第11話

「よし、今日の議題は"足りない物"だ」

「これまた漠然とした議題ですね」

 出鼻を挫かれるようにツッコミを入れられる。

「特に思いつかなかったわけではないぞ。ただ、今回は周りの意見を聞きつつ、根本から直していこうという算段でな」

「はいはい、そうでございますか」

 必死の弁明も簡単に流される。半分は本当のことなのだが。

「はいはい、僕分かりました!」

「お、もう思いついたかザリガー。何だ?」

「資金だと思います!」

「それは言うな」

 それがあれば、ザリガー以外の怪人も増やせる。それに、以前の引き止めに関しても、あれこれ考える必要もなかっただろう。核心ではある。

「そうですよザリガーさん。議論の場合は改善の余地がありそうな事を挙げるのが前提です。本当にどうしようもない事は触れないでおいてあげるべきなんです。社会のルールですよ」

「そうなんですねー」というザリガー。まったくもって、その通りではあるのだが、社会のルールとまで解説するのはやめて欲しい。というか、どうしようもない認定するな。

 深堀してもしようがないので、話題を流すためにも次の案を挙げる。

「俺は人員だと思うのだが」

「やはり、私も資金力が」

「撤回しよう」

 言ってみただけ、言ってみただけである。ザリガーが増えて以降、たびたび話しては増員の話に関しては反対されているので分かってはいたのだ。本当に言ってみただけである。

 チームワーク、人員、総帥のカリスマ性、マスコット、人員、資金、長期的な計画、組織名、心意気、人員、資金。各々が思い思いに挙げていく。

「必殺技、とかどうですか?」

「必殺技か……それだ!」

 先週あった、ヒーローの大会を思い出す。一回戦しか見ていないが、最後は必殺技のような大技が多かった。そして、これまでの爆炎との戦いを振り返れば、トドメは大技で吹き飛ばされることがほとんどだ。それに倣えば、こちらもあったほうがいいだろう。

「よし、議題決定! 今回は必殺技を考えるぞ」

 

「必殺技、とはおっしゃられますが、どうされるのですか?」

「もちろん、各々一つは必殺技を持ってもらう。それが今回の会議目標だ。というわけで案を出していってくれ。自分のでも他人でもいいぞ」

 各人で持っておく方が確実だろう。一人の技が通じなくとも、他で補えるからだ。

「その前に一度、全員ができることを確認しておこうと思う。まずは俺からだ」

 手の平から暗黒オーラは発生させる。

「知っているとは思うが、俺は黒い霧、もとい暗黒オーラを出すことができる。視界を遮ったり、硬化させることも可能で攻撃にも防御にも使用できる」

「例のモヤですね」

 手から出した暗黒オーラを操って、『暗黒オーラ』と空中に形作る。もはや口に出して訂正するのも諦めた。

「そ、総帥。僕はちゃんと暗黒オーラだって覚えてますから」

「俺の味方はお前だけだ、ザリガー」

 軍師も爆炎も、まったく覚える気がないのかモヤとしか形容してくれない。そんなに覚えにくい技名だろうか。

「では、次は私が紹介をさせていただきます」

 用意していた帽子を被り、怪人化する軍師。服装が変わり、手には鞭が握られた。

「私の武器は鞭ですね。念じるだけで伸縮自在、という摩訶不思議なものです」

「鞭、か」

 口には出さないが、かなり地味だ。必殺技を思いつけるだろうか。

「ザリガー? 残りはお前だけだぞ」

「あ、は、はい。えっと……」

 残りのザリガーに声を掛けるが、なぜか言い淀んでいる。

「どうした? ハサミと甲殻だろう?」

「そ、そうですよね。僕の強みはこのハサミと硬い甲殻です!」

 自分の強みを忘れているとはおっちょこちょいな奴である。それぐらい当たり前過ぎて気付かなかったのだろう。

「よし、こんなところだな。では、案があれば遠慮なく発言してくれ」


「では、私からよろしいでしょうか」

「早いな。もう思いついたのか」

「はい。この鞭を相手の口に入れてから、極限まで伸ばすのはどうでしょうか……なぜ離れたのですかお二人とも」

「なんて恐ろしいことを平然と言うんだ」

 自然と後ずさりをして、距離を取ってしまっていた。同じ気持ちなのかザリガーも距離を取っている。

 きょとんとした表情をする軍師。

「必"殺"技を考案するのではなかったのですか?」

「殺の部分を強調するな。本当に殺す技を考えるとは思わなかったぞ」

 そんなことをしてしまえば、人体が内側からパーン(表現規制)してしまう。会議の場で出てよかった。思い付きでやられていたら、大惨事になるところだった。

「では、総帥は必殺技に何を求めていらっしゃるのですか?」

「愚問だな。決まっている。威力! 実用性! そして重要な」

「「派手さ」ですよね、総帥!」

「ふむ、ザリガーは分かっていたか」

 意気投合したところで、ザリガーと拳を突き合わせる。ハサミが刺さって痛い。

「ところで総帥。僕からもいいですか」

「ほう、なんだ?」

「僕のじゃなくて、総帥のなんですけど。暗黒オーラを相手の周りに出して、そこを叩くっていうのはどうですか?」

「ああ、そうか。ザリガーはその時はいなかったな。もう、やったことがあるぞ」

「あー、既に試されてましたか」

 あの時は結局、爆風で全て吹き飛ばされてしまい、失敗に終わった。またやるにしても手が割れている以上、簡単には吹き飛ばされないような規模で出すしかない。

 手から暗黒オーラを出して、噴出量を確認してみる。遅いわけではないが、この程度では爆風で霧散させられてしまうだろう。


「いつまで出しているんですか」

 気付けば部屋一杯に暗黒オーラが充満し、何も見えなくなっていた。

「いや、どれほど出せるのか気になってな。丁度良い機会なので試しでだな」

「そうでしたか。ですが、室内でやらないでください。すぐに消してもらえますか? 何も見えませんので」

「いや、消し方など分からないが」

 思えば、発生させることはあっても消そうとなどはしたことがなかった。やれるのかすら分からない。

「……はぁ。ザリガーさん、窓を開けてもらってよろしいでしょうか」

「はーい」

 窓に近かったザリガーが慎重にすり足で窓の方向に歩いていく。手探りで、鍵を外すと窓が開いた。開かれた窓から暗黒オーラが排出されていく。


 数分後、ボヤ騒ぎによって、消防車が来たので会議は中断することになった。







「足りない物……か」

 会議も終わり、日もすっかり暮れた夜空の下で一人、ザリガーは呟いた。

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