんだもの」
「ミスイさんの血筋?」
「あら、知らないの?英雄伝説?」
「小説の主人公?」
「そうよ、星を渡り歩き危険を排除しまくる神出鬼没の英雄」
「はいはい、読んだことあります」
「ある時は男の子に乗り移り、ある時はナイスバディなお姉さんになり、ある時はケモ耳女子になって宇宙を渡り歩く英雄よ」
「それがなんで?」
「あの物語に出てくるミスイヒデキは実在の人物なの」
「え~~~」
「そうよ、知らない?」
「知らないですよ」
「そしてそのミスイさんの親族は当然ミスイの苗字なわけだけどほかにもいくつか苗字があってオースティンっていうのとキルムさんっていうのも血筋なのよね」
「どうしてそれを?」
「だって本人に聞いたんだもの」
「本人?」
「さっきも言ったでしょ彼は憑依するのよ、子孫に」
「もしかしてあのおじさん?」
「あらわかった?あなたが7歳の時、イケメンなんだけど少し暗めなおじさんが来ていたでしょ、あなた気に入っていたじゃない、遊んで貰った事覚えているでしょ、あのおじさん一応親戚なのよ」
「あのおじさんの名前はジョーイ・オースティンっていうんだけど中身はさっき話したミスイヒデキさんなの」
「でもあれから後は急にどこかに行っちゃったじゃない」
「彼は仕事が終わると過去に戻っちゃうのよ、そうなるとこの時代にいる元の人格に戻るから本名のジョーイ・オースティンに戻ってしまったの」
「それで…」
「彼は少しの仕事と情報を私に渡すのがその時の仕事だったみたいよ」
「仕事って?」
「お隣の国にいる子孫に私たちを助けてもらうように手筈を付けるのが仕事だったみたい」
「僕のことは?」
「言われたわよ12年後に自分と同じ苗字を持つかわいい男の子が接触するから渡してくれって」
「そうだったんですか…」
「あ~ ちなみに私たちも彼の子孫だからオシアナ・オースティン・アルフレア」
「ママそれ初耳なんだけど…」
「そんなこと私も知ったのは彼と出会ってからだもの、その2年後怪我でカプセル入りして話す暇がなかったのよね、あなたはまだ子供だったし」
「言っておくけど遠~ い 親戚だから、結婚はちゃんとできるからね」
「な!…」姫真っ赤
女王様のお話はまるで夢物語もいいところだ、もらった情報を紐解いた俺には全部本当のことだと分かってしまったが。
彼の子孫はどの星にも最低一人はいるらしい、もしその星で大量に人が死ぬような破滅的な事件が起こりそうなとき、もしくは星自体が滅亡しそうな時、彼は必ず自分の子孫に乗り移りいくつかの仕事を終わらせ自分の生きている時代へと帰るらしい。
いずれ俺も彼に憑依されるのだろうか?それともすでに情報を受け取った俺には彼は憑依しないのだろうか、それは分からないが。
まさか遠い祖先が目の前にいる王族とつながっているとは思いもしなかった。
「だからあなたは私の遠い甥っ子ということになるのかもしれないわね」
「でも俺がいた星も魔族にやられましたよ」
「ああそうだよな」
「あなたたちのいた星はミスドラ星系の惑星メテラね、確かあの星は逆だったかしら」
「ああ君たちの星は魔族の星を占領しようとある国に開拓民として送り込まれて、開拓途中にいざこざが勃発、その星で人族も3世代まで来たところで、魔族と戦争になり逃げだしたと聞いている」コッド
「あの星の人族はせいぜい3万人だったかしら、ほとんどが逃げて無事だったと聞いたわ」
「確か現在は送り込んだ王族がやってきた不祥事が明るみに出て、国自体が廃国になっているという話だ」
「それじゃ帰る国はなくなったわけ?」
「いや国の管理が共和国政府になったというところだ」
なんとも不思議な話だ、女王様と遠い親戚などと言われてもまるでピンとこない。
外見もまるっきり違うし、髪の色もかなり違う。
まあ美女とイケメンという部分だけはちょっと被っているぐらいだが、嘘か本当か過去にさかのぼり祖先である爺さんにでも聞かない限り確認などできないのだが。
さすがに女王からもらったデータにもそこまで細かいことは記されていなかった。
「それで本題だが明日の作戦は朝7時から始める、みんなしっかり休んで明日に備えてくれ」
「了解」
結局自分たちがどこからきてこれからどうするかが、なんとなくわかってきた。
だが共和国政府が管理する王国に戻ることはどうやらできなさそうだ、今から10年前ということはすでに10年が経ちその国は再建していることだろう、なのにシュウたちに対してお呼びがかからないというのはどういうことなのか。
単純に受け入れられないという可能性が高い、すでに星の人口が飽和状態という可能性もある。
それとも管理する政府側の都合なのかはわからないが。
だからといって一生廃棄惑星で暮らすのも夢のない話だ。
まあ現在シュウには女王様に付いて行くという玉の輿プランがあるのでそこは皆より少し進んでいるが。
それに実はシュウには仲間に好きな子がいたりもする、口には出さないがそれはおいおいわかることだろう。
作戦会議も終わり食事も済ませ各自が自分の部屋へと戻り就寝する。
「ねえ、シュウは姫様と行っちゃうの?」
「俺にもわかんないよ」
「でも婚約って、結婚する約束をしたってことだよね」
「ああ、そうしないと自殺するって脅されたんだ」
「そうなの?」
「あ やべ 誰にも言うなよ、姫さんも必死なんだから」
「そうなんだ大変だね」
ここ数日は廃棄物遺跡の発掘収集も行うことができず同室の仲間はバイオトープの作業へと回されている。
明日はその元凶である敵魔族の船を攻撃に行く、果たして作戦通りに行くだろうか。
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