第25話 次の商売
それから六日。
ライールに到着である。
「子供たちよ! よく戻ったね!」
マコロン商会に近づくと、商会長自らが出迎えてくれた。
大げさに両手を広げて。
王都での商売の結果を聞きたくて仕方ないって感じだ。
けど、それより先にメイコンを紹介しないとね。
「アリア……お前は本当に、僕の予想なんか簡単に超えてくれるね!」
マルコの反応である。
ものすげー力で抱きしめられたから、喜んでいるんだろう。
潰されるかと思ったわ。
ともあれ、マコロン商会はセルリカ皇国の商人との繋がりを持つことができた。
これはフィルスバート王国の商人として初めてのことである。
今後、取引が拡大するにつれて他の商人も入ってくることになるが、それまでは完全に独占商売だ。
フィルスバートまで来てくれる商人は今のところメイコンだけだし、彼から商品を買い付ける商人も今のところマコロンだけ。
ちょっと考えただけでも、ものすごい利益を生む取引なのである。
逆からいえば、フィルスバート王国の商品をセルリカに持ち帰れるのはメイコンだけ。
唯一無二の立ち位置だ。
これに興奮しないとすれば、マルコはとっくに商人なんかやめてるだろう。
「しかも、青磁の壺を王様に献上してきたぞ」
「おいおいジュリアン! それってつまり!」
「遠からず王家御用達の看板ももらえるだろうな。親父」
にやりと笑ったジュリアンの肩をマルコが叩く。ばっしばしと。
マコロン商会の躍進は約束されたようなもんだ。
王様がセルリカの品物を自慢すれば、それはあっという間に貴族たちまで広がる。
貴族の多く、さらに大商人までが、マコロン商会に殺到するだろう。
もちろんセルリカ製品を買い付けるために。
「ああ、そうだ。僕の方でも報告があるんだ。親方を慕って職人たちがやってきてくれた。十五人も。工房も順次拡張中だ」
それは嬉しい報告である。
マコロン織物の工房が五人から二十人に増強だ。生産力だって跳ね上がるだろう。
「じゃあ、私はちょっとフダンテ親方に挨拶してくる」
「アリア。ワタシもいっていいですか?」
「ええ。もちろん」
メイコンに笑って見せたけど、本当はマコロン商会の主力商品になりつつあるマコロン織物の工房を見せたくなんてないよ。
でも、メイコンは最も重要な取引相手の一人になるからね。
胸襟を開いてるんだよってアピールが必要なのさ。
旅装のまま、私はメイコンを工房に案内する。
ジュリアンたちは王都での出来事の報告と、荷ほどきのために残った。
やがて、工房に案内されたメイコンは目を見張ることになる。ついでに私もね。
工房が立派になっていたのと、忙しそうに働く職人たちの数に。
見るのと聞くのじゃ大違いってやつさ。
「お嬢! もどりなすったか!」
「ええ。すごいわね。親方」
駆け寄ってきたフダンテ親方にメイコンを紹介しつつ話を聞く。
職人が四倍に増えたことにより、生産速度は二倍くらいになったという。
「……素晴らしい。アリア。ワタシもマコロン織物買うことできますか?」
説明を聞きながらサンプルを矯めつ眇めつ見たり、手触りを確かめていたメイコンが、ほうと感歎の息を吐いた。
マコロン織物がメイコンの眼鏡にかなった。
これは大変に喜ばしいことだ。
つまり東方セルリカ皇国においても、私たちの商品が通用するってことだから。
本当は在庫を増やしたかった。
作れば作った分だけ売れる、かつかつの商売じゃなくて。
私は軽く息を吐く。
「……判りました。そのお話、乗りましょう」
「相変わらず決断はやい。アリアすてきなおじょさんね」
差し出した私の右手をメイコンが握り返した。
決断はいつだって諸刃の剣だよ。
けど、ここが国外進出の好機とみた。
増強されたパワーの使いどころはここしかないと見定める。
「もし良かったらアリア。あなたも一緒いきませんか?」
不意に誘われた。
セルリカ往復の旅に。
途中に十数カ国を挟み、時間も片道一年以上かかる大行程。
そこには、ものすごくたくさんの冒険と、商売の種が転がっていることだろう。
王都からの旅が終わったばっかりなのにそわそわしてくる。
道祖神の招きとは、こういうものなのだろうか。
「行きたいです! 是非!」
まだ見ぬ東方。
絹の国セルリカ。
黄金の国ホウニに、愛の国インダーラ。
やっばい。
行ってみたいところだらけだよ。
「そういう思いました。もちろん、おとさんの許可出たらですね」
にっこりと笑う東方商人。
今度は彼の方から右手を差し出した。
私は強く握り返す。
さあ、次の商売の始まりだ。
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