第21話 帰りのことを考えないと
翌日は、写しを作る作業である。
オリジナルの他に全部で六枚、ようするに一人一枚ずつ隠し持ち、さらに伝書屋に依頼してライールのマコロン商会まで運んでもらう。
「けどさ義姉さん、伝書屋が買収されたり襲撃されたりしてデザインを盗まれたらどうするんだ?」
せこせこと書き写す作業をしながらオリバーが訪ねる。
もちろん、そういう可能性がないとはいえない。
伝書屋だってプロだけど、さすがに命を捨ててまで荷物を守らないしね。あるいは、百シーリン二百シーリンってお金を積まれたら、ぐらっとしちゃうかもしれない。
「デザインが盗まれること自体は、そんなに問題じゃないのよ」
「そうなのか?」
「だって、このデザインは王家の人とマコロン商会しか知らないんだよ? それを盗んで作ってしまったら」
そういって、私は右手で首を切る仕種をする。
王家の宝物のデザインを盗んだってことだからね。普通に死罪まであるだろう。
「敵が考える妨害は、デザイン案が工房に届かないようにするってことよ」
それを回避するため、私たち全員が持ち、さらに伝書屋にも依頼するのである。
襲う方としてはだいぶ手間だ。
「そして手間でも、もう一回は襲撃があるだろうな」
部屋の入口から、ちょうど戻ってきたサラが言った。
彼女は朝から衛兵の詰め所に出向いていたのである。
もちろん昨夜の襲撃について話すためだ。
ところがそんな事件の報告はあがっていなかったらしい。
おそらくは仲間の手によって片付けられたのだろう。戦いの痕跡まできれいさっぱりね。
そんな工作をするってことは敵はまだ諦めてない。
「次は本格的な襲撃があるはずだ。敵はこちらの戦力を知ったからな」
サラの言葉だ。
昨夜の戦闘は見られていたと考えるべきで、そして見られたということは情報を持ち帰られたということなのである。
つまり相手は戦訓を得た。
もちろん断片的なものだけど、その断片から推理を組み立てて事実に迫るのが情報分析という作業。
サラの戦闘力から類推してアウィの戦闘力も知られてしまう。
十全の防御を整えるなら、こちらもさらに人を雇うという手なのだが、王都では伝手もない。
無理に雇い入れても、それが敵の仕込みって可能性もある。
「結局、いまある戦力でなんとかするしかないってことかあ」
「人を増やさずに戦力を増やす方法はあるけどねー」
ほえほえーっとした声をだして手を挙げるアウィ。
写しを作る作業に参加するわけでもなく、ただ部屋を守っているだけなので大変に暇そうだ。
「そんなうまい話が……」
「簡単じゃん。あたしにも武器を買ってよ。アリア」
『あっ』
思わず間抜け顔を付き合わせる私とジュリアンである。
その手があった。
サラは鬼切を手に入れたことで、その戦闘力がぐっと上昇した。
躍進といっても良いくらいである。
アウィが使ってる二本のショートソードをカタナに換装したら、戦闘力だって当然のように跳ね上がるだろう。
しかもそれは敵が知らない戦力だ。
「よし。善は急げよ。オリバー、アウィ、ついてきて」
写し作る作業はジュリアンとトムスに任せ、私は宿を飛び出す。
何をそんなに急ぐんだって話だけど、メイコンがいつまで王都にいるかなんてわかんないんだもん。
のんびり買いに行ったらいなかった、なんてのは目も当てられない。
そう思って急いで出かけたのだが、宿を出た瞬間に人とぶつかってしまった。
もう、どーんって勢いで。
「うわわわわっ! ごめんなさい!」
尻餅をついちゃった状態で謝罪する。
「アイヤー、おじょさん。飛び出しあぶないです」
同じく尻餅をついてるメイコンに。
なんと、私が探しに行くより先に訪ねてくれたらしい。
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