第9話 荒川沿い

 鉄は三河島の鉄工所で働いている。たまに渚が顔を見せに来てくれる。

 鉄は成長している渚を見れるだけで幸せであった。


「おい!鉄!客来てるから河川敷に行け!」

社長が大声で話し掛けてきた。社長も元稼業でアニキの兄弟分であった。

「さぁせん!解りました!」

俺は急いで河川敷へ向かった。

 土手を登りススキが広がる河川敷へ降りるとトレンチを着た女が居た。


「あ」

俺は女のヤバさを感じた。

「やっとかぁ」

俺はタバコに火をつけながら近づいた。

「やっと会えたな…」

女は振り返り微笑んだ。生気の無い表情で手にはピストルを持っている。

「アニキを殺したのを覚えているか?」

「覚えていないけど貴男を消してくれと頼まれたの…貴男は何したの?」

「お前を殺そうと企んでいたのさ…でも、時が経ちすぎて今はなんも感じない。むしろ懐かしく感じるよ」

「私をずっと狙っていたの?」

「ああ」

俺はタバコを消して女の前に座った。


 ススキが穏やかに揺れている。


 パンッー。

 乾いた銃声が一瞬空気に響いて直ぐに消えた。


 一週間後。

 渚は高田馬場の栄通りから路地に少しはいった卓球場で無心にラケットを振っている。

 オーナーがモスバーガーの袋を渚の足元へ置いた。

 渚はその袋の中身を確認した。

 中には小型の1911系のハンドガンと弾倉が三つ入っていた。

「ありがとう」

「ナミさんにナイショってどういう事?」

「…そういう事よ」

「訳わからん」

「そういう…事なのよ。ナミさん来たらサヨナラって伝えてよ」

「なるほど…そういう事ね」

「そそ、そういう事」

渚は微笑んで卓球場を出た。


 新宿の小さなトンネル脇の花壇に小さな花束を置いてタバコを一箱添えた。

「鉄ちゃん…」

渚は手を合わせて、その手に力を入れて歩き出した。


 大久保の線路沿いの古びた旅館ー。

 ここは敵対する組織の本部だと情報が入っていた。お互いに存在を把握していても干渉しないのが協定であるのだが、今の渚には関係無いのである。


 渚はライダースのチャックを上げてウエストポーチからフラッシュバンを取り出して引き戸を開けてフラッシュバンを投げ入れた直後、閃光と共に突入した。

 受付奥から出てこようとしていたデブ二人を素早く撃った。そのまま正面の階段を駆け上がりWCを開けて誰も居ないことを確認してから梅の間を確認。続いて竹の間、松の間と確認して二階には誰も居ないと認識した。

 下の階から複数の声がする。渚は上がってくる奴から仕留めるのに竹の間から階段を見張った。

 階段を音も無く上がる気配を感じると上から高い光量のフラッシュライトを当てながら下へ発砲した。下の階がざわめくと手応えを感じるのだが、渚の狙っているのは女である。今この建物内に居るのは男だけであろうと思い数人仕留めてから二階窓から隣の建物へと飛び移り山手線内へよじ登って旅館から逃げたー。


 旅館に居たのは三分も経っていなかったから敵対する組織の反応も鈍かった。


 三十分後ー。

 ナミからの電話

「もしもし」

「あんた!やったわね!」

「これの為だもの!」

「知ってるわよ!でも、何でアタシに言わないの!」

「ワタシが生きていた事を知ってる人が居て欲しかったの…」

「……ばか」

渚は電話越しに泣き崩れた。


つづく

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