第6話 グァテマラは優しく包む

 薄暗い地下の喫茶店…ここはアニキと出会った所である。


 渚はオリジナルブレンドとティラミスを注文した。俺はグアテマラを頼んだ。


「もう少ししたら紹介したい人が来る」

「紹介?」

「あぁ、力になってくれるかも知れない人だ」

渚の前にティラミスが置かれた。

「あと、ピストルも手に入れた」

「やったね!アタシは河原で練習してるよ。絶体にお父さんの仇討ちするよ」

渚はティラミスを大きく頬張った。


「お待たせしました」

ナミが渚の隣に座った。

「ああ、どうも」

「あ、こんにちわ」

ナミは渚を覗き込むように微笑んだ。

「お名前は?」

「渚です…」

「上司に相談して貴女の身辺調査させて頂いたよ」

「え?」

「提案があるの」

「は、はい」

「貴女の追い掛けている“消し”は大陸の組織から派遣されている複数人の内の一人なの…あ、私もブレンドで」

「ああ、ごめん」

俺はナミのコーヒーを注文しに席を立った。

「私達も的にしている組織だから都合が良くてね…渚ちゃんさえ良ければ訓練受けてみない?」

「訓練?」

「ええ、そう。ウチも人材不足なのよ」

ナミは笑っている。

 渚はティラミスを再び頬張った。

 俺は何となく空気を読んで公衆電話の近くでタバコを吹かした。


 サイフォンが気泡を激しくあげ始める。

 女二人、隣同士で少しの沈黙が続き渚が口を開いた。

「訓練してアタシが使えなかったら殺されますか?」

「そうね…殺されちゃう事もある」

「そうなったらどうなりますか?」

「どうって?」

「お母さんとか…でも、あ、そっかぁ、いいのか、アタシが選べば良いですもんね」

「そうね」

「やりますよ」

「飲み込みが良さそうね」

「アタシは馬鹿ですよ」

「私もよ。こんな仕事に貴女を誘うなんてね」

ナミは渚の手を握って微笑んだー。


 喫茶店を三人で出た。

 ナミはそのまま駅の方へ消えた。


「しばらく会えなくなるけど頑張れよ」

「うん…凄い展開だね」

「だな」

「ねぇ」

「なんだ?」

「今日は一緒に居てくれる?」

俺はふと見せた渚の女の香りにドキッとした。

「ああ、いいよ」

「じゃあ!焼肉食べたい!」

気のせいだったようだ。

「よし!叙々苑いくか!」

「やったね!」

渚は俺の手を強く握ってきた。


 いつもはムカつく輝きのネオンが今日は美しく見えた。


つづく

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