ワインが減らないわけ
青時雨
ワインが減らないわけ
今日はきっと夜がいつもより長くなるから、食べきれないかもしれないなって思うくらい好きな食べ物や好きな飲み物を沢山用意したよ。
明日も食べられるものばかりだから、食べれなかった分は明日食べれば大丈夫。
ふとした時にも思い出さなくなったら僕の勝ち。
だけど僕は負けでいい。ふとした時に君を思い出したいから。
君の両手が作った手の器に掬われてからずっとその中で泳いでた僕は、愛情って名前の砂糖水が指の隙間からこぼれたら跳ねることしか出来なくなった魚。
魚と違うのは、君の愛がなくなっても別に死なないことだよね。
抱きしめた時の妙にしっくりくる納まりは、きっと僕だけなのに。
それでも君は別の人のところへ行くんだね。
僕の名前を呼ぶ時と同じ顔でバイバイなんて言うならさ、僕のいないところで幸せになって、 戻らないで。
だって僕がどんなに君より幸せになったって、君が戻ったらってifの世界を想うと心が揺らぐんだ。
君からもらったもの全部を閉じ込めた、もう
振り返らないで。
その間にこっそり花を根から引き抜いて、君が二度とくつろぐことのない僕の部屋の窓辺に、お洒落な花瓶に入れて飾るから。
僕の未練を君には見せたくないんだ。
羨ましいな。
君が「別れたくない」って泣いたら、どんな男も考え直すよ、きっと。
君と別れたいなんて思うやつ、僕は意味わかんないけどね。
僕が君に「別れたくない」って泣いたら、情けなくてもっと愛想を尽かされるよね。
だから笑うよ。嘘でも。
君がいつかまた少しでも僕のところに戻ってきたいと思った時、君の記憶の中の僕が少しでもかっこいいやつでいれるように。
テレビに夢中な君の髪の毛の匂いをこっそりかぐのが好きだったよ。
僕のTシャツをワンピースみたいに着ちゃう君が可愛くてズルくて好きだったよ。
今週のネイルのこだわったところの説明を一生懸命してくれる君の横顔が好きだったよ。
別れようって言った君は…好きにならなきゃだめかな。
大丈夫、君の全てを受け入れるから。
待ってる。
重いって思われたら嫌だから、心で言葉を変換して、口からは「ありがとう、元気でね」って言うよ。
これも本心だからさ。
好きな人が元気で、同じ世界で楽しくやってるなら、幸せ。ほんとだよ。
だけど…僕は欲張りなんだ。
好きでいてって。
どうしてって。
ほんとはずっとそう思ってる。
ちょっとでも届いたらいいのに、僕は気持ちを見つからないように隠すのが上手いみたい。
君といた時はあっという間になくなってたワインも、今は全然減らないよ。
飲み終えて眠ったら、夢で君と会ってしまいそうだから。
そしたらきっと夢から覚めたくなくなる。
だから、できるだけベッドに入るまでの時間を先延ばしにしてるんだ。
一口で1センチも減らない、グラスについでから時間が経って渋みの増したワイン。
これを飲み終えたらもう眠るよ。
君のいない明日は当たり前にやって来ちゃうからさ。
ワインが減らないわけ 青時雨 @greentea1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます