第22話 魔族の力
魔族の力
逃げ帰った敵の大将は、壊れた獣機を見ていた。
「どうだ、直りそうか?」
「ええ 何とか」
「明日までに頼むぞ」
「あ 明日!」
「何だ、できないというのか?」
「で できますよ、やります今すぐに…」
「じゃあ頼んだぞ」
修理を担当しているのはドワーフの一族、彼らは亜人に属するが機械系の制作には優れた技術を発揮する。
だが、目の前の獣機を見てため息が出る、壊された獣機の外殻は特殊な金属で出来ており予備はそれ程積んではいない。
今回この機体に使ってしまうとほかの機体が故障した時にはすでに品薄となり別の金属を使用しなければならず、それは己の主義に反するところだ。
「なんで壊してくるかな~しかもはがされた外装の回収をしてこないし…」
(はああ~~)
この船の指揮官である将軍ガリオンは今日の戦闘を体験して、少し違和感を覚えた。
彼は現在156歳、魔族の中ではまだ半人前といえる年齢なのだが、それでも宇宙に出てすでに100年が経ち経験は豊富な方だ。
将軍位をもらってからはまだ20年と浅いが、今まで負けたことなど片手ぐらいしか経験していない、しかも1対1での負けは一度も無いのだ。
それが今回はほぼ負けたと言って良い、そして彼は考えていた強いのが白い奴1機だけならという言葉が頭の中でコダマする、そう他にも同じような人族がいたら明日自分たちは敗残兵と化すだろう。
もともと独断専行が大好きなガリオン将軍は、魔族の中では偵察隊みたいな部分も兼ねている。
本来自分勝手に動き回り言うことを聞かない魔族など、軍という組織の中では、目の上のたん瘤としか言いようがない。
しかもそれが将軍職だというのだから魔族は何を考えているのか。
だがそれも彼がただの戦争ジャンキーじゃないからこその地位だということがうかがい知れる。
彼には野生の勘なのか虫の知らせというのか、そういうスキルみたいなものがある。
その勘というやつがこのままやつらと戦うのは危険だと、彼の頭の中をぐるぐる巡っていた。
「やはり増援を呼ぶべきか…」
勿論彼の所属している軍隊が宇宙船1機だけの訳がない、じゃあなぜたくさんで来ないのか?
これは単純な計算だ、予算が無い燃料が無いお金が無いから。
この時代は先ほどから書いてある通りキコー力=魔力がエネルギー源、ということで遠い宇宙を旅するのも魔力の源である魔素集積回路や魔石や魔法の集合機械(瞬間移動航法式エンジン)を使用して宇宙を旅するわけだ。
彼らの円盤とてたやすくここまで来られたわけではない。
進むなら帰るエネルギーも確保しておかなければならない。
勿論出先で魔力を収集することも可能ではあるが、その場合の帰還にかかる時間は1年以上を要する。
彼らは基本的に任務に対して行って帰るという往復航行を選択している。
だからもし敵が逃げた場合、自分達が敵の次に到達する星が分かっていても何年も待たなければすぐに追跡することはできず、ここで離されれば手柄は別の魔族に取られてしまうのだ。
そして現在彼の持ち駒は戦艦10隻調査艇30隻、人員1万人 そのうち即命令を聞くのは千人。
要するに出動を掛けてすぐ来られるのは、戦艦2隻と調査艇5隻が関の山。
戦艦1隻100人乗り、獣機は20機積んでいるが、問題になるのは魔族の人選まで含まれる。
今は魔族もかなり節約財政を行っている、そのため無駄な出撃を中央のお偉方は絶対許さない。
そんな戦闘よりお金になる資源のある星見つけて来いというやつらばかり。
だからガリオン将軍も逃げた王族をやっとのこと探り当てても戦艦1隻のみでやってきたのだ。
指令室の中を将軍ガリオンは考え事をしながら行ったり来たりを繰り返す。
確かに逃げた王族の完全排除を命令されたが、同時に予算はここまでとくぎを刺されていたりする。
昔ならこんな遠くまで来ることもなかったのだが、今は魔族もかなり数が増え。
現在魔族の住む星は50以上にもなる、もちろんまだ戦争中の星もあるのだが。人族を含め獣人族そして精霊族などとの闘いは現在のところ圧勝のため一部の魔族は快楽と暴力に呆けており、その先の未来までは見ていない輩が多い。
まあそれが魔族の性だと言われればそれまでだが、自分のような少しは頭を使い人族とほぼ変わらない考え方を持つ魔族も今はたくさんいる。
「仕方がない、呼ぶか増援!」
「予算は?」
「…今どのくらいある?」
「あと半分ですね」
「戦艦1隻までか…」
「はいそのぐらいですね」
副官のドーラ・マルセラはサキュバスという魔族に属する、なぜか眼鏡をかけている女魔族。
容姿はかなり美しい、だが少し肌に触れようものなら責任を取って妻にしろとすぐに迫ってくる。
すでにガリオン将軍には3人の妻がいて6人の子持ち、魔族の将軍でも収入はせいぜい貴族の男爵位と同じくらい。
一応高給取りではあるのだが、この時代は割当制になっており人族の社畜とほぼ変わらない。
ちなみに将軍職はせいぜい子会社の社長と同じで、給料制によって賄われている。
これなら賞金稼ぎのようなハンターよろしく自営業の方が儲かる時はかなりいいような気がするが。
それでは安定した収入を得て妻3人子供6人を養うという図式は浮かんでこない、それに子供の就職先も軍にいれば安泰なのだから。
「本部へ連絡、ガリオン・シュペルナー将軍の名において増援を要請する」
「規模は戦艦1隻魔族100人、獣機20機以上、できるだけ精鋭を選んでくれと伝えろ」
「かしこまりました、手配いたします」
増援の知らせは二日もあれば届くがそれから用意してここまで来るには最低三日かかるとみていい。
ここでの戦闘も1週間でケリを付けなければいけない、それはなぜか?当然のことながら食料の備蓄は100人分1週間。
それ以降は腹をすかせたまま戦争をするしかない、それにこの星は食料を探すにも大変な場所。外は瓦礫の山、機械部品はあちこちを探せばいくらでも手に入るだろうが食料は別だ。
魔族も宇宙に出るようになってからは宇宙食なるものを食べるようになっている。
一応上級魔族ならばストレージ持ちがほとんどなので、大体5メートル四方1トンまでなら食料や備品を運ぶことができるのだが。
この船に乗っている上級魔族は将軍以下3名というところ、船の中はその他の備品や獣機それに人員が休む場所などであり。
積み荷も雑多に置いてあるわけではない、その部分も人族の船と同じ使い方だ、大きく違うのは個体の大きさだろう。
人族の身長が2メートルあれば大きい方なのに魔族は大きいものは3メートルを超す。
その分食料も多く取らなければならず、それに魔族はそれぞれに食べるものが違ったりする。
獣魔族はほぼ肉食、サキュバス・インキュバスそれにバンパイアは生気や血液を。
長い時間で基本的なことは少し変化しており食料も代替え品がかなり増えてきている。
魔族の食事情はかなり複雑なため、持ってくる食材もかなりバラバラなので食料調達係はそれこそもう大変。
一応今回の戦争に駆り出された魔族は獣魔と竜魔それに淫魔が数人なので食料は肉のパレットが多くパウチ式の流動食は淫魔用となっている。
この辺(あたり)は宇宙系の漫画やアニメなどではめったに語られることもない裏事情だ。
逆に魔法がある世界であっても宇宙旅行をするとしたら、必ず手に入れておかなければならない情報の一つである。
もともと宇宙食の考えは人族の持っていた情報で、魔族はそれを流用しているだけなのだが、時代が進めば敵味方に分かれていても双方が同じシステムを利用するのは仕方のないところ。
但し保管用のパウチやシステムは魔法科学を応用しているので、衛生面でも優れておりもちろん容器は100%リサイクルされる。
入れもので使用されるパウチの原材料は植物と動物の内臓を利用しており、魔法で作られているため有害物質を出すこともない工場で作ったものだ。
ただ昔のように大量生産は難しく、手作業で作られていると聞く。
本題に戻ろう、魔族は1週間もすればどのみち戻らなければならない、彼らはこの星から千光年以上離れた星から来ているため、帰るのも三日以上かかる為食料が持たないのだ。
そのため戦いは短期決戦が常識、だがこの星は夜間の戦闘には向かない、夜はマイナス60度以下になる極寒の星。
いくら魔族といえども常に温感魔法を使い続けることは難しい。
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