婚約者がVtuberにハマって捨てられたけどあなたの推しの悪役令嬢の中身は私です
猫月九日
第1話
「俺との婚約を解消してくれ」
婚約者の男から言われた私はため息をついた。
いつか来ることとは思っていたけど実際にこうなるとちょっとショックだ。
「……ちなみに理由はなんですか?」
この質問も別に未練があったわけじゃない。でもちょっとはあったのかな?わからないけど出てしまった。
「お前、顔はいいんだけど、面白みがないんだよなぁ」
そういう彼は最近ネットのVtuber「アクヤク・丿・レイジョ」にハマっていることを知っていた。
物語の悪役令嬢のようにちょっと高慢な、でも最後には破滅する感じが面白いと話題のVtuberだ。
最近は主にVRMMOのゲームをやっていて、自信満々に突撃した挙げ句破滅する姿が人気だ。
いつも、動画を見せられて「こいつ本当に面白いよなぁ」なんて言われていた。
いったいどんな反応を期待していたんだろうか、乾いた笑いでそれを見る私に恋人はいつも不満そうな顔をしていた。
つまるところ、真面目なところが好きと言っていたあなたは、Vtuberにハマって真面目過ぎる私に不満を持ったのだろう。
所詮、親から決められた婚約だ。お互いに愛がないのもわかっていた。
それでもあなたに少しでも好かれようと頑張った。
でも結局無理だったんだよね。
「さようなら」
そうして、私は婚約者を失ってフリーになった。
「よっしゃ!今日もやりますわよ!?」
画面の中の女の子が動くの確認してコメントに目を映す。
うん。今日も感度良好。
『きたぁあああああああ』
『レイジョツー!』
『今日もちゃんと配信できて偉い』
『今日もなにやらかすか心配』
「どういう意味ですの!?私を何だと思ってますの!」
思わずコメントに反応してしまった。
『いや、だってねぇ……』
『マイクとスピーカー逆にして20分間無言配信したり』
『配信時間間違えて、マネージャーからの電話で気がついたり』
『朝と夜の時間間違えた事件なwww』
『そういうとこやぞ!』
「うぐっ!そんなこともありましたが!全て昔のことですわ!生まれ変わった私は違います!」
『なんかやけにテンション高いな今日』
『こういう時のお嬢は何かあった時だ』
『ついに婚約者にバレて振られたか?』
『そんなまさか、現実では猫かぶりまくって、ここまで隠した女ぞ?』
『悪役令嬢系Vtuberがほんとに婚約破棄されるとか、そんなわけ……』
「……うぅうううううううう」
『唸っておられるwww』
『えっ、まさかのドンピシャ!?』
『まずいですよ!』
『ほんとにされてる!?』
「うるしゃあああぁぁぁぁぁい!面白みがないって!なんじゃあああぁぁぁぁぁ!』
『草www』
『あーあ、現実で猫かぶってるから』
『配信だとこんなにおもしれぇ女なのになwww』
『いぇえーい、元婚約者さん見てるぅううwww』
「あ、本当に見ている可能性はありますからそのコメントはやめてください」
『相変わらずの変わり身の速さ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』
『えっ、見てるの?』
「ええ、だって、私が振られた理由が、『アクヤク・丿・レイジョ』みたいに面白い女が好きになったから、ですもの」
『www』
『笑っちゃいけないんだろうけど、そんなん笑うわwww』
『いぇえーい、元婚約者さん見てるぅううwww』
『つまらなって切り捨てた女が推しの中身だったってどんな気持ちwww』
『NDK?NDK?』
コメントが元婚約者である彼へのメッセージで溢れていく。
だけど、そのコメントを元婚約者が見ることはない。
あいつのアカウントは私も知っていたからすでにブラックリストに放り込んである。
まぁ、エンタメ的に言わないけどね。
「まぁ、それはさておいて、今日もゲームやってきますわよ」
『おっしゃ!』
『今日は何のゲーム?どうせ、いつもの乙女ゲーだろうけど』
『あれは乙女ゲー?ジャンルとしてはVRMMOだと思うが』
『レイジョにからすれば男がいれば何でも乙女ゲーって前言ってた』
『草』
「今日こそ私の事を守ってくれる素敵な王子様を探しにいきますわよ!」
『フリーになったから合法だな』
『なお、婚約している時からほぼ毎日王子様探しをやってた模様』
『そんなコトしてるから捨てられるんだぞ?』
『なお王子様はNPCのダンジョン攻略パーティである』
「うるさいですわっ!あ、スパチャありがとうございます」
そうしてフリーになった私は、今日も悪役令嬢Vtuber「アクヤク・丿・レイジョ」として活動する。
婚約者がVtuberにハマって捨てられたけどあなたの推しの悪役令嬢の中身は私です 猫月九日 @CatFall68
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