第12話 狩る闇の者

俺は酒場の外に出た。

ミレイさんが襲って来たからな!

全速力で走る。


「はぁ……」


疲れた。

俺はため息をつく。


「はぁ……」

『主! ため息ばかりついている場合ですか! ぜんぜん逃げられていませんよ! 基礎体力は低いのですから、お気をつけてください! まだ敵は近くにいます!!』

「え? ぜんぜんミレイさんの姿が見えないけど? な、なにを言っているんだ? 」


グリムに軽く煽られたような気がするが、そこはツッ込まない。

今は緊急事態だからな。

俺は周りを見回す。

夕焼けに染まる王都の街並みである。


「……誰もいないじゃんか」

「【闇影槍】」


突然、目の前に黒い闇の槍が現れた!

な、なんだこれ?

俺に向かって飛んでくる!


「うおっ!!」


俺にぶつかる寸前に、右手に持っているグリムを使って打ち消した。

危なかった。

周りを歩く人々からも悲鳴が聞こえる。


『やはり、あの魔法使いが近くに来ているようです』

「そういうこと」

「む……!」

「さぁ、早く。その魔剣を渡しなさい」

『断る!断る!断る!断る!断る!断る!主!危険です!』

「断る! グリムが怯えているんだよね。かつでないほどに!」

「……そう。まあ、いいわ」

「えっ!?」


一瞬で間合いを詰めてきた! 速い!


『主! 避けてください!』

「分かってるよ!」


俺は横に飛び退いた。

ミレイさんの蹴りが空を切る。


「逃さないわよ」

「なんだよ、もう……!」


自由気ままに生きて女の子にモテたかったのに……。

アリアさんに引き続きミレイさんにも襲われている。

俺はミレイさんから離れようと走り出した。

しかし、すぐに追いつかれる。

彼女は左手を振り上げた。


「【闇影鞭】」


また妙な魔法だ!

闇の鞭が現れて俺の足を縛ろうとする。


「うおっ! こんな魔法まで使えるのか!?」


俺はジャンプして回避した。

ミレイさんが俺の顔を見る。


「やっぱり……。あなた、すごく弱い」


むっ!

そんな言い方されるとイラッとしちゃうぞ?

ついに魔短剣グリムの力を発揮するときが来たか!!


『主!気をつけてください! 彼女は……彼女は……!』

「グリム?」

『主! 彼女は敵です! 逃げましょう! 誰も助けてくれません!』


確かに辺りからは人が消えてしまった。

みんな、この魔法使いの妙な魔法に恐怖したのか……。


「おい、グリム! 急にどうしたんだ! 落ち着け! 早く【破壊】のスキルを使うぞ!」

『彼女は危険です!』


グリムが必死になって既知情報を教えてくる。

俺の時間を浪費するのはやめてくれ……!

ぜんぜんスキルを使ってくれないじゃないか!


「フッ、かわいい子猫ちゃんだこと。早くその魔剣を手放すことね。私は人の魂の色が見えるの。あなたの魂の色は本来、白。それなのに黒色に侵食されているわ。そして、魔王の魂は漆黒の闇のように黒いのよ。この意味が分かるかしら?」


なんかスピリチュアルな感じになっている……!

騙されない! 騙されないぞ俺は!


『主! 落ち着いてください! 彼女の言うことは嘘です!』

「はぁ……はぁ……」


呼吸が乱れてくる。

汗が流れ落ちた。

俺の足が……止まる。


「どうしたの?……顔色が悪いみたいだけど」

「走ったからだよ! それより、俺からグリムを奪いたいなら、もっと強いスキルを使えばいいんじゃないのかい?」

「そうねぇ。じゃあ、見せてあげるわ」


本当の本当にヤバくなって、グリムがスキルを発動せざるを得なくなる作戦!

これでダメなら、俺の旅はもう終わりかもしれない……!!

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