第8話 きつね
顎髭を蓄えた男は雨に流れる自分の血液を眺めているー。
雨音に混ざって聞こえるヒールの足音ー。
「くそ…」
男は仲間への連絡も出来ずタバコに火を付けることも出来ずに自分の最期を恨んだ。
そっと頭に突き付けられた銃口にニヤリとした。
一瞬、見た。
銃を向ける女が狐の面を付けていたのをー。
「ナミ、直ぐ来て頂戴」
「解った」
ナミは電話を切り直ぐに部屋を出た。
「もしもし渚?」
「あぁはい」
「寝ぼけてんの?」
「今起きました」
「もう十時よ」
「昨日は遅くまでモンハンしていて…」
「三時に上野公園に来て」
「はぁい」
渚はベッドからしぶしぶ起き上がった。
ナミとママは線路下の細い商店街の脇道で話している。
「うちの幹部が三人消されたのよ」
「どこかともめてるの?」
「同業とは接点が無い世界だから揉めることはないわよ。でも、うちを潰そうとしてるのがいるのは確かね…そして、うちの内部を知ってる奴の仕業よ」
「内部?もしくは過去にいたやつかな?」
「有り得るわね」
「ママは心当たりはあるの?」
「在りすぎて解らないわね」
「どうするの?」
「とりあえず自分の身は自分で守る事ね」
「解ったわ…ママも気を付けて」
「アタシが死んだらコレを此処に埋めてくれる?」
ママはロケット型のネックレスと古ぼけた牧場の写真をナミに渡した。
「裏に場所が書いてある」
「まるで死ぬ見たいじゃない」
「たぶん次はアタシよ」
「しばらく一緒にいようか?」
「いや、貴女は仕事があるでしょ?」
「そうだけど組織が無くなったら仕事も無意味じゃない?」
「大丈夫よ。貴女達の情報は依頼主達に教えてあるからアタシが居なくなってもお金はもらえるわよ」
「じゃあママが死んだら中抜きされないでお金がもらえるって事ね」
「そういう事ね…でもなぜ組織化しているのかを考えれば簡単にフリーにはなれないわよ」
「そうね」
ママは煙管の灰を足元へ落としてナミを軽く抱き締めてその場を去った。
ナミはネックレスと写真をバッグにしまった。
渚は正岡子規の球場のベンチで珈琲を飲んでいる。
隣のベンチにホームレスが座った。
ホームレスはポケットからトカレフを取り出して渚に見えるように膝の上に置いた。
「おじさんは同業?」
ホームレスはゆっくりと頷いた。
「昔からこの仕事をしている女は知ってるかい?」
「どんな女だ?」
「さぁね~ただ十年くらい前に稼業ばかりやってたよ」
「あぁ…レイの事かな…」
「レイ?」
「そう…フリーだよ」
「そのレイって女のことをもっと教えな」
「ずいぶん上から強気だな…早死にするぞ」
「アンタは長生きしすぎだよ」
「生意気だな…」
ホームレスはトカレフに少し力を入れた。
「アンタは射程距離に完全に入ったよ」
「なに?」
公衆トイレの小窓からナミはライフルを構えている。
「アンタは積んでるよ。レイの事を教えてくれたらもう少し長生きさせてあげる」
「池袋北口ウィロードのトイレの壁を見ろ…レイと連絡が取れるぞ」
「ありがとう」
その瞬間ホームレスの頭に穴が空いて前に倒れた。それを渚は支えてベンチに寝かせた。
ナミと渚は同業狩りを始めたのである。
つづく
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