第20話 敵は魔族
敵は魔族
魔族の歴史は人間より古いとされてはいるが、実はそうではない。
人族が過去に星を訪れたとき実験体として作り出した人間の亜種といって良い、強靭な肉体溢れるパワー、そしてどんな所でも順応し生活できる、人族に代わる生命体として生み出した新人類のはずだった、だがそれは成功でもあるが失敗でもあった。
そもそも自分たちより優れた人種が、劣った人種の言うことを聞くわけがない。
実験体数人が逃げ出し、独自に繁殖そして星一つを占領。
後に彼らは爆発的に発展すると当然のごとく他の宇宙にまで触手を伸ばしていった。
当然ながら彼らの前に敵が立ちはだかる、人族はもちろん他の種族までが彼らに対抗し始めた。
彼らは自分たちが住む場所を探しているだけなのだが、もともとそこに住む人間やほかの種族たちから見れば侵略に他ならない。
そして一度は和解する試みが試された、それから数万年が経ち。
条約にある取り決めの期限が過ぎた、本来ならばもう一度話し合い和平を結ぶように勧めるのだが。
彼らはそれを不服に感じ、取り決めの盟約にある人物の抹殺を決めた。
盟約の人物がいなくなれば自由に星を手に入れることができる、自分たちが一番優れているのになぜ自分たちより劣る種族の言うことを聞かないといけないのか?と。
長い寿命そして順応性、人族の頂点を目指し作られた生命体、今は魔族という別種族で呼ばれるが根本は同じだった。
彼らは欲望に忠実に動く、そしてこの星に逃げてきた女王と王女は盟約のカギを握る人物の一端を担っていた。
「ようやく着いたな」
「ガリオン様、探索の準備ができました」
「では行こうか、虫けらを殺しに」
魔族も人族と同じように機械を使用している、彼らの肉体は優れているのだが、人族が乗るロボットよりはやはり劣るのだ。
そのため彼らは人族の研究を手に入れ独自にロボットの開発をしてきた。
彼らの乗るロボットは人族が操る機体とはかなり違う、それは彼らが作業用ではなく最初から戦闘用に開発してきたからだ。
そのため形は獣のように獰猛な形をしていた。
「獣機を出せ」
「了解!」
赤い船体の下側部にあるハッチが開くと、そこから4機の獣のような姿をしたロボットが現れる。
「よしお前ら、わかっているだろうな」
「わかっております」
「では調査は任せる」
「え? 将軍は何処に?」
「決まっている、虫を蹴散らしに行ってくる」
獣型の獣機と呼ばれる機体は恐ろしいほど機動力に優れていた、まるで猫のように跳躍し柔らかい着地、そして敵を察知するとすぐに攻撃に移る。
だがこの星の状況を把握していない彼らはやや出遅れる。
「シュバッ!」
「シュタッ!」
機動性の高い機体は軽々と小山を飛び越え、瓦礫の間を走り抜ける。
調査は部下に任せ一機だけで単独行動をとる、いつもの癖だ彼は敵らしき生命体を見つけると単独で戦闘を仕掛ける戦闘ジャンキーと言って良い。
勝手な行動だが相手が将軍では文句も言えやしない、調査を任された部下は将軍の言いつけ通り墜落した宇宙船の調査へと向かう。
「おい、なんだあれ?」
「シュイー」
「キー」
「ジュー…」
「おっ!」
「気を付けろ、レーザーポインターだ」
「なんだこいつ、舐めてんのか!」
ポインターに飛びつくとそのまま引きちぎった。
「ガチュン!」
「ボンッ!」
レーザーの熱で少し焦げるがまったくといって良いほど無傷な魔族の乗る機体。
さらに数か所のレーザーポインターを破壊しながら墜落船に近寄ろうとするが、電磁波の影響か機体は動きを止める。
「ありゃ?故障か?」
「電磁波だ、ここから先は歩くぞ」
「マジかよ」
15kほど離れた場所まで近寄った魔族達は、動きの鈍くなった獣機から降りると、自らの足で走り出す、まるで獣のように。
数分すると墜落した宇宙船の元へと辿り着いた。
「おお~落ちてるぜ」
「見りゃわかる」
「これ中身はみんな死んでんじゃないか?」
「そうだとしても確認しなけりゃ俺たちは帰れねーんだよ!」
「将軍はどこ行った?」
「ま~た 単独行動だよ」
「しかたね~俺らだけで捜索するか」
将軍が乗る黒い機体は真っ直ぐにシュウたちがいるシェルターに向かっていた、時刻はすでに3時を回り、後は強化ロボットの格納、そしてバイオトープへ作業しに行っているグループの帰還を待つだけだった。
「まだ戻らないか?」
「一応連絡は入れてありますのであと30分もすれば帰ってくるかと…」
「仕方がない、もう少し待とう」
と、その時だった。
「ザシャ!」
「おお~こんな所にいた」
「何だ!あれは?」
「緊急警報!」
「おい…まずいまずいぞ!」
「でもまだ仲間が…」
「俺が行く!」
「俺も」
「…あの機体」
「姫様は中へ」
「冗談じゃないわ、私も戦う!」
整備倉庫へ搬入しようとしていた2機がシェルターの入り口から外へと出ていく。
目の前には今にも襲い掛かりそうな野獣タイプの強化ロボット、シュウ達が操る強化ロボットよりも一回り大きく、そして形も独特だった。
今シュウの搭乗している白い機体では襲われればひとたまりもないと思われた。
エージが乗る二人乗りの機体でも、目の前に現れた黒い機体を目の前にすると倒すことは難しいと感じられた。
「フッフッフッ ここにいた!」
この時点では誰も相手に話しかけていない、脳波によるキコーテレパスも使っていない、だが目の前の敵はそんなことも構わず襲い掛かってくる。
思わずシュウは武術の構えをとる、女王からもらった先祖の置き土産。
寝る前に少しずつデータを取得していた、その中にあった気功術の歩法と防御術の数々。
昔のシュウならば目の前にいる獣のような機体に相対する力など無かったはずなのだが…
「タンッ!」
「ズシャ!」
「ガーン!」
「グオッ!」
シュウが駆け寄ると、その獣はすぐに襲い掛かって来たのだが…
襲い掛かったはずの場所にはシュウの姿は無かった、では何処に?
直前にシュウは跳躍した、軽い機体しかも白兵戦に特化したような無駄のないシンプルな形。
シュウは落下スピードに重力魔法を上掛けし、敵の獣機に対し踵落としを叩き込む。
その衝撃は中で操縦する生身の体にまで響いた。
「ぐっ!なかなかやるな!」
黒豹のような機体はまるで本物の生き物のように、一度体を丸め背骨の具合を確かめているように見えた。
実際中に乗るガリオンは相手の出方を探ると同時に、今の衝撃で故障個所が無いか確かめていた。
骨格や各部の動きには問題が無かったが直接かかと落としを受けた外装は今にもはがれそうになっていた。
(なんだこいつ見たことのない機体だ、それに一瞬消えたぞ)
そう考えながらも距離を取り相手の周りをゆっくりと回り始める。
「トスットスッ」
まるで相手のスキをうかがっているようだ、大きさで完全に上回る魔族の獣機、勝てるとしたら機動力を武器にしたカウンターしかない。
ちょうど相手がこちらの死角に入ったところでやはり敵は仕掛けてきた。
戦い慣れている、そう感じたシュウ、だがシュウが手に入れたロストマジックは予想をはるかに超えていた。
飛びかかる獣機、だがそこで奇妙な動きをするシュウの機体、まるで蜃気楼のように相手にはぼやけて見えるだろう。
また魔法を使ったのだ、機動補助魔法・倍速 ステップを踏むようにゆらゆらと立ち位置を変える。
そして相手が近寄ったすきにまたもや空中へ飛んだと見せかける。
だがそれは相手にも読まれていた、だがシュウはさらに裏をかく、今度は上空高くまで飛ばずすれ違いざまに獣機の首へと腕を回し背中にまたがる、まるでロデオのように。
「ザスッ」
「ドンッ」
【おい中のやつ返事しろ!返事しないと叩き壊す!】
【これはこれはでかい口を叩く小僧だな】
【お前は何者だ】
【お前らの敵だ】
【なぜ攻撃する】
【は?敵を蹂躙するために決まっているだろう】
【では引く気は無いんだな】
【あたりまえだ、お前たちは死ぬか奴隷になるかだ】
【そうかじゃあお前はここまでだ!】
強化マシンの腕を気功法の気功強化術を用いて強化する、本来そういう使い方はかなり塾練した気功術師でなければできないはずだったのだが、短い期間でシュウは気功術の強化付与術まで会得していた。
それは武器もなくタイヤもついていない機体を任されたが故の努力の結果、もらったデータをフルに生かしこのシンプルな機械を有効利用しようとした結果だった。
「ゴスッ!バギャン!」
獣機の外殻である首筋の部分が真上から叩き壊された、たまらずガリオンは上に乗っていたシュウを振り落とそうと暴れまわる。
シュウはやむなく獣機の背中から離れ距離を取る。
「バッ シュタッ!」
【よくもやってくれたな!】
【俺は先に言ったはずだ、ここまでだと】
【いいだろう今回は引いてやる、だが次は無いと思え】
ガリオンは壊れた機体を点検しながら来た道を引き返す、まだ何とか走り回る機能は失っていないが、首の部分の装甲は見事に剥がれ落ちていた。
あのまま戦っていれば、こちらの分が悪いと、彼はとっさにそう判断したのだ。
(くそあんな機体今まで見たことないぞ、いや似たような奴は見たことはあったか、だがあんな動きをする奴は初めてだ、暴れまわれなかったのは残念だがやつらがいる場所は分かった、明日にでもお礼参りさせてもらおう・フッフッフッ)
敵は今まで遭遇したことのない歓迎のされ方に逃げ出したかのように見えたが、それは敵が1機だけだったからだ。
様子見とはいえ敵の大将はそれ程バカではなかった、毎回この調子で先制攻撃が成功してきたので油断をしていたことは確かだったが。
次は仲間を沢山連れてくるだろう、初戦は何とかうまく撃退できたがシュウ達はこの先仲間を守る為には敵と戦うしかないと言う事実をたたきつけられた。
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