第8話 聖騎士の仕事

まさか、アリアさんに限って……?

いや、でも、アリアさんがそんなことをするはずがない。

俺の脳裏を嫌な予感がよぎる。

俺は宿屋を出た。

どこだ……どこにいるんだアリアさん!!

見渡してみても道にはいない。

露店のほうも探したけど見当たらない。

路地裏は……いた!

そこにいたのは、グリムを必死で壊そうとしているアリアさんだった……。


「アリアさん!」


俺は慌ててアリアさんの元へ駆け寄った。


「どうしてこんな事をしているんですか!」


カナヅチで叩き割ろうとしている。

聖騎士なら剣で破壊してそうなものだけど。


「だって、魔剣は危険な物です」

「いや、大丈夫ですから! むしろ、直してくれないと困りますから!」

「そんなはずはありません!」

「あるんですよ!! 聖騎士として見過ごせませんね!! 絶対に!」


ダメだ、話が通じない。

どうしよう……。


「私は魔剣を……壊します!」


アリアさんが自分の剣の柄を握りしめた!


「ホーリーソード!!」


アリアさんの剣が眩しく光った!

攻撃するんだな!?


「壊れろ魔剣!!」


俺はグリムを手に取り、ホーリーソードから回避させた。


「何やってるんですか!」

「あなたこそ何してるんですか! その剣を渡しなさい!」

「それはできないです!」

「なぜですか!」

「俺の命を守ってくれる大切な相棒です!」

「嘘つき! 魔剣はそんなものじゃありません! さっきまで嬉しそうに独り言に没頭してましたよね? 魔剣と喋っていたんじゃないですか!? きっと、洗脳されているんですね……」

「違いますよ!」

「私が必ず救ってみせます。覚悟していて下さい……」


アリアさんが俺に斬りかかってきた。

速い! 避けきれない! 俺はグリムで受け止めるが、押し切られて後ろに吹っ飛んだ。

強いな、アリアさん。


「くっ……」


俺は立ち上がって構えた。


『主、私を使って戦ってください』


また話しかけてきた。


「グリム、お前、起きていたのか?」

『はい。なんかヤバいのに絡まれてましたよね。私』

「抵抗しろよ!」

『いや、主がいないと何もできないんですよ。私』

「そうか……」


アリアさんが近づいてくる。


「また独り言……魔剣と話していますね?」


彼女との会話は意味を成さない。


「やるぞ! 破壊のスキル! 手加減で!」

「きゃあっ……!?」


黒い衝撃波によりアリアさんが道のほうまで吹っ飛んだ。

けっこう派手に吹っ飛んだぞ!?


「グリム、手加減……した?」

『しましたよ。血は出てないはずです」


血が出てなければ大丈夫ってわけじゃないよ……。

さてはカナヅチでガンガン叩かれて怒ってるね?


『あのヤバい人間を気遣ってないで、私を気遣ってください、主』

「ごめんごめん! でもさ、聖騎士が魔剣を壊したい存在なのであれば教えてくれよ。この世界のそういう設定というか因縁みたいのは知らないからさ、俺は」

『主、ひどい……。私だって完璧ではない』


え……グリムはポンコツなところがあるのかもしれない。


『主こそ色気に引っかかって、終始デレデレで求婚までしてフラれて騙されて情けない……』


え、スリープモードじゃなかったの?


「グリム……お、起きてたな!?」

『早く仲間の魔剣シャルルリープを探しましょう』


スルーされた。

グリム……そういうところがあるぞ。

あれ?

グリムが眠ってないと、俺の魔力が吸い取られてるんじゃなかったっけ?

早くシャットダウンしてもらおう……。

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