第11話 魔法使いミレイ

魔法使いのミレイさんがグリムを直してくれるというのに、グリムが怯えている。


『主……』

「どうしたんだい? いつもの元気がないじゃないか」

「ねぇ、どうしたの? 早く魔剣を貸してよ」

「いや! なんでもないですよ。はい、どうぞ。グリムって名前です」


俺は魔剣をミレイさんに手渡す。

すると、彼女は両手で優しく魔剣を持った。


「ふぅん……。これは、かなり強力な魔力を感じる魔剣ね……」

「やっぱりすごい剣なんですか?」

「ええ……。おそらく、魔王が持っていた剣の1つだと思うわ……」


その通りだ。

事実は言わないほうがいいのかな……。


「あなた、名前はなんていうの?」

「あ、俺はハヤトです」

「そう……。私はこの剣を直せるわ。しかもすぐにね」

「ええ? 本当ですか?」

「ええ、私に任せなさい」

「ありがとうございます!」


よかった。

これで魔剣の問題は解決する。


『主! 油断しないでください! 彼女は……危険かもしれません!』


怯えているグリムの声が聞こえてきた。


「大丈夫だ。俺は彼女を信じるよ。それとも、俺を信じられないかい?」

『いや、その言い方はズルいですよ。彼女が信じられないと言っているのに、主を信じているかどうかを確認するなんて。主を信じてはいるけど、主だって完璧じゃないですよね? 騙されそうになることだってあるはず……って、先ほどは聖騎士に騙されてましたよね?』

「グリム……俺が悪かったよ。すごい勢いで論破しないでくれ」

「どうしたの? 魔剣と話しているのかしら?」

「はい。話はつきました。直してください」


俺は彼女にグリムを預けた。


『主? 話はついていない……あああああっー!?』

ミレイさんが魔力を込めている。

「ほら、もう直った」

「え……こんなに早く?」

「短剣になっちゃったけど」

『あああああああ!? 主! 折れた破片を持ってきていないのですかあぁー!!』

「あ……ごめん、グリム。なんか色々あって……主にアリアさんだけど。どこかに落としちゃったみたいだ」

『これでは私は……魔短剣になってしまいます!』

「お! 新しい用語だね? それもいいじゃないか。じゃあ、シャルルリープを手に入れに行こう」

「魔剣とモメてるの? 大丈夫かしら?」

「問題ありませんよ!ありがとうございます」

「じゃあ、報酬をちょうだい」

「報酬?」


あ、当然そうなるか……。

いくら自由奔放な生き方を目指していても、報酬はあげなきゃな。


「おいくらでしょうか?」

「えっとね、その魔剣をね……」

「いや、グリムは魔短剣です」

『主! まだ私は認めてませんよ!? 自分が魔短剣であることに!!』

「えっと、その魔短剣をね……私にちょうだい」

「ええっ!? ちょっと、ミレイさん! グリムを直した報酬が、グリムを貰うことなんて……報酬って言わなくないですかぁ!?」


グリムに論破されたので、ミレイさんを論破することにした。


「嫌なのね?」

「はい。なんでグリムを欲しがっているんですか?」

「もっとふさわしい魔剣騎士にあげるの。偉大な魔剣をこんな姿にしてしまうなんて……あなたじゃ役不足よ」

「ええっ!? こんな姿にしたのはミレイさんじゃないですかぁ!? あと、役不足の使い方が間違ってませんかぁ!?」


俺の論破熱が冷めない。

いや、ただの訂正かもしれないが。


『主……こんな姿って言っちゃってるじゃないですか』


ごめん、グリム。

今はグリムとの話に付き合っている場合じゃないんだ。

むしろグリムを守るために口論しているんだ!


「いや……偉大な魔剣を折ってしまうような実力じゃ役不足という意味よ?」

「役不足の使い方が間違っていて、何を言いたいのか分かりません!!」

「だったら……実力行使よ!」


ミレイさんが襲いかかってくる!

またこのパターンか!!

俺は女性に戦いを挑まれる!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る