第16話 ハーゲンティの在り方

第16話


「ま、参りました。ぐふっ、わ、私の負けです。」


腹を貫かれたハーゲンティは力無く近くの木に倒れ伏す。

そして、血を吐きながら宙を見上げていた。


「はぁはぁ、慣れない事をする物じゃないですね。定期報告に来ていたのが私だけしか居なかったとはいえ、とんだ不幸です。」


慣れない、これで慣れないのか………


確かに魔王の奴には一切手出しも出来てなかったが、それでも強い能力だったと思う。


「はは、褒めてくれてありがとうございます、アーク様。」


────何か、さっきからナチュラルに俺の心を読んできてない?


『読心は乙女の標準装備じゃ。』


えぇ………


『………そろそろ、時間じゃな。元に戻るぞ。』

「えっ、あっ、戻った………」


自分の考えで身体が動くのって、結構幸せな事なんだな………


助けて貰ったとはいえ、やっぱり違和感や不快感が凄くてな………


『次からは自分で何とかできる様に鍛えてやるからのう、アーク。』

「そうなのか?」

『ああ、お前さんはもう後には戻れないだろうからな………』


後には戻れない?


それはどういう………


「はぁはぁ、それはアーク様自身が我々に狙われているからですよ。」

「ハーゲンティ!?」

『何じゃ、あっさりと話すのか………』


はぁ、何で俺が狙われてるんだ!?


というか、それをお前は話して良いのか!?


「────私はハーゲンティ。この名が仮初めの名だとしても、私はハーゲンティとしてこの世界を生きてきた。」


虚ろな目で、俺を真っ直ぐ見つめるハーゲンティ。


彼女は血を吐きながら、話を続ける。


「私は人に寄り添い、人に富を齎す悪魔だ。だから、最後にその役目だけは果たしたい、唯それだけです。」


そう告げると、彼女の手が光り出す。


そして、彼女の手が触れた場所から真っ直ぐ金の道が開かれていった。


「はぁはぁ、アーク様。この道は近くの町まで続いています。私が死んで少し経ったら消えてしまうので、お早めに。」

「よく理解わからない事ばかりだ。俺を襲って来たお前にこれを言うのもアレな気はするんだけどよ………」


でも、俺はコレを言わなきゃいけない気がするんだ。


「────ありがとう。」

「えっ!?」

『おいおい、罠かもしれんじゃろうに、馬鹿な奴じゃのう………』


煩い、そんな事は理解わかってるよ。


でも、何となく、何となくだけど信じてみようと思ったんだよ。


「ははっ、流石ですねアーク様。────なら、私も少し頑張りましょう。」


そう呟いたハーゲンティは、少し震えながら立ち上がり、俺に近付いていく。


『おい、危ないぞアーク!?』

「大丈夫だぞ、魔王。」

「ええ、安心してください。少し死ぬ前にアーク様の顔を拝みたいだけです。」


彼女はそう言い、俺の顔を優しく挟んでくる。


彼女は俺の顔をマジマジと眺め………


「成る程、あのお方が貴方に一目惚れしたのも理解わかります。」

『やはり、か………』

「もしかして、俺が狙われてる理由ってソレが理由だったりする。」

「はい。私が殺られた今、他の奴等も黙ってないでしょう。間違いなく次々と刺客を送ってくるでしょうね。」


マジか、面倒だな………


「まぁ、アーク様なら大丈夫でしょう。私はそう確信しております。」

「そ、そうか………何か変に信頼が厚いな、俺………」

「ええ、私達はあのお方や創造主も含めて、愛する存在には盲目的なのです。」

「へっ、ソレって………」

『けっ、色ボケ共め………』


────何かチョロくない、この人!?


最早、経緯が理解わからな過ぎて、怖いレベルだぞ!?


「最後にコレを………」

「コレは………瓶?何か入ってるし………」

『毒じゃ!絶対に毒物じゃ!!』

「私特製の高級ワインです。お好きな時にどうぞお飲みくだ────さ───い──」

「ハーゲンティ!?」


そう告げた瞬間、彼女は急に倒れた。


いや、急な話ではないか。


そもそも、先程まで喋れてた方が可笑しい話なんだ。


「ア────アーク様の人せ────に幸があ─────ん事──────」


もう何を呟いているのか理解わからない程に声が小さくなっていく。


────本当にありがとうハーゲンティ。


コレで俺を襲った事はチャラにしとくよ。


「行こうか、魔王。」

『────ああ。』


続く

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