第13話 ビキニアーマー

「なななんでそんな格好を!?」

「おちつけアリア」

「まままさかサラもそんなやらしい鎧ビキニアーマーを!?」

「そうだぞ」


 こともなげに言ったサラがべろんとローブをはだけてみせる。

 見事なプロポーションを最低限に隠す金属鎧。合わせた膝丈のブーツがより扇情的だ。


「ぴやあああああっ」


 私といえば、お顔は真っ赤、おめめはぐるぐるって感じである。

 どうしよう。どうしたらいいんだろう。


「とりあえず、そのお胸さまに顔を埋めたい」

「おまえはなにをいってるんだ」


 熱に浮かされたように言ったタワゴトは、ぽいっと捨てられました。

 ひどい。

 正直な感想だったのに。


「まあ、アリアのその反応が答えってわけ」


 くすくすとアウィが笑う。


「これが戦場だったら、アリアは三十回は死んでるわよ」

「だってこんなん……卑怯やんか……」

「どこの言葉なのよ。とにかく、ばっとローブをはだけたら目はくぎ付け。女のアリアですらこうなんだから、男がどうなるかは推して知るべしよ」


 命のやりとりをしているとき、それは致命的だ。

 一瞬の油断を突いて倒すことができる。


「それだけでもすごく有利になるんだけど、さらに相手の狙いを変えることができるのよ」

「というと?」

「殺そう、から、犯そう、にね」

「おおう」


 アウィの説明に、私はぽんと手を拍った。


 これほどの美女が扇情的な格好をしてるんだもん。女の私ですら殺しちゃうのはもったいないと思ってしまう。

 男だったら、押し倒して犯してやりたいって思っても、ぜんぜん不思議じゃない。


 そうなると、当然のように攻撃は手加減したものになってしまう。

 殺してしまわないように。できれば顔とか胸とかに傷を付けないように。


「相手は手加減してる。こっちは殺すつもりで戦ってる。さて、仮に実力が同じならどっちが勝つでしょう?」


 歌うように訊ねるアウィ。

 なんて恐ろしい戦法だ。

 でも、たしかに理に適ってる。


 意表を突く、機先を制するってのは本当に有効だし、相手の目的意識をコントロールするってのもかなり重要だ。

 戦いだけでなく、商売の世界でもね。


 サラもアフィも普通に強いんだろう。その上で、さらに勝算を高めようとしている。

 それがすごい。


「ところでアリア。さっきから覗いている者たちがいる。害意も敵意も感じないので放っておいたが、かまわなかったか?」


 サラがちょいちょいと扉の方を指さす。

 いつの間にか、ほそーく開いていた。

 はぁぁ、と、私は大きく息を吐く。のぞき魔に心当たりがありすぎたから。


「義兄さん、オリバー、トムス。ちゃんと入ってきなさいな」





「今回の旅に同行してくれるサラディナサとアウィデニアよ」

「サラで良い」

「あたしはアウィで」


 さっと見事な肢体を隠しちゃった二人が男どもに笑いかける。

 もったいない。

 なんで隠すのさ。

 なーんて思ってたら、アウィが悪戯っぽく笑った。


「ここぞというときに出すから必殺技なのよ。普段から出しっぱなしじゃ効果が薄れちゃうわ」


 たしかに、そんなものかもしれない。

 高価な商品ばっかり取り扱ってると金銭感覚もおかしくなるしね。


 ちなみに私が二人に示した報酬額は、金銭感覚の欠如ではなく先行投資である。

 いまのうちに信頼できるガードを雇っておきたい。そしてできれば専属にしてしまいたい。

 よしみを通じるための投資として、傭兵の相場よりもはるかに高い百シーリンって額を提示したのだ。


 気前の良い雇い主だって思われることは、次の仕事にも絶対に繋がるから。

 それに対して、サラはちょっと高いかなってくらいの額まで、報酬の値引きを提案した。


 相場の金額まで下げなかったのは、ケチなのではなく彼女の計算だろう。

 高すぎるからいらないよ、なんてことを言ったら、せっかく高額提示をした私の顔を潰すことになってしまう。

 だから、厚意を受け取りつつ、同時に私の顔を立てる金額にした。

 もちろんそれは、今後ともよろしくって意味。


 あの短い条件闘争に、このくらいの思惑が隠されていたのである。

 つまりサラは、そういう腹芸ができる傭兵だってこと。彼女を雇うのに八十シーリンってのは、ぜんぜん高くない。


「これで護衛の問題は片がついたな。考えていたよりはやく出発できそうだ」


 ジュリアンが腕を組む。


「はやく出したい? 義兄さん、なに変態発言してるのよ」

「はやく出発、だ! アリアこそなにをいってるんだ!」


 ともあれ、ジュリアンがいうように、早い段階で護衛が決まったのは僥倖である。

 今日のうちに傭兵ギルドに仲介手数料を支払い、最低限の糧食と水を馬車に積み込んだら、あとは明日にも出発できるだろう。

 宿場町に泊まりながらの旅なので、そんなに大仰な準備が必要ないから。


 かなり余裕を持って王都に到着することになるが、ギリギリになるよりはずっと良い。


「今日中に準備を終わらせて、明日は休養日にしましょう。で、明後日出発。これでいい? みんな」


 私の提案に、仲間たちが大きく頷くのであった。


 

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