第8話 彼女が旅立ってから…

第8話


ミリスが旅立って1、2週間後………


「寂しいなぁ………」


彼女が旅立ってから何度もこう呟いた。


寂しい物は寂しいのだ。


感情は止められないし、どうしようもない。


「気持ちは理解わかるわ、でも何回も言い過ぎよ。」

「痛っ、ご、ごめんよ、母さん………」


そして、最近はよく母さんに叩かれる。


まぁ、腑抜けた感じになっちまってるから、仕方ないよな………


「全く、そんな姿じゃミリスちゃんに合わす顔無いわよ?」

「うっ………」


何も言い返せない。


「はぁ、仕事行ってくる………」

「頑張りなさいよ、アーク。」

「分かってるよ、母さん。」


こういう時は直ぐに退散するに限るな………


☆☆☆☆☆


ミリスが旅立ってから1年後………


「はぁ、寂しい………」


朝ご飯を食べながら、滅多に来ない新聞を読みながらそう呟いた。


「ニヤニヤしながら言っても説得力無いわよ。後、普通に気持ち悪いわ。」

「ぐっ、仕方ないだろ………」


俺が読んでる新聞にはミリス、もとい勇者パーティーの活躍が書いてあった。


どうやら元気にやってるらしい。


最近出来た写真機という魔導具を使った絵からもよく理解わかる。


巫女様と知らない女と一緒にピースしているからな………


巫女様、ちゃんと約束を守ってくれてるんですね…


それはそれとして………


「これが異世界の勇者様、か………」


普通にカッコいい奴じゃねぇか………


でも、何か優男そうで嫌だな………


「こら、変な嫉妬しない!」

「痛っ、理解わかってるよ母さん。ミリスは簡単に靡いたり、俺を裏切ったりする様な奴じゃない。」


でも、不安な物は不安なんだよ!!


「なら良いわよ。ほらさっさと食べて仕事に行きなさい!」

「お、おう!」


☆☆☆☆☆


ミリスが旅立ってから2年後………


「寂しいなぁ………」


久し振りの休日、家でのんびりしながらそう呟いた。


「ごほっ、またそれ?せめて、私が居ない所で呟いてよ………」

「ああ、ごめん。いや、それよりも大丈夫なのか、母さん?」


最近、俺の母さんは風邪気味で、ちょくちょく咳き込んだり、寝込んだりしている。


というか、村全体でそういう人が増えてきているのだ。


少し嫌な予感がするな………


「ほら、新聞よ。さっき来てたわ………」

「ありがとう。………成る程ねぇ。」


新聞には勇者パーティーが魔王が従える四天王の一人とぶつかるらしい。


少し心配だ………まぁ、俺には無事を祈る事しか出来ないのだが。


「ごほっ、ミリスちゃんの事は書いてあったかい?」

「うん。………それよりも、そんなに咳き込むならさっさと寝ろよ、母さん。」

「でも、動いてないと落ち着かないのよ。」

「ワガママ言わない!ほら!!早くベッド!!!」

「ごほっ、理解わかったわよ………」


☆☆☆☆☆


ミリスが旅立ってから3年後………


「寂しいなぁ………」


俺は家で一人そう呟いた。


────その言葉に反応する声は無かった。


「仕事、行くか………」


────この言葉に反応する声も無かった。


「行ってきます。」


────勿論、この言葉に反応する声も無かった。


当然である。


何故なら、少し前に母さんが流行り病で死んだからだ。


他にも知り合いの村の人達も死んだ。


「寂しいなぁ………」


────ああ、一人ってこんなにも辛い物なんだな。


続く

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