第8話
「では、戦いの陣形を決めるぞ」
いつもの作戦会議。今回はザリガーも無事に復帰し、軍師も戦えるようになったことによる、各々の役割を明確にする目的だ。
「あの、いいですか」
「どうしたザリガー」
おずおずといった様子でザリガーが手を挙げて、質問をしてくる。まだ始まったばかりだが、考えでもあるのだろうか。
「あのステージに全員で立つんですか?流石に狭くなりすぎるような」
「む、確かに」
いつものステージを頭の中で思い浮かべる。爆炎も含めると四人も立つには、指摘された通りに少々手狭かもしれない。となれば、この件について話す必要はなくなってしまった。
「そうだな。それでは従来の通り、俺とザリガーの二人で」
「お待ちください」
話を切り上げようとしていたところ、軍師から待ったが入る。
「どうして私が除外されているのですか?私も戦えるようになりました」
強く主張するように帽子を被って、変身する軍師。
正直、意外だった。前は頼まれたからしただけの、一遍こっきり。
立候補してくるほど、戦う気があるとは思っていなかった。
「やる気だな。どうかしたのか」
「いえ。ただ、負けたまま、というのは癪なだけです」
負けっぱなしでは終われない、ということらしい。何度もめげずに爆炎に立ち向かっている立場としては、尊重したい意思だ。闘志は十分。であれば、ないがしろにはできない。なぜだか背中が痛むが。
「では、俺と軍師で」
「え、僕はどうなるんですか」
今度はザリガーが割って入ってくる。
「そうだな、今回は休んでもらおうと思う」
「でも、勝手な理由で前回も休ませて貰いましたし、僕は戦闘員として居るんですから戦いたいです」
言われてみれば、ザリガーは戦闘員である。なら、戦いには優先して出すべきだろう。
「では、俺とザリガーで」
「私はどうなるのですか?」
流れで誤魔化せるかと思ったのだが、これは困った。どちらも戦いたいと言っている。だが、最初に前提として二人というのは決まってしまったので、両方というのは無理だ。
「では、こうするのは如何でしょう。総帥が抜けて、私とザリガーさんの二人で」
「なるほど、それなら二人だな……って、おい」
「どうなされましたか?」
どうもこうもない。さすが軍師。解決策に頭を悩ませている隙を突いて、外そうとしてくるとは。危うく、同意しかけてしまった。
「主戦力たる、この総帥を外そうとするとは、何事だ」
それこそ、負けっぱなしではいられないというものだ。万が一、勝手に爆炎を倒されても不完全燃焼である。
しかし、困ったことに全員が戦いに出たいという。なんとか後腐れなく決められないものかと、頭を抱える。
「では、こうするのはどうでしょう」
軍師が提案したのは百メートル走であった。といっても、ただの走るだけではない。二つの取り決めがある。
一つ、スタートの合図は俺が行う。理由としては、
「単純な身体能力は総帥が頭一つ抜けておりますので、このままでは、一位が決まっているようなものです。そこで、総帥にはハンデを背負っていただきます」
合図をする関係上、走り始めが遅れる、というハンデらしい。その程度であれば、問題にもならないだろうと、受け入れた。
そして、もう一つが競走中の妨害は有り、というものだ。
「柔軟性も重視すべきだと考え、妨害有りを提言します。他者に妨害を働きながら、他者からの妨害を受け流す、重要なことかと」
確かに、ただ走るだけは何の意味もない。戦いの選抜であれば、そういう柔軟性も重要な要素だろう。
ザリガーからも反対はなく、こうして百メートル走をすることに決まったのだった。
各自、軽いストレッチの後に三人で並んで立つ。ゴールはおおよそ、百メートル程先にある木である。
「では、総帥。合図はこれでお願いします」
差し出されたのは一本の枝。
「これを投げて頂いて、地面に落ちたら出走ということで」
「いいだろう」
差し出された枝を受け取る。軍師とザリガーはクラウチングスタートの体勢になった。
なるほど、枝を投げるなら、同じ体勢はとれない。このままでは走り出しが遅れるだろう。確かにハンデだ。無策であれば、だが。上方向に高めに投げれば、落ちるまでの時間を稼げ、同じくクラウチングスタートの構えにはなれるはずだ。ハンデを課したつもりだったのだろうが、目論見が甘い。
渡された枝を大きく振りかぶって投げる。縦回転を伴いながら、上昇し、ある程度の高さから下降し始めた。高めに投げて、余裕は持たせてはあるが念のため、急いで体勢を整える。
これでハンデの一つは破った。後は小細工は必要ない。最初に一番手に踊り出れば、妨害など受けることはなく、そのまま悠々とゴールできるだろう。
頭の中で作戦の再確認をしている間に、棒が地面の寸でのところまで来ていた。足に力を込め、腰を上げる。そして、ついに枝が地面に弾かれ、三人が一斉に走り出す……はずだった。
「ぐへっ」「ぎゃ」
走り出そうとした瞬間に両足が引っ張られ、無様にも前のめりに倒れ、地面に顔を叩きつけてしまう。横ではザリガーも同じように倒れている。
違和感の感じた両足を見ると、鞭が巻き付けられていた。それを見てようやく、軍師の策略に嵌められたのだと理解した。わざわざスタートの合図を棒を前方に投げるようにしたのは、前に意識を向かせ、足に鞭を巻き付けるを気取られないようにする策略だったのだ。妨害の提案も、最初からこれを狙っていたに違いない。
理解はしたが遅れたことに変わりはない。とりあえず走るのに足の鞭を外さねば。このままでは、思うように走れない。
「総帥、お先に!」
同じくスタートダッシュに失敗していたザリガーがもう走り出した。そこまで複雑に絡まっているわけではないが、この一瞬でどうやって?と、見れば鞭が切れている。どうやらハサミで切ったようだった。
二人に比べて出遅れ、さらに、この状況で今から悠長に足の鞭を解いていては、三着は確実。ならば、このまま行くしかない。
うつ伏せのまま、上体を起こし、鞭が絡まったままの足で軽く地面を蹴る。足裏を空に向けると、腕を伸ばした。逆立ちである。
これならば今すぐに動ける。逆立ちで走るのは(記憶にある限りでは)初めてだ。だが、このような体勢のまま動けるほど、バランス感覚には自信がある。
意を決して逆立ち走りで追い始めたが、やはり、普通に走るより遅い。このままでは大幅に先行している軍師は元より、ザリガーにも追いつけそうにない。ならば、やることを一つだ。
直立していた足を折り曲げ、足裏をザリガーに向ける。
「喰らえい、『暗黒砲』!」
足の裏から暗黒オーラを固めて、発射する。元の作戦から外れるが、妨害をすることにした。
妨害を察知したのかザリガーが振り向く。逆立ち走りに面食らっているようだったが、躱されてしまった。ならばと、もう一発。さらにもう一発。だが、躱される。
「どうして僕ばっかり狙うんですかー!」
「悪く思うな!」
スタートダッシュの差が大きかったのか、軍師はもうゴール手前である。ザリガーしか抜ける見込みがないのだ。
しかし、妨害といっても当たらなければ、距離は縮まらない。暗黒砲は連射性能はそこまではないので、簡単に回避されてしまう。そこで、先ほどまでの暗黒砲より小さくし、連射性能を上げる。砲より小さい、暗黒弾といったところか。これならば当たりやすくなるはず。数撃てばなんとやら、だ。
それでも、なかなか当たらず、ゴールまであと少しということころまで来てしまった。回避するのに余計な動作をさせているので、多少は差は縮まっている。
軍師はゴールしてしまっているのであと一人。
「あっ!」
ようやく、ザリガーの足に命中し、足運びのリズムが崩れる。この機は見逃せない。よろめいている背中を押して、倒れ込ませるため、足裏からここぞとばかりに暗黒砲を放つ。ザリガーに命中はした、してしまった。
ゴール手前だというのに背中を押したら、手助けになる、という点が頭から抜けていた。態勢を崩しながらも、完全には倒れず、ザリガーは前に進み、そのままゴール。
こうして、次回の戦いのメンバーが決まったのであった。
後日、順番が公平に周って来るように普通にローテーションを組んだ。このようなことを毎回してられない、という意見が一致したからである。
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